礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

山田房一の「左横書きのすゝめ」(1942)

2017-10-06 04:08:00 | コラムと名言

◎山田房一の「左横書きのすゝめ」(1942)

 先日、山田房一〈フサカズ〉編『言語関係刊行書目』(山田房一、一九四二、非売品)という本を手にしたところ、緑色の細い紙片がはさまっており、そこに、「左横書きのすゝめ」という文章があった。以下に、引用してみる。なお、『言語関係刊行書目』は、当然ながら、「左横書き」の本である。


  左 横 書 き の す ゝ め
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 今日我々が非常使つてゐる文字の書き方が縦,横,右,左と乱雑を極めてゐる。その為に起る不便,不都合は随分夥しい〈オビタダシイ〉。是は文字本来の性質から言つても,亦体面上からも,何れかに統一せねばならない。是には誰しも異存はない筈である。然らば如何に統一するか?解決の途は唯,左横書きへの統一!これ一つである。なぜ左横書きにせねばならないいのか。
    ×   ×   ×
 1,2,3のアラビア数字と,ABCのローマ字が将来色々な方面から,我々の日常生活により力強く喰い入つて来る事は否めない事実である。小学算術書のメートル呼称の表記法にも今日mm, cm, km, kg %等のローマ字を其侭〈ソノママ〉採用してゐる。将来この二つの文字を,日常使ひこなして行かねばならない立場から,文章は否応なしに,左横書きに改められて行く。
    ×   ×   ×
 我々の右手の動作に於て,最も能率の高いのは左から右へ横に動かす事である。文字の線がすべて左から始つてゐる事も,算盤〈ソロバン〉の加算が左から入れられるのも,その良い証拠であり,速記術がすべて左からの横書きである一つの理由もこゝにある。左横書きこそ書字動作に於て,最も理想的の運筆法である。
    ×   ×   ×
 日常ペン,インクを使つて行くたてまえから,縦書きでは一行毎に〈ゴトニ〉吸取紙を使はねばならないが,左横書きならば其懸念もなく,書いた部分を見乍ら〈ミナガラ〉,次の行を書いて行く事が出来る。読む上からも眼筋の構造上,視野の広い横読みの方が便利であり,又眼の労れ〈ツカレ〉も遥かに少い事は眼科医学者達の斉しく推奨してゐる所である。
    ×   ×   ×
 汽車の切符,時間表,電話番号簿その他書籍雑誌に, 社会のすべての方面が,左横書きへと幾何級数的に改められて行く。時機早尚などゝの古い観念をすてゝ,書き物のすベてを,左横書きに改められん事をこゝにおすゝめ申し上げたい。江戸中世の学者,政治家であつた新井白石は,今から220年もの昔,すでに左横書きを実行して居られる。
 文字の書方位と文盲的の趣度でも勿論いけない。昔から「言者心声也,書者心画也.声画形,君子小人見矣」と言はれて居る程,我々と密接な関係のある文字の問題が,どうでも良いと言へる筈がない。 (山田房一)

 文中に、「言者心声也,書者心画也,声画形,君子小人見矣」という言葉がある。牟田泰三氏によれば(Muta Mail Magazine,No.105,2005/10/27)、これは前漢の揚雄〈ヨウ・ユウ〉の『法言』にある言葉で、「言葉は心が発する声であり、書は心を表す画である。言葉を聞き書を見れば、君子か小人かが分かる」という意味だという。「声画形」の「形」は、「あらわれて」と訓ずるという。それにしても、インターネットというのは重宝なものだ。

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