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夜は短し歩けよ乙女


森見登美彦               角川書店

 奇人、怪人、変人、珍人。さまざまな、おかしげな人間がたくさん出てくるが、極めつきの奇人変人は主人公の一人、「黒髪の乙女」だろう。小柄で可憐な女の子らしいが、鈍感というか、バカというか、純真というか、人の気持ちがまったく判らない。彼女のことを、ものすごく片想いしている、もう一人の主人公「先輩」の想いが全く判らない。「先輩」が一生懸命に細工して、彼女と出会っても「あ、先輩。奇遇ですね」
 奇遇ではなく、先輩が意図して出会っているのがまったく気がつかない。また、中年のおっさんに乳を触られているのに気にもせず、逆にそのおっさんを、人生の師と尊敬する。まさしく人間離れした鈍感女。こんな鈍感女が好きな「先輩」もおかしげな男だが。
 と、小生は書いているが、別にこの天下無敵の鈍感女「黒髪の乙女」を嫌っているわけではない。これほどの鈍感さでないと、この奇妙奇天烈な小説の主人公は務まらないだろう。
 夜の木屋町を歩く「黒髪の乙女」後をつける「先輩」夜の木屋町に突如出現する3階建て電車。
 糺すの森の古本市。謎の少年は神様か。「黒髪の乙女」の求める絵本はあるのか。本の大海に迷い込んだ乙女と先輩。
 秋の学園祭。神出鬼没の「韋駄天コタツ」と、なぞのゲリラ演劇「偏屈王」こやつらは何者。パンツ総番長と「象のお尻」の美女。
 京都の街に凶悪な風邪が蔓延。鈍感女の「黒髪の乙女」が風邪にかかるはずがない。一人、元気に無邪気にお見舞いにまわる乙女に先輩の想いは伝わるか。
 と、まあこんな話で、異世界京都に満ちあふれる、怪異と奇人変人。
「黒髪の乙女」は、この異様な世界を表示してまわるカーソルと観れば、彼女の鈍感さも理解できる。
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