大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル🍑MOMOTO🍑デブだって彼女が欲しい!・64『たった3キロだけど』

2019-03-11 06:34:58 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

64『たった3キロだけど』


 クレオパトラと天智天皇を検索した。

 歴史上の人物という以外にこの二人には共通点が無い。でも、検索したら出てきた……とんでもない共通点が。
 
 クレオパトラは、父が亡くなって王位に就くとき実の弟と結婚している。
 天智天皇は実の妹を夫人にしていた。

 なぜこんなことを検索したかというと、桃が調べろと言ったからだ……。

「ね、こんなチョー有名人でもやってるんだよ」
 枕の端っこを噛みながら、上目遣いに桃が言う。
「だからって、オレたちがやらなきゃならないことにはならないだろーが」
「でもね……」
「さっさと寝ろ」
 背中を向けると、瞬間移動してオレの胸元にくる。
「……もう、しちゃったんだよ、夕べ」
「って……記憶にないぞ」
「ショックみたいだったから、記憶を消しておいたの……」
 そう言って、桃は右手をオレの胸に当てた。とたんに早回しで蘇る。

 あんなこと! こんなこと! そんなこと!

「思い出したでしょ? もうしちゃったんだから、もっかいやっても同じだよ……」
「も、桃……」
 あとの言葉は桃の唇で塞がれてしまった。

 今度は記憶を消していかなかった。

 桃の温もりが自己嫌悪とともにオレの中に刻み付けられてしまった。
「くそ……洗っておくか」
 いつになく桃の匂いが残ったシーツが疎ましく、バサっと剥がして洗濯機に放り込む。
 冷凍庫からナポリタンを取り出すが躊躇ってしまう。
「ちょっと多いなあ」
 焼きおにぎりの冷凍に替えてレンジに安置する。チンまで時間があるのでインスタント味噌汁を作る。
「ちょっと具が少ないか……」
 野菜庫からシメジのパックを取り出し、4つ程むしって味噌汁にぶち込む。

 今日は10時30分登校で、発育測定の日だ。

 早番の女子たちとすれ違うようにして学校に向かう。
「お先です百戸先輩」
 すれ違いざまに片桐さんが声を掛けてくる。バイトでは「桃斗くん」だが、学校では下級生だという姿勢を崩さない。
「お、早くもお近づきか!?」
 腐れ縁の八瀬が冷やかす。八瀬は入学式から彼女に目を付けているようだ。バイト先での彼女を知っているので、八瀬の手に負えないことは分かっている。分かっているから放っておく。

「どうして体重計の目隠し外すのかなあ」

 身長の計測が終わって体重のところに行くと、デブの会の野呂がボヤイテいる。
 午前中の女子の時は目盛りは隠されているが、午後の男子の時には外してある。片づけを早く終わるためという保健委員の説明には納得していない。目隠し1枚剥がしても劇的な時間短縮になるとは思えない。どうも男のデブに人権は無いようだ。
 ま、3年にもなると気心は知れているので、110キロの体重でもイジメ的な歓声が上がることはないだろう。
「次、13番百戸」
 保健委員に呼ばれ、お決まりの冷やかしの声を背に体重計に乗る。
「ン……オ……もっかい乗ってくれよ」
「ちゃんと見てくれよ」
 冷やかしは覚悟しているが、2度も乗せられるのはかなわない。
「……107キロ……減ったなあ、百戸!」
「え、ほんとか?」
「ああ、見てみろよ」
 保健委員は針をロックしてオレに見せた、軽いどよめきがオーディエンスから起こった。いくらデブとはいえ、その体重を覚えているとは暇な奴らと思うが、ま、デブというのは弄られやすいものなんだ。

「なにかいいことあったの?」

 ソレイユに行くと妹背店長に聞かれる。3キロだけど、やっぱり嬉しい。
「百戸くん、少し落ちた?」
 片桐さんは、きちんと体重の減少を分かってくれていた。
「あ、分かる?」
「うん、なんだかオーラがね、身のこなしも軽いようだし」
 デブの3キロなんて、ほんのハナクソみたいなもんだけど、それをきちんと気づいているのは大したものだと思う。ま、身の軽さは気分の問題が大きいと思う。
「倉庫整理、4分早く終わってるよ」
 そう言われた時は、やっぱ健康的に痩せたのかと嬉しくなる。

 その夜、異変が起こった。

「なんだ、ヒッツキ虫ならやってもいいぞ」
 ベッドに入ると、いつものように桃が現れたが、ベッドの端に居て引っ付いてこようとはしない。昨日のように兄妹の敷居を超えられるのは嫌だが、隅っこというのも落ち着かない。
「今夜はダメだと思う……」
「ん、どうして?」
「手ぇ握ってみて」
「あ、うん」
 桃が差し出した手を握ってみた……。
「え……」
 オレの手は何も握ることが出来ず、虚しくグーの形になってしまう。
「……………………」
「桃……どうした?」
「お兄ちゃん……」
 桃の目から涙がこぼれた。
「桃……!」
 思わず抱きしめようとしたら、桃の体をすり抜けてベッドの下に落ちてしまった。

 見上げると、桃はベッドの上で小さな肩を震わせていた……。


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