◎憲法会議を国民中より公選せしむべきや(美濃部達吉)
『世界文化』第一巻第四号〔新憲法問題特輯〕(一九四六年五月)から、美濃部達吉の論考「憲法改正の基本問題」を紹介している。本日は、その二回目。
憲法改正の手続に関する憲法第七十三条の規定が既に効力を失つたものとすれば、如何なる手続に依つて之を改正すべきかが問題となるのであるが、それはポツダム宣言及び之に基づく覚書の趣旨に従はねばならぬことは、勿論である、併しながら右の宣言には単に自由に表明せられた国民の意思に依つて決定すべきことを示して居るのみで、如何なる手続に依り又如何なる機関に依り国民の意思を自由に表明せしむべきかに付いては、全く其の規定を欠いて居り、而も憲法第七十三条に代はるべき規定は、未だ制定せられて居らぬのであるから、現在に於いては、其の手続を如何にすべきかは未定の状態のまま残されて居るものと謂はねばならぬ。
それであるから、私は政府が憲法第七十三条の規定が現在も尚有効であるかの如く解し、政府のみの手に依つて単独に改正草案を作成して之を議会に提出しようとして居るのを以て、法律上にも合法的の態度とは信じ得ないもので、況んや〈イワンヤ〉政治上から言へば、食糧問題、失業問題、産業復興問題、インフレ等、一日を争ふ聚急の問題が山積して居る現在の情勢に於いて、憲法の改正の如きはそれ程急を要する問題ではなく、寧ろ反対に各方面から十分慎重に研究考慮せらるべきものであるに拘らず、是非も現内閣〔幣原喜重郎内閣〕の手に依つて之を完成せんとし、それが為めに強ひて居据り〈イスワリ〉を策するが如きは、極めて不穏当な態度であると信ずる。
憲法の改正に関して取るべき正当なる態度としては、次の議会に於いては、先づ憲法第七十三条に代はるべき新規定に付いてのみ、其の議決を求め、それが成立した後に、其の新規定に従つて改めて改正草案を作成し、之を完全な修正権を有する講会の議に付することを当然と為すべきであらう。
憲法第七十三条に代はるべき新規定として、憲法改正の手続を如何に定むべきかに付いても、考慮せらるべき諸点は頗る多いが、就中〈ナカンズク〉重要な問題としては、左の四点を挙げることが出来る。
(一) 改正草案の作成に付き、広く民間の諸政党又は其の他の諸文化団体から、選挙又は政府の詮衡に依り学識経験に富める代表委員を選出し、之を以て憲法改正審議会とも称すべき委員会を組織し、之をして原案の作成に当らしむることが適当であるや否や。若し之を適当なりとすれば、其の構成を如何に定むべきか。
(二) 枢密院の諮詢を経ることが必要であるや否や、若し改正草案の作成を政府の専断に委せず前項に挙げた如き憲法改正審議会をして之に当らしむるものとすれば、枢密院に諮詢せらるることは、寧ろ之を廃止することを適当とせざるや否や。
(三) 憲法の改正を議決すべき機関としては、普通の立法府たる議会をして之に当らしむべきや、又は憲法会議ともいふべき特別の議会を、其の目的の為のみに特別に国民中より公選せしむべきや。若し後者を適当とすれば、其の構成を如何に定むべきか、それは一院制とすべきや、又は普通の立法議会と同じく二院制とすべきや。
(四) 議会制度に付き何れの方法を取るにもせよ、其の議会の議決を以て最終の決定と為すべきや、又は新は新に国民投票の制を設け、議会の議決を終つた後、更に之を国民投票に付しそれに依り最終の決定を為すものとすべきや否や。〈六一~六二ページ〉【以下、次回】
美濃部は、「憲法会議ともいふべき特別の議会を、其の目的の為のみに特別に国民中より公選せしむべきや」と問うているが、憲法改正のための「憲法議会」を設けるべきだと考えていたのであろう。さらに、その「憲法議会」を以て最終の決定とするのではなく、「国民投票」に付し、これを以て最終の決定とすべきだと考えていたと思う。
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