かこにもんどりうった亀の背はさかさま
飛ぶように泳いだ海に別れを告げて
さかさまな視界はさかさまなまま
ときの海を渡りつちに棲む
あやふやな眼差しがとらえたものは
赤色とあお色の格子して
ふた色の明かりがともされようとも
わたしはここから離れない
雨のなかで照らされた
あの鏡はわたしをうつすことなく
水はしずんだ
猫はあまやどりして君を待つ
そらにのぼったお月さま
全てをみすえた
見向きもせ . . . 本文を読む
水からあふれた光は踊る
とまどいながらも
ひかりを目指して
行方もしれず
居場所もしらず
それでもとどまるためしなく
おそれず進め
美しき調べはすでに知っていた
理(ことわり)を越えた先で思いは爆ぜる
explosion
それすら内包した揺らめきのなかで
水はあふれて光は踊る . . . 本文を読む
右にかたむく痛みあり
かけおちたしずく尾根に届くまで
夜をかけるもたどり着けずに朝日はのぼる
冷たい水の恋しくて
すみわたる空にその色をうつすも
この手に水の音沙汰なし
童女(わらわめ)の瞳はじっと見つめて
やわらかくほほえみ母に手をのばす
のばされた先のぬくもりに
太陽は熱をおびさらに輝きて
さくら色の季節を大地に照らす
風の音(ね)に
どこまでものぼりゆく龍の咆哮はかきけされ
おだやかな木洩 . . . 本文を読む
閉じた瞳に隠されたのは
太陽のかげ
水のめぐみにはりめぐらされて
身動きもとれず
暗闇と瞳は同化され
逆さまのわたしを誰も知らない
うつしだされる世界の手前で
おいてけぼりにされたわたしの姿は
どこまでもあなたの世界にはうつらずに
閉じこめられた
瞳を閉じてもわたしのかたちはどこにもない
せめてこのいのちが嘘であったなら
怯えることもなくすんだのに
傷つくこともなくすんだのに
たとえそれをどん . . . 本文を読む
あつくかけたたいように
ぼくは月のかげ
熱をさまして荻を縒(よ)る
猫は立ちて眼差しともり
寝子もまた発ちて真名(まな)指しもどる
根断ちたマナは刺さりて悖(もと)り
あかりはなくとも
そこに現るひかりとかげ
ひとは歌いかぜに舞い草木はねむる
分かたれたふたつがひとつに出会うまで
ぼくは日のひかり
おなじいのちにともされた
あかりなくとも
暁はのぼる
世界の果てにあろう . . . 本文を読む
ヘビにかまれて夜は泣く
雲は夜の涙うけとめ雨をなし
親子はあまみず汲み取り糧(かて)とする
ひと助(たす)くタヌキをキツネは見守る草のうえ
夜の涙は大地にしみいり
世界は感情と水に包まれる
誰も気づかぬ誰かの涙は
夜にかつての痛みを知らしめて
暗闇はむかしみた涙に音もなく寄り添い
誰に気づかれることもなく ひとり泣く
水めぐる世界に降る雨の
かなしみの泉はそらの果て
はじまりの場所も忘れてしま . . . 本文を読む
月の降る夜に さやさやと
黒色のみどりは風にゆれ
舞い散る月のかけらに少しおびえた
月の降る夜に ゆらゆらと
沼のそこ眠る魚は光につつまれ夢をみる
月の降る夜に かなしくて
降る月の姿に気づくこともなく
暗闇にひたりひとり
かのじょは泣いていた
月の降る夜は きらきらと
こぼれ落ちた光に思いは触れて
わたしは光のかげに引き寄せられた
美しきことのはかなさを
かげは色ふかく落としこみ
夜は静 . . . 本文を読む
ねむるなまずにいたずらするよ
カメはあわててにげだした
ねた子おきるなおころりよ
ひびくうさぎの子守唄
おだやかな歌声になまずはねむる
ゆらゆらゆらめく水のそこ
うさぎはなまずにらくがきを
ねんねこころりよおころりを
なまずや良い子だねんねしな
ゆめのなかいっしょにあそびましょ . . . 本文を読む
長い長いトンネルは地下へともぐった
本当の姿はだれにも伝わらず
曲がりくねったトンネルの先に光を求めて
活発化するトンネルに
褐色の大地はうねりをあげる
前日のご褒美なんかいらないから
欲しいものはただこの先にあると
トンネルは足とめず立ち止まることなくただ過ぎ去った
へたななぐさめなんかはいらないよ
トンネルはつづく 闇にいり光めざして
太陽も月も届かない孤独な夜に
愛のある場所を探し . . . 本文を読む
男の子は追いかけた
西も東も分からずに
お化け煙突は見るたびにその数を変えていく
三本 二本
一本 四本
両目は痛みをひきついで
痛みも色もなくしてなお笑う
一本 三本
四本 二本
お化け煙突はゆらゆらゆれる
水のなかもぐり 世界はゆらめく
不機嫌な狸は男の子の裾(すそ)つかむ
離れまいとて
真昼の太陽は目眩くも
かれの瞳には応答なし
ハローハロー お化け煙突
本当のすがたはなんで . . . 本文を読む
逃げまどうことも忘れた迷い子の
指先から垂れたる赤い糸
鬼は迷い子のみこんで
迷い子は赤い鬼の一部となった
ひとりの若者赤い糸たどり
たどり着いた先は鬼の口先
若者は泣きながら刃をむけた
迷い子は鬼の腹のなか泣き濡れて
鬼もまたその瞳から涙をこぼす
涙のわけは鬼にも分からず
鬼の目に涙のそのわけを
鬼は分からず涙はやまず
. . . 本文を読む
水にゆられて 夢にはおちずに
空は青色
雲間からさしこむ光を傘で遮断した
その傘の柄つかんだ手のひらは色彩を育み
にじんだカンバスに月明かりひとつ
ゆらゆらと道はゆがむ
真昼の月に夜のぼる太陽
双子はそれぞれ西と東へ
どこまでも行っても再会はあたわず
道はゆがんだ
水にゆられて 糸ゆらめいて
重ならぬ手のひらは光を遮った
目眩くことなきよう
大切なあなたをまもるため
傘はかさならぬ
くるくると廻 . . . 本文を読む
逆さまの傘に雨たまる
ぽたぽたしたたり雲晴れるまで
したに落ちた空のすきまからみえた青色に
天までとどけと龍のぼる
きえた姿は白き煙におおわれて
ひらいた玉手箱は時さかのぼり
貴方はふたたび始まりの場所で泣きわめく
逆さまの空にのぼる月
ひっくり返された昼夜の果てに
いつかみた鳥は目的も忘れて海を目指した
夜のとけた海のそこでみる夢に
目隠しされた光の向かうべき行く末よ
皆目見当もつかず有耶無耶( . . . 本文を読む