大阪放送劇団小劇場Vol,38
『幸せ最高ありがとうマジで!』
作:本谷 有希子 演出:端田 宏三
90%ラッキーでした。だって、ほとんど雨に遭うことがありませんでしたから!
帰り、駅から家まで6分ほど傘をさしました。残念、明日乾かさなきゃ。
このお芝居も、そんな感じでした。
役者さんが、舞台で成長している姿を見るのはいいもんですね。平口さん、白樫さん、舞台に存在するだけで見せてくれる役者になりかけておられました。泉さんは、わたしが知る限りの初の水かぶり、性格異常の役に体当たりされて好感でした。
他の役者さんも良かったのですが、物覚えの悪いわたしは、以前の記憶がありませんので、ごめんなさい。
さて、お芝居ですが、舞台は、とある新聞配達店。そこへ明里(泉)が店の主人の愛人であるとインネンをふっかけてきます。もう7年続いた関係で「どうしてくれるんだ!」オーラをまき散らせ、家族や店員を脅します。
その中でいろんなことが分かってきます。店主の29歳の息子が19歳の妹を「チャン付け」で呼んだり、ふとした時に妹のスカートの中のパンツガ見えて、兄とは思えないうろたえ方をします。
これは、明里と妻の会話で分かります。
「あなたは、7年だけど、わたしは1年なの」
「え……?」
という下りで、妻に出て行かれた店主のところに娘といっしょに再婚してきた後添えということが分かり、兄妹の微妙な(主に兄の)気持ちが分かる入り口になっていたりします。
また、店員のえいみが、ここに就職したときテゴメにされ、えいみのトラウマになっていることが分かったり、そういうことを明里は次々に暴露していきます。
ドラマは、いたるところでどんでん返しがあり、笑いの要素があります。主人が集金から帰ってきて「こんな女知らないよ」から始まり、店員のえいみはテゴメではなく、同意のうえであったようなことも臭わせます。取りようによっては、かなり陰惨なドラマになりそうなところを、明るく観客をクスグリながら持っていったところは、本と演出の腕でしょう。
大事な台詞があります。明里がこう言います。
「どこの家でも良かったのよ。家庭崩壊させてやりたかった」
非常に不条理な台詞です。これが昔の不条理劇ならば、理由は明示しません。わたしは、オールビーの『動物園物語』を思いだしました。
公園で静かに新聞を読んでいる男に、見覚えのない男が執拗に、いろんな話題を投げかけ、新聞男を困らせます。全編コントのように観客を笑わせてくれます。最後に男はナイフを出して新聞男に体当たりします。
そして、ナイフが深々と刺さりくずおれていくのは……観客の予想を裏切って、ナイフ男の方です。
「ありがとう……」
そう言って、ナイフ男は、安らかに死んでいきます。
ナイフ男が、新聞男に絡みまくる動機は書かれてはいません。ナイフ男は、本当に心が通じ合える相手が欲しかったのです。現代人の孤独の権化のような役割で、ハメられたとは言え、新聞男は、初めてナイフ男に「どうして?」という人間的な言葉を残し、観客は、一見不条理に見えていた二人の男に共感します。ショックとカタルシスが同時にくる見事な作品です。
ところが、この『幸せ最高』は、リアリズム演劇のような描写が多く、明里の不条理さが浮いてしまいます。ドラマの中でも、明里の「どこでも、だれでも良かった」気持ちは、ただ本人の口から「性格異常」と言われるだけで、具体的な背景がありません。ただ、飼っていた猫が死んだという言葉はでてきますが、明里の異常な行動の説明にはなっていません。ひたすら明里はムチャクチャなのですが、誰とも親しくなれず、誰の人生も変えません。ポリタンで石油をブチ撒き、自分も石油まみれになりながら、なにも変わらず、ただ屋根の上で狂ったように笑っておしまいです。
作者は、若者の絶望感にこだわって本を書いたようですが、明里には、感情移入できません。泉さんの演技が真面目であるために、観客はどこかで、明里にシンパシーを持とうとしますが、できません。
わたしは、劇団往来がよくやるような、スラプスチックに徹すれば、違う道を通って、観客をカタルシスに導けたかもしれないなあと思いました。
う~ん、まとまりませんね。
コムツカシイ表現になりますが、リアリズム演劇と、不条理演劇のドラマツルギーの両方を持ってしまった結果だと思います。
放送劇団は、関西では珍しく、きちんとしたリアリズム演劇ができる劇団です。もう前世紀の遺物なのかもしれませんが、インジの『ピクニック』や、ルナールの『にんじん』なんかを大真面目にやってもらいたいという、個人的な希望はあります。泉さんは、この両方に適役があるように思います。『欲望という名の電車』のステラの役も。そうなると、ブランチを誰が演るかという楽しい悩みも出てきます。
まあ、放送劇団ファンの勝手な妄想ではあります。
『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』
青雲書房より発売中。大橋むつおの最新小説!
お申込は、最寄書店などでお取り寄せいただくか、下記の出版社に直接ご連絡いただくのが、一番早いようです。ネット通販ではアマゾンや楽天があります。青雲に直接ご注文頂ければ下記の定価でお求めいただけます。
青雲書房直接お申し込みは、定価本体1200円+税=1260円。送料無料。
送金は着荷後、同封の〒振替え用紙をご利用ください。
大橋むつお戯曲集『わたし 今日から魔女!?』
高校演劇に適した少人数戯曲集です。神奈川など関東の高校で人気があります。
60分劇5編入り 定価1365円(本体1300円+税)送料無料。
お申込の際は住所・お名前・電話番号をお忘れなく。
青雲書房。 mail:seiun39@k5.dion.ne.jp ℡:03-6677-4351
大橋むつお戯曲集『自由の翼』戯曲5本入り 1050円(税込み)
門土社 横浜市南区宮元町3-44 ℡045-714-1471
『幸せ最高ありがとうマジで!』
作:本谷 有希子 演出:端田 宏三
90%ラッキーでした。だって、ほとんど雨に遭うことがありませんでしたから!
帰り、駅から家まで6分ほど傘をさしました。残念、明日乾かさなきゃ。
このお芝居も、そんな感じでした。
役者さんが、舞台で成長している姿を見るのはいいもんですね。平口さん、白樫さん、舞台に存在するだけで見せてくれる役者になりかけておられました。泉さんは、わたしが知る限りの初の水かぶり、性格異常の役に体当たりされて好感でした。
他の役者さんも良かったのですが、物覚えの悪いわたしは、以前の記憶がありませんので、ごめんなさい。
さて、お芝居ですが、舞台は、とある新聞配達店。そこへ明里(泉)が店の主人の愛人であるとインネンをふっかけてきます。もう7年続いた関係で「どうしてくれるんだ!」オーラをまき散らせ、家族や店員を脅します。
その中でいろんなことが分かってきます。店主の29歳の息子が19歳の妹を「チャン付け」で呼んだり、ふとした時に妹のスカートの中のパンツガ見えて、兄とは思えないうろたえ方をします。
これは、明里と妻の会話で分かります。
「あなたは、7年だけど、わたしは1年なの」
「え……?」
という下りで、妻に出て行かれた店主のところに娘といっしょに再婚してきた後添えということが分かり、兄妹の微妙な(主に兄の)気持ちが分かる入り口になっていたりします。
また、店員のえいみが、ここに就職したときテゴメにされ、えいみのトラウマになっていることが分かったり、そういうことを明里は次々に暴露していきます。
ドラマは、いたるところでどんでん返しがあり、笑いの要素があります。主人が集金から帰ってきて「こんな女知らないよ」から始まり、店員のえいみはテゴメではなく、同意のうえであったようなことも臭わせます。取りようによっては、かなり陰惨なドラマになりそうなところを、明るく観客をクスグリながら持っていったところは、本と演出の腕でしょう。
大事な台詞があります。明里がこう言います。
「どこの家でも良かったのよ。家庭崩壊させてやりたかった」
非常に不条理な台詞です。これが昔の不条理劇ならば、理由は明示しません。わたしは、オールビーの『動物園物語』を思いだしました。
公園で静かに新聞を読んでいる男に、見覚えのない男が執拗に、いろんな話題を投げかけ、新聞男を困らせます。全編コントのように観客を笑わせてくれます。最後に男はナイフを出して新聞男に体当たりします。
そして、ナイフが深々と刺さりくずおれていくのは……観客の予想を裏切って、ナイフ男の方です。
「ありがとう……」
そう言って、ナイフ男は、安らかに死んでいきます。
ナイフ男が、新聞男に絡みまくる動機は書かれてはいません。ナイフ男は、本当に心が通じ合える相手が欲しかったのです。現代人の孤独の権化のような役割で、ハメられたとは言え、新聞男は、初めてナイフ男に「どうして?」という人間的な言葉を残し、観客は、一見不条理に見えていた二人の男に共感します。ショックとカタルシスが同時にくる見事な作品です。
ところが、この『幸せ最高』は、リアリズム演劇のような描写が多く、明里の不条理さが浮いてしまいます。ドラマの中でも、明里の「どこでも、だれでも良かった」気持ちは、ただ本人の口から「性格異常」と言われるだけで、具体的な背景がありません。ただ、飼っていた猫が死んだという言葉はでてきますが、明里の異常な行動の説明にはなっていません。ひたすら明里はムチャクチャなのですが、誰とも親しくなれず、誰の人生も変えません。ポリタンで石油をブチ撒き、自分も石油まみれになりながら、なにも変わらず、ただ屋根の上で狂ったように笑っておしまいです。
作者は、若者の絶望感にこだわって本を書いたようですが、明里には、感情移入できません。泉さんの演技が真面目であるために、観客はどこかで、明里にシンパシーを持とうとしますが、できません。
わたしは、劇団往来がよくやるような、スラプスチックに徹すれば、違う道を通って、観客をカタルシスに導けたかもしれないなあと思いました。
う~ん、まとまりませんね。
コムツカシイ表現になりますが、リアリズム演劇と、不条理演劇のドラマツルギーの両方を持ってしまった結果だと思います。
放送劇団は、関西では珍しく、きちんとしたリアリズム演劇ができる劇団です。もう前世紀の遺物なのかもしれませんが、インジの『ピクニック』や、ルナールの『にんじん』なんかを大真面目にやってもらいたいという、個人的な希望はあります。泉さんは、この両方に適役があるように思います。『欲望という名の電車』のステラの役も。そうなると、ブランチを誰が演るかという楽しい悩みも出てきます。
まあ、放送劇団ファンの勝手な妄想ではあります。
『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』
青雲書房より発売中。大橋むつおの最新小説!
お申込は、最寄書店などでお取り寄せいただくか、下記の出版社に直接ご連絡いただくのが、一番早いようです。ネット通販ではアマゾンや楽天があります。青雲に直接ご注文頂ければ下記の定価でお求めいただけます。
青雲書房直接お申し込みは、定価本体1200円+税=1260円。送料無料。
送金は着荷後、同封の〒振替え用紙をご利用ください。
大橋むつお戯曲集『わたし 今日から魔女!?』
高校演劇に適した少人数戯曲集です。神奈川など関東の高校で人気があります。
60分劇5編入り 定価1365円(本体1300円+税)送料無料。
お申込の際は住所・お名前・電話番号をお忘れなく。
青雲書房。 mail:seiun39@k5.dion.ne.jp ℡:03-6677-4351
大橋むつお戯曲集『自由の翼』戯曲5本入り 1050円(税込み)
門土社 横浜市南区宮元町3-44 ℡045-714-1471