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擬態 カムフラージュ

 ジョー・ホールドマン  金子司訳    早川書房

人間に化けたエイリアンが社会に紛れ込んだ、というシチュエーションはSFではおなじみのもの。ジャック・フィニイ「盗まれた街」、ロバート・A・ハインライン「人形使い」、ハル・クレメント「20億の針」、恩田陸「月の裏側」などなど。この作品もこのシチュエーションに分類してもいいだろう。
ただ、この「擬態」が他の諸作品と違う点は、時間経過の長さではないだろうか。彼(彼女)?が地球にやって来たのは100万年前。初めて人間に化けたのが1931年。作品は2021年で終わるから90年間人間に化け続けて、様々な年代、様々な職業、男になったり女になったり。それで最後までバレなかった。実に見事な変身ぶりといえよう。
物語は2019年に太平洋の深海で発見された、地球の物ではないと思われる謎の物体を調査する話と、人間に化けたエイリアン「変わり子」が90年にわたって人間社会を生きていく話がパラで進む。
謎の物体の方は、結論としては何もわからん、ということ。ドリルで穴を開けようとしても開かない。レーザーを当ててもびくともしない。ただただ、わからん、どうしようもない、お手上げ、というだけで話は進む。ヘタな作家なら退屈なだけだが、あの手この手で、わからん具合を描写して読者を飽きさせない。このへんはホールドマンのテクニックだろう。
この作品のウリは「変わり子」の90年間の一代記ではないだろうか。この部分だけでも一編の歴史小説として読める。彼は第2次大戦中、海兵隊員としてフィリピンに出征。そこで日本軍の捕虜となり有名な「バターン死の行進」を体験する。このくだりはなかなかの迫力。しかし必要以上に日本の軍人を悪く書いており日本人として少々ひっかかった。
この「変わり子」の90年にわたる自分探しの旅が、この作品の真のテーマかも知れない。もう一人人間に化けたエイリアン「カメレオン」が出てくるが、こちらは「変わり子」とは光と影、陽と陰の関係をなすものだが、二人のからみは少なくこのあたりを膨らませてくれれば物語にもっと厚みがでただろう。ところでこの「カメレオン」は主要な登場人物に化けていたのだが、だれに化けていたのか分かった時はちょっとだけ驚いた。ちょっとだけ。
 パラで進んでいた物語の2本の糸は終盤に一つに結ばれる。「謎の物体」と「変わり子」の関係は予想通り。
ラストは大甘。できそこないの宇宙ロマンスになってしまった。これではスピルバーグを笑えないよ。ホールドマンさん。エイリアンなんだから最後までエイリアンでいて欲しかった。締めを誤った。読ませる作品だっただけにまことに残念。  
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