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沈黙のフライバイ

野尻抱介 早川書房

 5編の短編が収められた短編集。
「沈黙のフライバイ」
 SETI地球外文明探査をテーマとしたもの。サーモン・エッグ計画という画期的な探査方法が出てくる。
「轍の先にあるもの」
 探査機が小惑星エロスから画像を送信してきた。その画像を見た主人公のSF作家は強く興味をひかれる。長い年月を経てSF作家は、長年の念願が叶い有人小惑星探査機に乗ってエロスへと向う。
「片道切符」
 火星への有人探査に出発した4人のクルー。ところが計画に反対するテロリストによって重大な障害が発生。計画は中止されるのか?4人は火星に行くのか帰るのか決断を迫られる。テロリストの正体は?
「ゆりかごから墓場まで」
 C2Gスーツ。それは光さえあれば無補給で「ゆりかごから墓場まで」まで生きていける完全閉鎖系生命維持スーツ。このスーツをめぐる三つの物語。
「大風呂敷と蜘蛛の糸」
 成層圏のさらにその上の中間圏にも風が吹く。その風を利用して凧を揚げて、そこからロケットを打ち上げようというアイデアをコンテストに提出した女子大生。有人計画として実現したプロジェクトに参加した彼女は、発案者の特権で凧に乗り込む。
 5編とも近未来の太陽系内での宇宙が舞台。SFの分類で行けばハードSFということになるのだろう。小生のごとき中高年SFファンはハードSFというと日本では石原藤夫、堀晃、海外ではアーサー・C・クラーク、ハル・クレメント、ジェイムズ・ブリッシュなどを思い起こすが、野尻のハードSFはこれらの作家のだれにも似ていない。しいていえば雰囲気が光瀬龍に似ているかな。
 いずれの作品もかってのNHKの「プロジェクトX」のネタになりそうだが、各編の主人公たちは「プロジェクトX」みたいにがんばらない。サラッ、と軽やかに事を成していく。例えば「大風呂敷と蜘蛛の糸」の主人公沙絵などは命がけの大冒険をしているはずなのだが、地上の指導教官と冗談をいいつつ危機を乗り越えていく。
 出てくる宇宙探査はいずれも実際にある計画を元に書かれているので、極めてリアルな描写で読み応えがある。とはいうもののガツンとくる読み応えではなく、フワッとくる読み応え。このあたりはライトノベル出身の野尻ならでは味わいだろう。好短編集であった。
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