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日の名残り

監督 ジェームス・アイヴォリー
出演 アンソニー・ホプキンス、エマ・トンプソン、ジェームス・フォックス

 名画だ。静かな演出。美しい風景。上品で教養豊かな登場人物。大きなお屋敷と超高級な家具調度。耳障りでない音楽。第1次世界大戦と第2時世界大戦の間という近代ヨーロッパ史の裏側を垣間見る歴史的な興味。大変に格調高い映画だ。
 映画は初老の執事スティーブンスが自動車を運転しているシーンから始まる。彼は彼の勤める屋敷で以前働いていた元女中頭ミス・ケントンに久しぶりに会うために車を走らせている。目的は女中頭として屋敷への復帰を頼むこと。
 スティーブンスとミス・ケントンは英国貴族ダーリントン卿の屋敷で働いていた。執事と女中頭という立場の二人。二人とも非常に有能。勝気なケントンは最初はスティーブンスと対立するが、仕事熱心で有能なスティーブンスに惹かれて行く。ケントンはさりげなく好意をスティーブンスに示すが、仕事に追われるスティーブンスは、仕事の話しかケントンにしない。
 この映画をどう観るかはスティーブンスをどういう男と見るかで変わってくる。ケントンのサインが分からない鈍感な唐変木と見るならば、仕事しか人生に無い極めて貧しい男となる。執事のプロ、スティーブンスのプロフェッショナルぶりを描いた職業人映画となる。
 ケントンの想いは充分に分かっている。想いをくんでやりたい。しかし自分には仕事がある。主人ダーリントン卿はヨーロッパの運命を左右する重要な会議をこの屋敷で開催する。仕事に没頭したい。自分も本当はケントンが好き。しかし今は個人的な感情に気を取られている時ではない。愛する人の気持ちは痛いほど分かるが、心を鬼にして仕事を遂行するストイックな男。
 もちろんスティーブンスは後者の男と見るのがこの映画の正しい観方だろう。名優アンソニー・ホプキンスがストイックでありながら、血も涙もある寂しい男を好演していた。
 スコッチでもチビチビ飲みながら、晩秋の夜長をゆったりと観るには最適の名画だ。
 
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