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ロック・ラモーラの優雅なたくらみ

スコット・リンチ 原島文世訳        早川書房

 586頁。二段組。かなり長い長編である。こういう長編を読ませるにはスピード感が大切。読み始めたらすぐに読者をトロッコに乗せること。乗せたら一気に加速して、出来るだけ速やかに巡航速度に達すること。巡航速度に達したら、後は速度を速めたり緩めたり、上げたり下げたり、周りの風景を見せたり、読者を楽しませればいい。読者がわれに帰って、トロッコから降りようと思ったらダメ。
 そういう観点からこの作品を見れば合格。小生はトロッコから降りずに楽しんでこの長編の最後まで到着した。
 物語の舞台は中世ヨーロッパを思わせる架空の町カモール。縦横に運河が張り巡らされた美しい水の都カモールは、表の社会はニコヴァンテ公爵、裏社会は犯罪組織のボス、カパ・バルサヴィによって支配されていた。秘密協定によってバルサヴィ支配下の犯罪集団は、表社会の貴族には手を出さないことになっていた。ところが最近、「カモールの刺」と呼ばれる詐欺師が貴族をペテンにかけて大金をだまし取っている。
 主人公は若き詐欺師ロック・ラモーラ。ロックは武術はだめだが天才的な頭脳の持ち主にして変装の名人でもある。このロックをリーダーとする詐欺集団が「悪党紳士団」メンバーは商人出身で計算に強く武術格闘技にも秀でたジャン。一卵性双生児のカーロとガルド。すばしっこい少年バグ。
 ロックはバルサヴィにかわいがられ、娘との結婚を求められるほどの信頼を得ていた。そのころ「灰色王」と呼ばれる謎の暗殺者が裏社会に出没。バルサヴィ配下の犯罪集団のリーダーを次々と殺していく。
 「灰色王」とは何者。「カモールの刺」とは誰。犯罪を摘発する公爵の手の者「蜘蛛」の正体は。ロックと「灰色王」は対決するのか。謎の船「疫病船」の目的は。読者を飽きさせない工夫は充分にあり、エンタティメントとしてたっぷりと楽しめる。
 こういう小説は悪役の造形が大切。こちらも合格。「灰色王」もさることながら、灰色王が雇った契約魔術師「鷹使い」がいい。十分に憎たらしく強い。彼が使う殺人鷹、猛毒の爪を持つ鷹というアイデアが秀逸であった。
 世界の構築もきちんとなされているし、登場するキャラクターも立っている。なかなか読みでのあるファンタジーであった。
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