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二十四の瞳


監督 木下恵介
出演 高峰秀子、笠智衆、天本英世、夏川静江、月丘夢路、井川邦子

 長い映画である。156分ある。こんな長い映画、途中で退屈しないか心配しつつ観た。余計な心配であった。長さを感じさせない。また、この物語のテーマを表現するにはこの分量の時間が必要であることが判った。
 お話は有名な原作だからご存知のムキも多かろう。昭和3年。小豆島の岬の分教場に、洋服を着て自転車に乗った若い女の先生が赴任してきた。新任女性教師、大石先生は新1年生12人を受け持つ。
 風光明媚な瀬戸内で、純朴な子供たちと進取の気性に富んだ、若い大石先生との交流。はじめは奇異な目で見ていた村人たちも大石先生を受け入れる。小豆島で、子供たちと大石先生は、しあわせに暮らしました。心温まるヒューマンドラマだった。良かった良かった。
 では決してない。この映画、笑顔と泣き顔、どっちの方が多いか。泣き顔のほうが多い。「しあわせ」をよりも「不幸」を描いた映画だ。そして静かな怒りが、物語の深海潮流として流れている映画でもある。戦前の日本を覆っていたダークマターともいえるモノ「貧しさ」「戦争」を車の両輪のように進んでいく物語だ。
 女の子は貧しさゆえに不幸のどん底に沈む。男の子は兵隊になる以外に選択肢はない。彼らのあずかり知らぬ、満州で、真珠湾で起こった戦争は、大石先生と12人の子供たちが学ぶ小豆島にも幻魔のごとく忍び寄る。
 不幸に泣き崩れる子供に大石先生はいう「あなたが悪いんじゃないのよ」いっていいのはここまで。それ以上いうと警察に目をつけられるかも知れない。ところが大石先生はいってしまう。「こういう世の中が悪いのよ」早速校長に説教される。「大石先生はアカだというウワサが流れてます。言動に注意してください」
 あたり前のことを教壇でいえない。大石先生は先生を辞める。「コイシ先生」から大石久子になった、彼女にも大きな不幸が。夫と娘を喪う。戦争と貧しさゆえだ。
 そして戦争は終わった。中年になった大石先生は先生に復職「ナキミソ先生」として、かっての教え子たちから贈られた自転車で、岬の分教場に通う。
 必見の名作である。

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コメント
 
 
 
反戦映画 (まろ)
2013-04-16 09:26:18
これは壺井栄の「怒り」の小説ですね。
その怒りを木下恵介が見事な映像美と人間描写で昇華させ
出色の「反戦映画」に仕立てました。
個人的には「反戦」などという言葉は嫌いなのですが
あえて「反戦」と呼んで称賛を贈りたいと思います。
映画の長さよりも、流した涙の量が印象に残ります。


 
 
 
まろさん (雫石鉄也)
2013-04-16 10:13:41
原作は読んでませんが、映画も戦争の理不尽さを見事に表現してましたね。
それも声高に、こぶしを振りたてて「反戦平和」と叫ぶのではなく、たんたんと大石先生と子供たちを描いていくだけで反戦を表現しているのですね。
戦争を表現するのに、平和な島の先生と子供たちを描写する。黒を表現するのに、白を描写する。勉強になりました。
 
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