よみびとしらず。

あいどんのう。

ふたつ

2020-08-31 10:59:51 | 散文
ふたりのひとりはひとりにひとつずつ与えられた命をもってそれだけでは不十分だとどこかをさまよう為の手足を携えた欠けたままのわたしはなにが欠けているのか分からないまま欠けっぱなしでなにが悪いのだと責める相手もない空をにらんだにじんだ空から落ちる雨音を耳にしたあなたは欠けているあなたに頓着もせず世は並べて事もなしと雨の恵みに微笑んだ巡り合わずとも満ち足りた夜とめぐり逢いて悲観した明日は同じ場所にあって気 . . . 本文を読む

ナイトメア

2020-08-30 11:43:49 | 散文
再会を果たしたその夢のなかわたしの姿は化け物であなたの姿は別物で勇気がないことを言い訳にしてわたしはあなたの手を取らずあなたはわたしを置き去りにした助かりたくて助けたくてそれなのに臆病者の瞳には真実の姿はうつらない歪んだ世界にひとりではなかったわたしたちは頑ななこころに囚われてせっかく出会えた宇宙の片隅に大切な者たちの姿は歪みわたしはあなたを救えずにあなたはわたしを認識できずただ夢から醒めるのを待 . . . 本文を読む

夜の熱

2020-08-28 09:18:11 | 散文
夜の熱はこもるその内側に籠の中にある太陽の眩しすぎる光は日が落ちてなお身体の火照りはあなたの色に染められたその朱色の君に触れた夜なんにも覚えていないと嘯(うそぶ)いた行き場を失った夜の熱、は逃げ道も塞がれて四方八方どこにも放たれず内に秘められて居場所なぞ誰が教えてやるものかと瞳を閉じた夜のはじまり夜ははじまりわたしたちは静かに落ちていく夜の熱に似たあなたは光夜のなかに溶けこむたとえその姿みえずとも . . . 本文を読む

トロール

2020-08-26 09:52:58 | 散文
夢からも現実からも遠ざかったあなたはほんとうの居場所へと旅立ったどこにでもあってどこにもなくてだからみんな居場所がないといっせいに泣きだした産まれ落ちた瞬間に全てを忘れてもう一度出会って育みあったたいせつな言葉だけは教えられないまま目の前にいるあなたにも気付かずに教えられたのは鈍感なまなざしと姦しい世の中で耳をふさぐため与えられた掌(たなごころ)マスクを施(ほどこ)した口のなかで呼吸はめぐるこの両 . . . 本文を読む

ふたり

2020-08-25 10:38:21 | 散文
寝て、起きて起きて、寝てとを繰り返しどちらが寝てるか起きているのかよく分からなくなったぼくの身体に朝日は差し込みふたつを分ける朝と夜とを夢と現実をぼくとあなたとを分け隔てられてそれが正解でだけど切なくて呼吸は続くかなしみを背負っているばかりではないことを産まれる前から知っていたぼくたちの世界に光ある事実を突きつけられた身体は起きてわたしは眠るいつか夢みた眠り姫の口づけに花の香りはかそけく漂いすぐに . . . 本文を読む

そら

2020-08-24 13:03:46 | 散文
空に似た色を探して海に出たわたしは海の水をさらえども手のひらの中にある水は透明で空とは違う色だった空に似た色を探して水に色を溶かして空色に染まった水は重たく透明感のないただの色水空とは違う色だった空に似た色を探して空虚なこころは灰色の雲にかたく覆われたその雲の向こう側にきっとあるはずの空に似た色に辿り着くまで空に似た色を探してわたしを見つけて空と同じ色した清らかな朝(あした) . . . 本文を読む

なみだの舟

2020-08-23 10:11:12 | 散文
なみだの舟は海を目指した塩辛いなみだの故郷へと川を下って行き着いた先は夜空の月だったまるで知らない景色に舟は自らの意思で月を下ったここにいれば傷つくこともないと引き止める月の声も聴かずにそこにある美しい世界を放棄して荒波に猛る海を目指したなにがそうさせるのかは舟にも分からずただただ惹かれてしまう引力に従いてやがて舟のなみだも枯れ果ててなみだの舟はかたちを変えて月の舟になりて夜空を駆けるいつまで経っ . . . 本文を読む

FACT

2020-08-22 00:31:27 | 散文
恨みたいのは世界じゃなくて自分がこの世に生きていること損をして蔑ろにされて痛い目にあってそのたびに疲労は蓄積していきそうして産まれた濁った澱を自らを否定する理由にしていたすみわたる水の流れが目の前にあったとて自分にはまるで縁のないものだとただその美しさを賛美した出来あがった壁はうず高くこの内側には誰も踏み込ませない覚悟だけを決めてわたしはどんどん地下へともぐるタナトスの夕べに辿り着くまで自らを否定 . . . 本文を読む

なみだ

2020-08-20 12:13:53 | 散文
涙は瞳を熱くしてあなたの身体も熱をもつ冷たい感情からこぼれ落ちた涙のそのぬくもりを厭うたわたしは愛しい気持ちの在処も知らずにただはらはらと涙は落つるその美しさに魅かれたあなたはけれど少しの手出しも出来ずにただ立ち尽くした雨のなかいつかは降り止む空を睨んで自分の生きる意味を問いただす悔しくなんかないと目に滲む涙はこぼれ落ちることもなくあなたに留まったそのぬくもりを内に秘めたあなたは涙の在処など知ろう . . . 本文を読む

ハチ

2020-08-19 15:29:10 | 散文
あなたは後ろから(はじめから)わたしを追いかけてきて蜂が止まって刺さずに去った懐かしい匂いに誘われて元のあなたとは違えども交わした逢瀬の歓びを太陽だけが知っていた息を切らしたあなたの影に汗はしたたり水面は揺れる暑い夏の日は遠くにありけりいまも昔も居場所を知らずに蜂は羽音揺らして歌うたういつかあなたがみた歓びを月は夜に隠して夢をみた蜂は刺さずに居場所を告げていまここにある、暑い夏の一日 . . . 本文を読む

2020-08-18 10:51:13 | 散文
水の流れに委ねた身体は溺レて河童の川流れ水の流れに委ねた身体は沈んで巌(いわお)は削れた砂となりさらさらと誰の目にも触れぬ身体は風に流されて空に焦がれてそれでもいつかは誰かに触れる導かれる引力にどこまでも抵抗したがったあなたは水となりあなたの身体はあなたの水に包まれて溺れていったどんなにもがいても掴めないあなた自身を取り込んだ身体はあなたを循環し忘れることにしたこととしなかったことはおなじ場所で昼 . . . 本文を読む

Apple

2020-08-14 08:56:34 | 散文
言葉の連なりのより糸の手繰り寄せれば赤色に染まり夕暮れ時の茜空、はただあなたに会いたくて頬染める恥じらいと同じ色した林檎を罪の意識なき果実と思えば蛇は地を這いてするするとあなたの懐(ふところ)に唇よせたその首の白き柔肌に牙を剥(む)けんと憎しみは涙になりかわり空は滲(にじ)んだ林檎を囓ったその赤色にわたしの思いは届かない林檎と共に呑みこんだ言葉の真意も知らないままのあなたは変わらず涙を湛(たた)え . . . 本文を読む

GOAL

2020-08-13 14:10:34 | 散文
元へ帰れと誘われて帰り道知らずに黙りこんだふたり遠い日に眺めた夕焼け小焼け赤く染まる空は夜へと落ちていきはじまりの場所は何処(いづこ)へとそんなことも分からずに足を踏み出したのはあなたと出会うために再びはじまった終わりへと誘(いざな)うはじめの第一歩 . . . 本文を読む

驟雨(しゅうう)

2020-08-12 00:56:07 | 散文
問うべきか問われるべきだと徐(おもむ)ろに降り出した雨のしたあなたは傘も無く定まらぬ個体は濡れそぼつあなたに傘を差し出したいと居場所求めるあなたを探した驟雨は音をかき消してあなたの気配はいよいよ深まりあなたの在処はもう何処にでもあるのだとわたしの衣に水は滴るあなたに傘を差し出したかったあの日と同じ雨の匂いにわたしの在処はぐらりと揺れた定まらぬ個体は濡れそぼつ傘を持つあなたに傘を差し出したいと傘持た . . . 本文を読む

2020-08-10 10:28:04 | 散文
ここにいる意味など何もないと雲は流れて何処へなりとも流浪する時の流れからも切り離されて昨日と今日の区別なく明日に漂うは1000年前と同じわたしだと誰ひとり知らぬ現実を空に留めたここにいる意味など何もないのだと雲は流れて主張する太陽は陰りて雨は降り風の吹きてやがてこの空の青さは顔を出す天の気のはざま天と地のあいだ何処にも属さないことだけを遵守(じゅんしゅ)して雲は流れるわたしはわたしとわたしではない . . . 本文を読む