そうして熱は内側にこもった
押さえきれない情熱に
風は吹けども通ることもなく
癒されることのない者が癒した手のひらは
あたたかな大地の香りがしていた
やさしいあなたの眼差しはわたしをとらえた
どんなに身をやつした姿であろうと
あなたの力強さは変わらずに
わたしはあなたの身体をいとおしむ
熱はこもって手のひらあつく
それだけの歴史を携えてきた
かけがえのない身体に血潮は巡る
いつかまた海でお会 . . . 本文を読む
赤い月が泣いている
月が泣くものかと
君はかわりに泣いていた
雨隠す神隠し雲隠れ
社(やしろ)去るうちに雲ははれ
濡れおちた身体に陽射しは降りそそぐ
宵待ちの月 月待ちの朝
相容れぬ互いに理不尽な夜は重なった
傘を持って歩きましょう
よく晴れの日もひどく雨の日も
赤い月重なる朝焼けのあしたに
わたしを見つけてくだしゃんせ . . . 本文を読む
守られるわけがないと思った約束ごとを
守ろうとしているあなたに呆れています
そうすることで守ろうとした
煙に巻こうとしているわたしの幼さに
賢明なあなたが気づかないわけがないことを
愚かなふりをして誤魔化そうとしました
そうまでして守ろうとしているものは
どこまでも価値のない劣等感と
守る必要などまるでないわたし自身で
守るべきではないものを
壊されたくないと必死で身体をかたくしました
そんな . . . 本文を読む
嘘で塗りかためられたと君の云う本当のことをわたしは知らない夢の続きは夜へとおちたその夜を拾いに わたしは沖へ出た嘘も真も泡となり夜を拾うため海に潜るもあなたの歌声は聴こえない知っているはずの泡沫(うたかた)と知るよしもなかった思いの果てに行きついた先はあなたのいない海絶えることのない潮騒にこの身は揺られて夢へとおちるおちた先に待つのは夜の夢本当のことなど誰も知らないただ知りたかった君のこと夢に姿は . . . 本文を読む
どこまでも隠していたかった秘め事はいつの日か白日の元にさらされて望まぬ日の目に見られぬようにと私は太陽を飲み込んだそれが過ちであることを誰よりも知っていたがそれでもなお何よりも守りたいものは変わらないまま私は太陽を飲み込んだ . . . 本文を読む
日ノ出を迎えた朝にさようならまた朝(あした)の空がきたるまで夢から醒めたわたしの掌は温かく現実の景色に重なる夢の続きは無音の調べ夢のなか醒めやらぬわたしの視界はおぼろげとなりおぼろ月夜は空のかなたへと連れていかれた眠気に誘(いざな)われた先は海の底月のしずんだ呉藍(くれあい)は藍に染まって紅色もみえず重ねられて落ちた黒色の空はまた夜を思い出されて瞳を閉じる歌声は夢の終わりを引き連れて音無き標(しる . . . 本文を読む
ぐあんぐあんと 大地は揺れる丘酔い 船酔い すべては揺れて子守唄ゆりかご忘れた頃に忘れるなかれと大地は揺れるぐあんぐあんと 鐘の音ひびく思い出したくない由(よし)無し事をそれでも無くしたくはない大切なことを無くすべからずと鐘の音ひびくぐあんぐあんと 響いて揺れて意識はおぼろげに成り果てたとて生きていくしかないこの道のうえ大地は揺れず 鐘の音もなし共鳴した音叉はこの身体ひとつ然(しか)れどもそこに重 . . . 本文を読む
見えぬ顔立ち見させぬ思いの裏腹にまぎれた夜の星小さき明かりに思いをのせた本当の気持ちは見させぬために宵の水に映えるは変わらぬ姿波間に雲間の影見つけ夜風は音もなく現れまた身を隠すようやく見つけた夜空へ向かいこわごわとこの手のひらをさしのべたとてあなたの顔(かんばせ)には届かないそれなのに月明かりはすべてを照らしあなたの光はわたしに届く理不尽な世界にひとり立ちひとりぼっちのあなたの空に逆さまの滴は絶え . . . 本文を読む
冷めぬものかとあなたの問いに熱はさらに加速して勢いを増した冷えた身体の内側で確かに主張する冷めやらぬ熱醒めぬが花とうつむくあなたに空の青さをうそぶいた見上げた空は雲かかり灰色どこが青だと睨んだあなたは美しく目覚めた世界にふたりはわらうたとえ相容れぬ間柄であろうともともに生きる術(すべ)を持たされてわたしたちは生まれた下手くそな生き方しかできないわたしに今日もまた日はのぼり わたしの身体は熱をもつ . . . 本文を読む
「こもれ」「こもれ」とあなたは云うおそらくは守りたくて 隠(こも)れと云うおそらくは疎ましくて 籠(こも)れと云うけれどもわたしはカゴの中のトリではいられずにわたしはあなたから飛び出した羽のないからだで羽ばたけずともこの両足でそのたまごの中身はカラだよとわたしは笑った大切にされなくても生きていけると大切なものは他にあるのだと高らかに見上げた空に舞うトリの姿なしわたしはあの場所を目指すのだと両手をあ . . . 本文を読む
クモ クモをよび嵐なすクモ集まれば忌み嫌われて近寄る者なし地下よりいでし もののかげ速度を越えて嵐も越えて行き着く先にて君を待つきみ、黄身の色したお月さまみんな一緒に笑いたいどこまでも太陽を追いかけたあの子に寄る雨 ふれ あわれクモの足長すぎて渡れずに昇る虹見送った わたしもまたクモ 雲を呼び空渡るあなたにおくる影 . . . 本文を読む
たまごは飛んだまだ羽のない姿で未だ翼を授けられずとも自らの意思で立ち向かうその姿に羽はなくとも確かに飛んだ たまごは飛んだ風に立ち向かい自らの意思でいこうと旅立ち風に乗る抜けた先には入り日の光陽続く闇夜さえも照らすともしび確かにともる 翼なくともたまごなくともあなたはともる 確かなありか . . . 本文を読む
押し戻された その色は赤誰よりも臆病な瞳は空をにらんだ守りたいものがあるのだとたとえ守られるものであろうともその赤色とはどこまでもかけはなれた空は青色譲れない思いはうちに秘められて押し戻された 手は触れられず守りたいものがあるのだと孤独な空は赤色に染まる透き通る空の青さをあなたは知らずにこの空に包まれたあなたは赤色手放して開いたその手のなかにあなたの空色はそっと息を吹き返すあなたの手には届かなくと . . . 本文を読む