よみびとしらず。

あいどんのう。

金魚〜5月14日

2017-05-31 12:00:21 | 散文(ぶん)
小さなまるい宇宙のなかで水草と戯れていたある日、神様がわたしの元へとやってきて金魚のままでいるか人魚になるか人間になるかどれがいい?と尋ねてきた。わたしは考えるまでもなく「金魚のままがいい」と答えたら神様はおずおずと、「人魚や人間も、そう悪くはないんだよ」と言った。わたしは神様の顔をじっと見つめた。神様はうつむいて、あおく透明な水のなかで静かにたゆたう自分の白い服のそでを、ずっとつまんだりにぎりし . . . 本文を読む

鳥と魚〜5月28日

2017-05-30 10:33:46 | 散文(ぶん)
ある日の出来事。鳥と魚の店で、わたしは鳥を買い求めた。手にいれた鶏の喉の鳴る音を聞きながらその店の前にあるベンチでくつろいでいると、赤い服をきた少年がやってきて、はっきりとこう述べた。「ぼくは魚がほしい」けどもその店では、もう魚は扱わなくなったらしい。店主の説明する声が風のあいだから聞こえてきた。鳥と魚の店の本部より、いまある魚の在庫が尽き次第、今後の魚の取り扱いについてはおのおの店の判断に委ねる . . . 本文を読む

亀と月

2017-05-27 11:22:52 | 散文(ぶん)
まるいお月さまに恋をした亀がいた。どうしても一緒になりたいと一所懸命亀が願うと、お月さまのかけらが亀のいる池までぼちゃんと落ちてきた。「こんなにもわたくしのことを想ってくださる方がいらっしゃるなんて。どうか幸せにしてくださいませね」お月さまのかけらはつつましい表情と声色でそう言ったが、亀はこれを拒否した。「ボクが恋しく思うのはあの空でまんまるく輝く豊潤なお月さまであって、そんな貧相な体つきのお前じ . . . 本文を読む

【握手】

2017-05-25 12:21:15 | 
自由の代償として与えられたのは不条理なぬくもり そのあいだに満つるは どこまでいっても届かない世界 重なり 触れて 振るえて 産まれる 不確かで確かなあなたが いまここにいる . . . 本文を読む

2017-05-21 11:00:36 | 散文(ぶん)
きつねどんとたぬきどんはたいそう仲が良い。きつねどんの誕生日、たぬきどんはみどりの玉をきつねどんにプレゼントした。きつねどんはおおいに喜び、たぬきどんにお礼を言うとそろそろと大事そうに懐にしまって、家に帰った。家に着いてからそのみどりの玉を取り出すと、みどりの玉はあかい玉になっていた。きつねどんはおおいに慌てた。大切なたぬきどんからもらった大切なみどりの玉があかい玉になってしまった。たぬきどんにば . . . 本文を読む

【ほんたうのくらやみ】

2017-05-19 07:37:44 | 
ほんたうのくらやみは 自分のなかにあるのです ほんたうのくらやみは 宇宙のかたすみにあります ほんたうのくらやみは わたしのなかにあります ほんたうのくらやみは あなたのなかにあります ほんたうのくらやみは わたしとあなたの あいだにあります ほんたうのくらやみからみれば わたしもあなたも 宇宙のかたすみもおんなじです みんなおなじく ほんたうのくらやみのなかで どうしても消えずに . . . 本文を読む

カントリーロード

2017-05-15 22:00:51 | 散文(ぶん)
モリナガヨウコはなんにもない田舎道を歩いていた。すると向こうから、桜の花柄の布をあしらった日よけ帽子をかぶったおばちゃんがやってきて、モリナガヨウコとすれ違いざま声をかけた。「あんたね、この道にはたまに男のひとがいるんだから、気をつけなきゃだめよ」モリナガヨウコは突然の警告に戸惑いつつも、ありがとうございますと小さく口にして頭を下げた。またしばらく歩いていると、今度は煙草をふかしたおじいちゃんが古 . . . 本文を読む

コザル日記

2017-05-11 23:08:45 | 散文(ぶん)
1月15日 はれジアゲヤという生きものがやってきて、あっという間にぼくたちの住むまちをめちゃくちゃにして、帰っていった。おとなりさんのオランウータンは、夜みたいなめんたまですべてを見ていてそのあとゆっくり、そのめんたまを閉じていた。おむかいに住む大きなゾウはそのハナいっぱいに水をすいこみ、ちから強くはきだしていた。とおくのほうに見える小さなトリたちはノドをふるわせ、いっしょうけんめい歌をうたってい . . . 本文を読む

手〜5月3日

2017-05-06 10:35:09 | 散文(ぶん)
最近、手がちょくちょく家出をする。手が家出をすればワタシにはそれが使えなくなるので、たまったもんじゃない。至極不便である。ある日もういいかげんにしてもらいたいと、なぜ家出をするのか家出をしてどこへ行っているのか、手に問いただした。すると「千手観音様のお手伝いをしています。どうしても行かねばならぬのです」と心苦しそうに手は述べた。そんな千本も手のあるやつのところならばその一本や二本、多少欠いても構わ . . . 本文を読む

まめきち〜4月30日

2017-05-03 08:24:54 | 散文(ぶん)
まめきちを見かけたのは、駅前の喫茶店でアイスコーヒーをすすりながらぼんやりしているときだった。駅前のロータリーでひとりたたずんでいたまめきちは、わたしの視線に気がつくと嬉しそうにこちらへやってきた。外の景色は目がつぶれそうなくらい眩しくて、まだ四月なのに夏みたいな陽気だった。まめきちは小さなハスの葉を日傘がわりにさしていた。いつから着ているのか分からない渋茶色の着物にはきふるした草履。豆みたいなか . . . 本文を読む

龍角散のど飴〜4月27日

2017-05-01 20:28:39 | 散文(ぶん)
あさおきたらのどがいたかった。今日は移動の日だからぐずぐず休んでいるひまもない。のどの痛み以外は元気なからだを右へ左へと気だるく動かして、荷物をまとめた。茶色の鞄とウズイス色の鞄が出来上がった。Kの都をたつまえに龍角散のど飴を手にいれ、口にふくむ。11時22分発の列車は、11時10分頃には駅のホームにやってきた。列車がうごくのを車内でまっていると、ふと両の手のひらがあつく、熱をもっていることに気が . . . 本文を読む