あなたに会いたい思いの丈はいつしか天まで届いてしまい、その丈に欠けた月が引っかかった。
「おおい、交通のじゃまだよ。その思いはどこかに追いやってくれ」
月は空から叫んだものの、答えはない。仕方なく月は、その丈をつたって地上へと降りてきた。降りたとたんに、月はびりびりと体が痺れるような感覚におちいった。いま自分の目の前にいる、天までまっすぐとのびる思いの丈を募らせている女性から目が話せなくなった。月は女性に恋をした。
しかし月は、いまの現状をよく把握していた。この女性がこんなにも思いの丈を募らせている相手は自分ではないことくらい分かりきっていた。
さりとて何をどうできるものではない。月は自分が主張した言葉の愚かさを理解した。この思いはどこかに追いやれるものではない。
月はふらふらと女性のとなりに座ると、声をかけることもなくただうっとりと彼女の横顔を見つめていた。月からもまた、しゅるしゅると思いの丈はのびだして、その丈は空を飛ぶ鳥に突き刺さった。
そんな月の思いの丈を自分へのものだと誤解した鳥は「こんなにもわたしのことを思ってくださるなんて」といたく感激し、「さあ今すぐこのままハネムーンへと参りましょう」と欠けた月をくわえてどこかへと飛んでいった。
月に惚れられた女性は我関せず、ただひとりあなたを待ちわびている。
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