大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ポナの季節・45『父達孝のお人よし』

2020-09-25 06:18:54 | 小説6

・45
『父達孝のお人よし』
           
  

ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとって新子が自分で付けたあだ名


 達孝が出勤すると、教頭が渋い顔で手にした電話の送話器を指さした。

 教頭の顔つきからP(保護者)からのクレーム電話であると知れる。達幸は、自分の机のコーナーの電話に転送してくれるように教頭にジェスチャーした。

「はい、お電話替わりました。社会科の寺沢ですが……」

――先生、クラブ活動なんとかなりませんか、昨日も娘が帰ってきたの夜中の十一時。これまでは熱心なご指導と我慢してましたが、これは、もう度を越しています。こう言っちゃなんですけど、ご定年寸前の年に演劇部つくって、ちょっと張り切り過ぎじゃないんですか。映画の、なんて言ったっけ……『幕が破れた』いや『幕が下がった』『幕が上がった』ですか。それをご覧になって一念発起されたらしいですが、教師の思い入れや思い込みで生徒をむりやり勧誘して、ここまでやるのはやりすぎです。中間テストでも成績を落としてているし、健康にも良くありません。むろん高校生の生活からも逸脱しています。このまま続くようなら教育委員会と相談させていただきますが。今日一日、よーくお考えいただいて、お電話いただけます? 午後の七時から待っています!――

 ここで、電話が切れそうになったので、達孝は慌てて聞き返した。

「すみません、まだお名前をお伺いいたしておりませんが」
「教頭先生にお伝えしました! 連携の悪い学校ですね」
「申し訳ありません、教頭は席を外しておりますので(教頭に目配せ)……はい、佐伯様ですね。一年五組の佐伯美智さんのお母様ですね。はい、本日午後の七時にお電話させていただきますので……はい、よろしくお願いたします」

 佐伯と言う保護者は、一方的にまくし立てて電話を切った。

「佐伯さん、教頭さんには名前言ってなかったでしょう?」
「うん、最初から、あの剣幕でね。で、寺沢先生、演劇部なんて、いつお作りになったんですか?」
「わたしも初耳です」
「え……じゃ、保護者の勘違いですか?」
「いや、何か裏がありますね。佐伯美智が登校したらすぐに聞いてみますよ。五組の担任は中村先生でしたね……今は、正門の当番か」
 いつものようにジャンジャン鳴りだした欠席連絡の電話の対応に追われ、教頭は、もう達孝の相手をしている余裕がなかった。

 達孝の学校は、いわゆる困難校。

 朝の忙しさは、経験したものでなければ分からない。達孝は一年五組の出席簿を見た。佐伯美智は遅刻常習者のようだ。
「中村先生、クラスの佐伯美智が来たら、そのまま指導することがあるので、引っ張っていきます」
「美智がなにか?」
「それが分からんので、話しを聞きます。どうやら面白そうな生徒のようですな。それまで、遅刻指導手伝いますよ」

 予鈴が鳴ったが、生徒は急ぐ様子はない。遅刻など屁とも思っていない。

 切りのいいところで、生指の先生が叫ぶ。

「よし、ここからあとは遅刻! 当番の先生から入室許可書をもらって、教室へ行け!」
 まるで行列のできるラーメン屋の列がぐちゃぐちゃになった体になる。
 二人の当番教師に混じって達孝は、慣れた対応で遅刻者をさばいていく。そしていよいよ佐伯美智を捕まえた。
「佐伯、ちょっと先生といっしょに来てくれないか」
 優しい口調ではあるが、有無を言わせぬ重みがあった。

「あ……はい」

 美智は、覚悟を決めて達孝のあとに付いてきた。



ポナの周辺の人たち

父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

かの世界この世界:82『そいつの正体』

2020-09-25 06:06:23 | 小説5

かの世界この世界:82     

 『そいつの正体』   

 

 

 誰だおまえは!?

 

 みんなが思った。

 四人が手こずった玄武を一撃で戦闘不能にさせたのだ、それも三十センチあるかないかの身の丈で。

 いや、ほんとうにこいつがやったのか? 

 棚の裏側から十年ぶりに出てきたフィギュアのように薄汚れて精彩がない。なんとか魔法少女のようなナリはしているが、作り込みが甘く、千円の福袋の埋め草にでも入っていそうで、薄情なユーザーなら即廃棄にしてしまいそうなやつだ。

 アーーーーーー

 なんとか口を開いたかと思うと、電池が切れたように白目をむいて真っ逆さまに墜ちていく。

 ああ、待てーーーーー!

 ブリュンヒルデを先頭に落下するそいつを追いかけた。

 

 追いかけたわたしたちよりも、四号戦車の上で見上げていたロキの方が早かった。

 地上に到達する数秒前には気づいて、四号の砲塔の上で脱いだシャツを広げて待ち構え、落下地点を見定めるとジャンプしてシャツで包み込むようにしてキャッチした。

 ムヘン川でカエルを投げつけられたときから思っていたが、ロキは運動神経がいい。

「取ったあああ!」

 乱暴な言い回しの割には、やさしく保護していた。

 

「なんなんだ、そいつは?」

 

 ブリュンヒルデの問いかけにも、しばらく無言のロキ。

 やがて、そいつの顔だけをシャツから出して、ロキがしみじみ言った。

「こいつ……ポチだよ」

「「「ええ!?」」」

「温もりってか、オーラで分かる、理由は分からないけど……ポチが変身したんだ」

 履帯の修理に掛かっていたタングリスもやってきて、そいつ、ポチを介抱した。

 シャツから出したポチは、疲れ果てて眠っているようだった。

 空中で見かけた時よりも、デテールがはっきりしてきて、1/6サイズではあるが、はっきりした女の子の形をしている。

「おまえは、ちょっとあっちに行ってろ」

 顔を赤くしているロキを遠ざける。

「受注生産の限定フィギュアくらいになってきたぞ」

 頬に赤みがさして、小さいなりに体のメリハリもハッキリしてきた。閉じた目には1/6にしては長いまつ毛がそよいでいて、ザンバラな髪の毛も手櫛で整えてやると、なんとも可愛くなった。

「これは服を着せてやらないと……」

 シリンダーであったころの名残が、なんとも言い難く。このままではロキに見せられない。

 ポチの服を作ってやる者と履帯の修理をする者に分かれて作業に掛かる。

「おまえは、履帯の修理な」

 ロキの首を抱えて、わたしは履帯の修理組に入る。ブリュンヒルデとケイトがポチの衣装だ。

 タングリスが重い履帯を起動輪の手前まで引っ張り出してくれていたので、作業ははかどった。

 十分ほどで履帯の修理が終わる。

「まだまだだ」

 ポチが気になって仕方がないロキを呼び止める。

「履帯のテンションを調整する。あと、ついでに整備もな」

 タップリ一時間を整備にあてて、ようやく終了。

「もういいだろ?」

「まだだ、町長さんをきれいにしてあげろ」

 砲塔に括り付けられている町長をきれいにしてやって、ようやくポチの衣装が出来あがった。

「ポ、ポチ……」

「ロ、ロキーー!」

 ポチはベッチョリとロキの顔に貼りついて再会の喜びを爆発させた。

 不可抗力ではあるが、ポチはロキの鼻と口を塞いでしまったので、あやうく窒息するところであった。

 

☆ ステータス

 HP:6000 MP:3000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・55 マップ:6 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高35000ギル)

 装備:剣士の装備レベル15(トールソード) 弓兵の装備レベル15(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6の人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする