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舟を編む


監督 石井裕也
出演 松田龍平、宮崎あおい、オダギリジョー、加藤剛、小林薫、渡辺美佐子

 原作は面白かった。辞書の編集という極めて地味な仕事を、個性的な人物を登場させて、実に軽やかなエンタティメント小説になっていた。
 この地味な作業の話をどう映像化するのか楽しみにして観た。辞書作りの作業なんて、形のない「言葉」をあつかう作業だ。具体的になにしてるかというと、紙に字を書き付けているわけ。こんな作業の映像を延々と見せられたって退屈なだけ。とても映画には向かない題材だと思う。
 桂枝雀師匠の「地獄八景亡者戯」にこんなくだりがある。
「なにしてまんねん」
「念仏作ってまんねん」
「具体的にはなにしてまんねん」
「こないしとると、なんぞ作ってるみたいでっしゃろ」
 また、小生の友人に数学者がいる。彼は無限の研究をしてるとか。
「あんた、なに研究してんねん」
「無限の研究しとる」
「具体的にはどう研究すんねん」
「無限を研究するんや」
 念仏や無限の映像化は非常に難しいと思われるが、辞書作りの作業は映像化は簡単だが、凡庸な監督の手にかかるとつまらない映画になるだろう。その点はこの映画は成功していた。
 辞書作り。この地道で長い年月がかかる地味な作業に取り組む、個性的な登場人物を配するのは原作の小説と同じだが、この映画の場合それを演じる役者が適役でうまいから、非常に好感の持てる映画に仕上がっていた。
 生真面目、言葉オタクの主人公馬締。ちょっとどこかずれているけれど、着実に辞書作りを進める。チャラ男の西岡。チャラチャラしてていいかげんそうだけれど、辞書への情熱を内に秘めている。辞書の監修者の国語学者松本。言葉の研究をライフワークとする。老人ではあるが合コンに参加したり、マクドに行ったりして若い者の言葉も積極的に収集する。そして馬締が一目ぼれして、後に結婚する若い女性板前の香具矢。
 主人公馬締役の松田、西岡役のオダギリ、松本役の加藤、みんな、ぴったりの適役でうまい。特に松田龍平。気弱そうでありながら、自分のやるべきことはきちんと果たす芯の強さを見せる。龍平、父親の優作より芸域の広い役者だな。
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