大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

劇団息吹 55周年記念公演『夢の裂け目』

2013-11-30 18:55:02 | 評論
劇団息吹 55周年記念公演
『夢の裂け目』


 作:井上ひさし 演出:坂手日登美

 井上ひさしの、まろく、かろく、転がりようの違う球体を歌と共に転がしたような音楽劇でした。

 難しいことを易しく、易しいことを深く、深いことを面白く……井上ひさしの面目躍如たる作品でした。
 お話は、一言で言えます「紙芝居のオッサンが、キリスト教の伝道師になるまで」であります。

 いわゆる東京裁判三部作の第一作で、終戦直後の話であります。
 東京のベテラン紙芝居屋のオッサン田中天声が、自分の名作の狸の紙芝居が、東京裁判のあり方とよく似ている……いや、そっくりであると、仕事仲間とのかかわりで気づき……その前にGHQから検察側の証人として呼ばれ恐々として出かけ、市ヶ谷の東京裁判所で紙芝居の実演まで、やることになります。そのことが新聞に取り上げられ、紙芝居の売り上げも人気も信じられないくらいのものになり、有頂天になります。

 そして、気づくのです。東京裁判は日本とアメリカの馴れ合いで、戦争責任を軍部とA級戦犯たちのせいにして、一般国民や天皇は関わりが無かった。そういう茶番劇であると。
 そして、天声は、大学などに呼ばれ紙芝居を続けます。

 これが、GHQの逆鱗に触れ、天声は逮捕されてしまいます。しかし、仲間の応援や(この仲間の作り方は「十一匹のネコ」を思わせてくれるほど人物の彫りが確かで、面白く書けています)GHQの検察官の女性秘書ミドリの共感などで、懲役を免れます。十年後、元々キリスト教の伝道師であったミドリと結ばれ、仲間達とともに明るく楽しい路上説法をしているところで幕になります。

 息吹さんの、この芝居は、井上ひさしの狙いを、ほぼ正確に再現し、音楽や道具など、独自の工夫をされて、55周年記念公演として、まずまずご成功されたのではないかと思います。ラストの観客の暖かい拍手……それは、時には手拍子にもなりました。耳の不自由な方のための字幕スーパーにも共感できました。

 わたしが観たのは30日のマチネーでした。

 暖房が心地よかったことと、十数曲流れる劇中の音楽、特に歌が上手く、日頃の昼寝の時間と重なったこともあり、瞬間居眠りしてしまいました。気づくと周辺でも船を漕いでいる人が何人か居られました。

 あえて、この芝居の欠点をあげるなら、この歌です。関西二期会のご指導もあり、どの役者さんも上手に歌っておられましたが、いささか多用しすぎ、ドラマの展開軸まで歌にしてしまったのは、どうだろうかと思いました。

 井上ひさしは劇作家として大先輩で『ひょっこりヒョウタン島』のころからのファンでもあります。
 おそらく、戦争を実体験しているか、いないかの差だと思うのですが、井上ひさしの日本に対する思いだけは共感できません。
 あの大東亜戦争が、軍部や一部の戦犯のせいではなく、普通の日本人みんなが背負わなければならない。
 ここまではいいのです。天皇陛下に戦争責任があり、日本という国のナショナルポリティー(流行りの言葉で『国のかたち』)を否定していることには同調できません。
 明治憲法を見ても、天皇は内閣の補弼のもとに政治判断や行動をするのであって、アカラサマに天皇が個人の意志を押し通すことはできません。諸外国の主権者たる国王や皇帝に比べ、決定権は無いのです。
 例外は、ニニ六事件と、ポツダム宣言の受諾だけで、いずれも政府や内閣が統治・決定能力を喪失したときのみです。

 なんだか揮発性の高い話になってしまいましたが。息吹さんの観客席と舞台の暖かさは貴重です。観客席を見てもオールドファンがいっぱいいらっしゃいました。わたしも息吹さんの芝居は30年。途切れはありますが見続けてきました。55周年、おめでとうございました。



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