雫石鉄也の
とつぜんブログ
細雪
監督 市川崑
出演 岸恵子、佐久間良子、吉永小百合、古手川祐子、石坂浩二、伊丹十三
谷崎の細雪を読んだ。こりゃ映画も観なくては、ということで観た。監督が市川崑である。凝った美しい映像をたっぷり見せて、4人のべっぴんがきれいなべべを着て、関西の上流階級のしんなりとした生活を描いてみせる、との予断と偏見を持って観た。その通りの映画であった。この映画を観るにつけて、次ぎ2点に留意して観た。
原作は華麗な物語絵巻であると同時に、ある種「おかしみ」がただよう小説だった。ラストがなんせアレだから。それを市川崑がどう表現するのか。
三女雪子を吉永小百合が演ずる。べっぴんでおしとやかで、ぼーとしてて、うじうじぐずぐず、優柔不断であり頑固、プライドが高い、こういう原作の複雑なキャラを吉永がどう演じるか。
結論からいう。両方とも良くできていた。原作の谷崎の行間にただよう「おかしみ」が映画にもよく出ていた。
長女鶴子の岸と次女幸子の佐久間が、本家分家という意識が強く、関西弁で口ケンカするが、これが両ベテラン女優、日本を代表する美人女優同士が、演技で火花を散らしているのか、マジでライバル意識を持って演技合戦をしているのか判らんけど、それが面白かった。ただしラストはアレではなかった。東京行きは東京行きやったけど。
雪子の吉永。これは絶品だった。吉永小百合はやっぱり大変な女優だ。ボーとしているけれど頑固で、だれも雪子にはかなわない。吉永はきれいで優等生優しく気立ていい、とこんなイメージの女優さんだが、この映画の吉永は凄みすら感じた。妙子の古手川に雪子が足の爪を切ってもらうシーンがあるが、そのシーンの吉永は、この世のものとは思えない美しさ。人間離れしていた。ドキッとした。こんなシーンは原作にはなかったから、市川の演出だろう。さすがだ。
市川らしい映像美も、もちろん楽しめる。雪子のお見合いは、偶然か故意か、違う季節にお見合い。春の桜、秋の紅葉、季節季節にその季節に合わせた着物で着飾った四姉妹がけんを競う。他家を訪問する時、コートを脱ぐと裏地は目も鮮やかな家紋が。見事な映像だ。さすが市川崑。
セリフはもちろん関西弁。ところが関西人の小生が聞くと、少しの違和感を感じる。これが「物語」であるということを観ていて認識させ、良い演出になっていた。
今の女優さんでリメイクしたら、鶴子、鈴木京香、幸子、木村佳乃、雪子、竹内結子、妙子、上野樹里、というところでどうだろうか。監督は「三丁目の夕日」の山崎貴。CGで戦前の関西を描いてもらおう。
コメント ( 7 ) | Trackback ( 0 )
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ご教示ありがとうございます。
谷崎の原作は、時代の推移を非常によく描いているのに驚嘆しましたが。
この映画の間違いは、神戸のお見合いの場の中華料理屋に廻る卓士があることです。
あれは戦後、東京の某中華料理屋が始めたものなので、戦前にあるはずはないのです。
回る中華料理屋のテーブル、戦後なんですか。それは知りませんでした。
個人的には、20年前の中国にもどこにもありませんでした。
この『細雪』の出来は非常によく、晩年の市川崑では最高だと思います。
冒頭で広沢池の桜の下を四姉妹と石坂が歩くのは、季節がズレていて全部造花だそうで、本当にすごいと思いましたね。
市川崑は、元がアニメーターなので、画面が凝っているのです。
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