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阪急電車


有川浩       幻冬舎

 なにげない私鉄の、なにげない路線を、なにげない電車が走る。その電車に乗るのは、なにげない人たち。
 本好きの政志は、図書館で目をつけた本を先に借りた女性と、電車の中で言葉を交わす。
 彼を後輩に寝取られた翔子は、彼らの結婚式に、花嫁より目立つ真っ白なドレスを着て、あてつけに出席する。
 孫娘をつれたしっかり者の時江は犬を飼おうと思っている。彼女は翔子と出会い声をかける。
 ミサはすぐきれるカツヤと別れようと、思っている。女子高生悦子には漢字が読めない、社会人の彼がいる。
 苗字に少々コンプレックスを持っている、田舎出身の美帆は、軍事オタクの、やはり田舎出身の圭一と同じ大学で同じ講座を受けている。
 阪急今津線。阪急というとハイソな神戸線。京都、大阪を結ぶ阪急の看板路線京都線。歌劇のタカラヅカと大阪を結ぶ宝塚線などを思い浮かべるムキも多いだろうが、この作品の舞台は宝塚と西宮市今津を結ぶ今津線。阪急の中では地味な路線。この地味な今津線の八つの駅にまつわる16の短い物語。宝塚→西宮北口の往路と、それから半年後の後日談の復路。登場人物は、それぞれの物語に少しづつオーバーラップしながら、お話はじゅづつなぎにつながっていく。いづれのお話もかわいい。特に美帆と圭一のエピソードは可愛くってほほえましくって、甘くって、小さなキャンデーのようなお話。
 翔子が時江に「いいところ」といわれた小林駅(コバヤシではないオバヤシ)は小生も所用で何度か利用したが、べつだんどうということのない駅である。
 歌劇の宝塚、宝塚ホテルがある宝塚南口、閑静な住宅地逆瀬川、阪神競馬場の仁川、関西学院大学の最寄駅甲東園、厄除けの門戸の厄神さん(毎年1月19日は大賑わい)の門戸厄神、神戸線と結ぶ西宮北口。地味といわれる阪急今津線だが、それぞれの駅にはこれだけの特徴がある。ところが小林には何もない。ところがこの作品を読んだら、小林がなんだか「いいところ」に思えてきた。
 
コメント ( 6 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
コレハ (そのえだ園子)
2008-05-27 23:20:55
以前まくらさんトコで紹介されてたやつですよね。阪急電車といえばチョコレート色、ババ色とか言ってるヒトもいたような(笑)ワタシは宝塚線しか乗ったことないですねぇ。
かんべむさしの「決戦!日本シリーズ」でしたっけ?また思い出しちゃいましたよ(笑)
 
 
 
TBありがとうございました (亜衣)
2008-05-28 00:11:37
この物語の要は時江さんでしたね。
時江さんのシメ具合が、ぴりっとしていて隠し味的で効いていました。

どんな電車かまったく知らなかったので、検索して見ました。レトロな感じでほんとにチョコレートみたいでした。
 
 
 
園子さん (雫石鉄也)
2008-05-28 04:30:22
 阪急今津と阪神今津は隣接しています。昔は線路がつながっていたこともあります。
 阪神タイガースVS阪急ブレーブス(現オリックス)の日本シリーズで、阪神が勝てば阪急の線路を阪神電車が走って、車中で阪神ファンどもが、大騒ぎしながら、沿線の阪急ファンにベロベロバーする。阪急が勝てばその逆。
 今津はその乗り入れポイントでした。線路の幅が同じなのでできるはずです。
 
 
 
亜衣さん (雫石鉄也)
2008-05-28 04:34:55
コメントありがとうございます。
私はこの作品で、時江さんが一番カッコいいなと思いました。
阪急電車はマルーン、小豆色といっています。普通も特急も同じ色です。
内部もきれいで、好感が持てる電車ですよ。 
 
 
 
魅力的 (仙丈)
2011-04-19 09:29:58
登場人物がみんな魅力的ですね。
私のブログでは觸れませんでしたが、時江さんの背筋の通つた姿も素敵です。
孫に讓歩しない姿勢はエライと思ひました。

近くに住んでゐるくせに仁川と小林の驛は利用したことがないのですが、小林驛で降りて歩いてみようかなと思ひました。

 
 
 
仙丈さん (雫石鉄也)
2011-04-19 10:25:38
そうですね。私も時江さんが最もお好みです。
仁川は学生時代に競馬場でアルバイトしてました。
小林はほんと、なんにも特徴がない駅ですよ。失業していたころ、2度ほど面接で利用したことがあります。
 
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