駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

続・はるかなる一族によせてーー

2018年06月03日 | 日記
 先日、NHKカルチャーの藤本由香里氏「タカラヅカの原作漫画がすごい!」を受講してきました。宝塚歌劇で取り上げられる少女漫画にはストーリーを追うだけではもったいない奥深さがある、その魅力や作者について、またそこに描かれる女性性について語る…という趣旨のもので、宝塚歌劇の歴史から始まって、手塚治虫や高橋真琴、中興の祖となった『ベルばら』について、そして最近の『ポー』『天河』が語られる、なかなか刺激的な講座でした。 私は氏の『私の居場所はどこにあるの?』(学陽書房、1998年刊。今は朝日文庫)を愛蔵していますが、私にとって氏はだから少女漫画評論家といったイメージで、宝塚歌劇についてはファンだけれど格別くわしいわけではない、という印象でした。なんせなーこたんを新人演出家だと思っているようでしたからね。少女漫画の宝塚歌劇化という意味ではそれこそモーさまの『アメリカン・パイ』をやっているし、最近なら『はいからさんが通る』をやった演出家さんですよ!(笑)だから宝塚歌劇に関しては、誘われたら行くとか興味のある演目ならチケット探すとか、それくらいのファンなのかなと思いました。
 なので、イケコ版『ポー』について熱く語りつつも、結局話は原作漫画『ポーの一族』のすごさについて還っていき、近作『春の夢』そして最新作『ユニコーン』のすごさに至っていくものとなりましたし、そこは私も望むところではあったので、ついでに現時点で自分がいろいろ感じていること、考えていることを書いておくことにしました。
 ちなみに、宝塚歌劇で『ポー』の上演が発表されたときの記事はこちら、初日の日記はこちら、最終的な観劇記はこちらです。
 さらにちなみに、宝塚版『天河』については氏はあまり買っておらず、それは原作漫画の傑出した点が舞台にはほぼ抽出されていなかったからだ、と語っており、それは私も同感でした。ヒロインがただ色ボケで愛に生きるのではなく、愛した男の政治的思想や国政への理想に共感し、それを彼と共に実現すべく行動する点、その判断力や勇気、知恵、正義、政治力、人望などなどを描いたことこそが素晴らしいのに、そういった面は舞台版では全然描かれていないから、と言うのです。まったく正しい。そういった意味で、この漫画は一見よくある逆ハーものに思えますが本質的な良さはそんなところにはなくて、こういうヒロインのこういう生き様を描いたところが革新的だったのであり、今なお読まれるに足る作品たりえているのです。
 でも舞台でそれをそのままやったら本当にヒロインの物語になってしまって、男役であるトップスターが演じる男性主人公を立てることが至上命題の宝塚歌劇の芝居にはそぐわないのです。ではどうすればよかったのか…という話にはならなかったので、氏はやはり少女漫画ファンであって宝塚歌劇ファンではないのでしょう(^^;)。なのでそこは私が勝手に代わりに考えますね(笑)、たとえばこちら

 さて、というわけで、『ポーの一族』です。
 私はイケコのことを傑出した演出家だと思っていますが、氏よりも数を観ているであろう分、ハズレも観ているし手抜きやマンネリを感じることもあるし、『ポー』に関しても手放しの大絶賛には与しません。氏が高く評価していた大老ポーに関する改変についても、恒例会に幽霊として出すためだけに消滅させることにしたのだったら意味なんかないし、幽霊として出てきてわざわざ告げた預言は結局全然役に立たなかったんだからそれも意味ないし、発表が前後していたとはいえ『春の夢』で大老ポーは生きていたことが描かれているんだから齟齬が出るし、何よりバンパネラに魂があるとか幽霊になるとかの設定を安易に追加していいのかよ、塵となり無となる無情さを抱えた存在だからこそ悲しく美しい、とされているのではないのかよちゃんと原作をリスペクトしてんのかよイケコどーなんだよ、ってレベルで怒っています。でも、総じてよく出来ていると思うし、手慣れた舞台装置使いや場面転換も上手いし手堅いし、手法として定番なんだけれどふたつの主題歌のリフレインも効果的だったと思っているし、もちろん役者にも恵まれて、平均点以上の作品だったと思っています。
 ただ、これは本来は主役カップルを演じさせるべきトップコンビを主人公と義母という関係にせざるをえなかったことにもよるのかもしれませんし、またイケコ本人のごく古くマッチョな思想がにじみ出ちゃったのかもしれませんが、原作漫画にはない「家族」という言葉がキーワードになりすぎているきらいはあって、それはあまり良くないなと私は思っていました。ポーツネル男爵一家なるものはあくまで世間の目を欺くための偽装であり偽物である、と少なくともエドガーは思っていたと思うし、彼にとって本当の家族はあくまでメリーベルただひとりだったのだろうと思うからです。100年がた家族をやっていてなお、男爵に反発するあきらめの悪い少年…それがエドガーなんだと思うからです。(でも「父さま」って言うときは言うの! そこがいいの!!)
 これは、原作者の萩尾望都先生ご自身にご両親との大きな確執があったこと(なんなら今なおあること)にもよるものだと思いますし(ある程度の読者にならわりと広く知られた事実かと思います)、この作品が多感な少女たちの心を捕らえる要因となった点のひとつでもあると思います。だから安易に「家族愛って素晴らしいよネ!」みたいな話にはしてもらいたくなかったのです。
 ただ、タイトルが「ポーの一族」であることからもわかるように、もちろんこれはエドガーを主人公とした連作シリーズなんだけれど、タイトルロールは「ポー一族」なのであり、血のつながりはなくとも、バンパネラとして同種、同族であるということである程度寄り集まらないと生きていけない集団、その生き方、を描くことこそに主眼がある作品なのかもしれないな、とは改めて気づかされました。エドガーと、ポー一族の物語。孤独にならざるをえず、けれど寄り集まって協力し合わないと生きていけず、でもそうやって群れてもやっぱり心は孤独で…みたいな、そのむなしさ、せつなさ。メリーベルを失って、アランと共に旅に出たエドガーだったけれど、アランは家族にはなりえないし、一族の助けの手もなんだかんだ言って借りていて。でも物語の最後にはそのアランをも失って…
 続きというか別の話を描きたい、という思いは萩尾先生の中にはけっこう長くあったものらしく、まして『春の夢』と舞台化が前後しつつほぼ同タイミングだったのはまったくの偶然だったそうですが、さらに描かれ始めた『ユニコーン』に関してはこの舞台版からの影響があるのかもしれず、その意味ではイケコに感謝したいです。舞台版の物語を「家族」ではなく「一族」のものとして捉えて、改めて原点に立ち返りたくなり、次の着想を得たのだとしたら…ありがとうイケコ! もちろん、どんなものからでもいろいろ取り込み新作をものし続けるクリエイター萩尾望都が素晴らしい、というのは一番にありますが。
 そして私自身は、とはいえこの作品は『エディス』のエピソードを持って完結しているのであり、藤本氏が言うようにすべての連作がここに収斂する形になっているところが素晴らしいのであり、新作とか続編とか言ってもこの先の話とかは読みたくなくて、だから『春の夢』が『エディス』以前のエドガーとアランのお話であったことにはひどく安心しましたし、こうした形で、『メリーベルと銀のばら』と『エディス』の間のどこかを埋めたりより深く掘ったりするような新作なら大歓迎だし、それで露わになる事実がまだまだあるんだからこり物語は本当に深いし、当初どこまで考えていたのモーさま…!と震えたりしていたわけですが、しかして「月刊フラワーズ」最新7月号から始まった『ユニコーン』ですよ、舞台は2016年ですよ!
 これは『エディス』が描かれたのも作中の時間も共に1976年だったのと同じで、『春の雪』が描かれたのが2016年なので、それと同じターンとされているんだと思います。このとき40年ぶりの新作、と話題になったわけですが、同じくきっちり40年後の物語が今、描かれ始めているわけです。
 アランを失ってボロボロになっているであろうエドガーの話なんか涙なくして読めないし読みたくない、かといってまた別の誰かと出会って幸せになっているエドガー、みたいなのを読むのもつらい。だから『エディス』の先なんて知りたくない読みたくない…と思っていた私でしたが、神が描くというなら仕方がないと覚悟を決めて読んだわけです。で、神はやっぱり神だったということですよみなさん!
 それからすると、そもそもはこれを描きたくて、まずはファルカとかシルバーを出すために『春の夢』を先に描いておいた…というのはあるのかもしれません。ううーむ、恐るべし萩尾望都。
 きちんと読んでいただきたいのでここでネタバレは語りませんが、個人的には題材として「こうきたか、そうしたか!」と思うようなものでしたし、でもそれに絡めて改めて、今までそれほど具体的に語られなかったポーの村やそこでのメリーベルやアランの事件が明かされていくのであろうかと思うと、そしてもしかしたらまたエドガーの笑顔が見られるのかもしれないと思うと、心震わせずにはいられません。アーサー、お願い…!
 さらに、今回の舞台がドイツのミュンヘンであることにももしかしたら意味があるのかもしれないと私は思っていて、それは『小鳥の巣』のラストにあって回収されていない、言わずとしれたキリヤンの血の因子の件につながるかもしれないと思えるからです。当時の私はあれは一角獣種とか、SF世界につながるものかなとか思っていたのですが、奇しくも今回のタイトルが『ユニコーン』なんですよギャー震える…!!
 何かすごいことが起きつつあるのをリアルタイムで目撃することになるかもしれませんよ、みなさん。これは最近よくある単なる焼き直しとか子供世代を描くような人気作の安易な続編なんかではない、何かもっと別の進化ですよ。
 藤本氏は「全人類が買うべき」と言っていましたが(笑)、『ユニコーン』第1話掲載号はまだ発売中で、今回は電子版も出ています(『春の夢』第1話掲載号は未電子化で異例の雑誌増刷になりました)。ぜひ! ぶっちゃけステマですが、これはマジで!! そしてみんなでエドガーの幸せを祈りましょうよ…
 エディスは素敵なマダムになっているのかしらん。私はリデルのエピソードも大好きですが、あんな感じに思い出を語るようになっているのかもしれませんね。そしてもしかしたらただの思い出ではなくなるのかも…? はあぁ、楽しみすぎます!!!




コメント (5)
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