よみびとしらず。

あいどんのう。

つごもり

2018-09-30 10:20:43 | 詩(M)
淡く降る雨 傘のした 世界はやわらかく色づきはじめて 入口の向かう側では鈴虫が一斉に鳴いていた 薄墨色に染まる木立は 影と形の仕切りなく ただ静かに雨を受けいれ すべては解け合いひとつとなった 交差してなお一筋の道を目指して 道は光となり天に昇り 泣いていた誰かの頬をやさしく照らす 水のぬくもり あたたかき血潮 巡りめぐるものに包まれて この手の平に触れる先のありかを いつかまたお会い . . . 本文を読む

RAINY

2018-09-29 17:59:36 | 散文
雨まとい身を隠し 水音にまぎれて本音をこぼれ落つ かつてみた故郷は遠ざかり 夢のなかでも再会は果たせず 誰も知ることのない思いを抱えてひとり 幾度もの夜を繰り返す 夜明けに希望は重ならず 誰もが知っている胸の痛みを 本当は誰も知るすべもなく ただ堪えて震えて 時を待つ 鈍感になることで身を守り たとえ見えない傷が増えようとも 傷口からあふれる涙に気づくこともなく ただひたすらに明日だけを睨みつけて . . . 本文を読む

ring

2018-09-27 18:18:07 | 散文
ヘビとウサギは絡まれて 蛙はヘビに睨まれた ウサギはワルツを踊ることもなくただ堪える ウサギの怒りをとかねばと ネズミは根を駆け龍起こす 龍の咆哮(ほうこう)に地は震え 木にとまる鳥は飛びたった キツネは鏡のなかひとり 夜の闇包まれて心を忍ぶ タヌキ狸寝入りもせず勇敢に 飛んだ鳥あと追いかけて木に化けた 化けた木に飛んだ鳥のとまる頃 雨は降りだしてヘビは去る 蛙はその場から動けずに 雨に濡れる頬濡 . . . 本文を読む

明星

2018-09-26 15:15:35 | 散文
たとえ血の雨が降ろうとも あの日教わった戦い方に刃は伴わない 落ちた涙雨はたおやかに 渇いた大地は湿り気をおび 緑は少しずつ色を変えていく 腹のなか廻るおもいは混濁なれども いつの日かあの空へと放たれて 灰色の雲の重なりからは 透明な雫があふれだす 空にあるはずのあの明星は 胸の痛みのすぐそばに たとえ夜の闇に終わりなくとも また始まりの朝が私を迎える ぐるぐる酔いどれ目眩き 赤き明星は . . . 本文を読む

秋の虫

2018-09-25 12:50:05 | 散文
トンボ飛ぶ 僕だから 秋の空 バッタも負けじと カタカタと 空を舞う 草のなか 夜鳴く姿なく 誰かさんは誰かさんへと チンチロリン 暑すぎた夏に出番なく いざ出陣と猛る蚊に 蚊取り線香 虫の息 . . . 本文を読む

救い主と女性

2018-09-21 17:33:35 | 夢日記
とあるところに救い主とその救い主を蘇らせた女性がいた。 蘇った救い主はその後たくさんの人たちを救うこととなり、救い主を蘇らせた女性は生涯ただひとりの従者として、ずっと救い主のそばにいた。 長い長い放浪の末に、救い主の寿命も尽きるころ、救い主はその女性に対して最後にこう言った。 「これで…貴女の罪は少しでも赦されただろうか」 その言葉をきいた彼女はこう言った。 「私は罪など犯してはおりませ . . . 本文を読む

うみ

2018-09-20 14:12:09 | 散文
ねじれた先に波は立ち 海はただ一身に港を目指す 母待つ家路へ急く子の如く かなしみの涙にあふれても 母は諸手を広げてすべてを受けとめる その慈愛に抱かれて 眠る子癒す子守唄 海もまた時に母恋しやと ただひとりではないと知りたくて 駆ける波の音ごうごうと ただ会いたくて会いたくて けれど港に母はなく 母の御胸ぞいまいづこ 凪ぐ海の音はつらつらと 涙とけこむ海の水 . . . 本文を読む

2018-09-19 18:11:04 | 散文
歯をみがいているとぼろぼろと12本歯が抜けた。 はじめに気がついたのはじいちゃんだった。じいちゃんはにかっと笑って「歯抜け仲間だのう」と喜んだ。 わたしは口に手をあててどうしようどうしようとうろたえた。まだ若いのにこんなにも歯が抜けてしまうなんて。これからどうすればいいんだろう。どうしよう。どうしたら。どうしよう。 涙目で口に手をあて、うろつくわたしに母が声をかけた。 「あんたの抜けた歯、そ . . . 本文を読む

かめ

2018-09-18 14:41:08 | 散文
透明な亀に贈る詩 真昼の月を見上げる亀は 真昼の空にあるかなしかのその月を 入り江の入り日におとしめて 月なし夜に泣き濡れば 目からあふるるうたかたの 海の底から祈りをこめる 逆さまの蝶々に自由と安らぎを 太陽のどんなに輝こうとも この場所に光は届かない 月の行方はみんなが知っていて知らん顔 地上ではフクロウが鳴いている 風のふるえに耳すまし あおい水面の奥深く 亀の涙に祝福を . . . 本文を読む

ふるべうた

2018-09-15 21:33:07 | 散文
カラスは約束の歌を目指して海に落ちた それを嘆く鯨は丘にあがり太陽の行進を日々眺める 飛ぶことを思い出した兎は月を追い 狐は嫁いで鏡(きょう)に入る 嫁いでとまった狐の便りに 蛇は牙をむき暗闇を睨み 老木に住む龍は瞳を閉じたまま 動くことなくただ雨が降る 土に濡れた蛙の跳ねる頃 神楽はようやく面(おもて)をあげて 鈴の音にあわせて人魚は歌う 火の粉舞うなか天狗舞い 太鼓の鼓動は鯨に眠る 太古の . . . 本文を読む

雨と蛇

2018-09-14 14:41:09 | 散文
空に浮かばない雲のしたから降る雨は 天に昇って月に雨 月濡らす雨雲は空仰ぎ 「私もそこへ行きたい」と 天の川語りかけるも言葉通じず 雨雲に隠された顔には涙 よく知っているその顔は 他とはちがう悲しみに 誰ひとり気付くことなく貴方は湛える(たたえる) 空かける月に雨 誰かの涙 涙雨 その濡れた瞳が恋しくて いつまでも泣いていてほしいと願う 蛇わらう わらう蛇めがけて放たれた 月の光衝くも雲隠れ . . . 本文を読む

みどりの怪物

2018-09-13 14:22:51 | 散文
あるところにみどりの怪物がいた。 みどりの怪物のからだはとても大きく、乱暴者で、村人たちはみんな困り果てていた。 ある日のこと、この村一体をはげしい雷雨が襲った。大雨は三日三晩降りつづき、村はいたるところで水びたしになった。もうこのままでは村はおしまいだと誰もが思ったとき、みどりの怪物が村の真ん中にあらわれて、自らの根をしゅるしゅると大きくのばし、水をぐんぐんと吸いだした。 みどりの怪物はどこ . . . 本文を読む

promise

2018-09-10 14:35:38 | 散文
山桜にささる灰色の雲は 青色の空とは裏腹に 月は隠れた雲の向こうに どこまでも続く雲海を 黒色の月はひとり泳ぐ 雲海の底から雨は滴り(したたり) 世界は水の重ねをたたえて歌う 底から鳴り響く歌の音に 月は明るさをとり戻し 白色の月光はやがて雲間から ひとり泳ぐ闇夜から舞い降りて水鏡 あの日重ねた小指の約束を 痛みを解き放ち再会を誓う 今宵こそはと 雲の海地の海たえまなく 袂を分かたれた水の音 . . . 本文を読む