駒子の備忘録

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『デカローグ』プログラムA、B

2024年05月03日 | 観劇記/タイトルた行
 新国立劇場小劇場、2024年4月26日18時半(A)、28日13時(B)。
 クシシュトフ・キェシロフスキ監督が1988年にポーランドで放映した十話からなる映像作品の舞台化。
 プログラムAは1、3。1は、大学の言語学の教授で無神論者の父クシシュトフ(ノゾエ征爾)と息子パヴェウ(石井舜)との、「ある運命に関する物語」。3は、タクシー運転手ヤヌシュ(千葉哲也)と元恋人エヴァ(小島聖)との「あるクリスマス・イブに関する物語」。
 プログラムBは2、3で、2は、交響楽団のバイオリニストであるドロタ(前田亜季)が同じ団地に住む医長(益岡徹)に入院中の夫アンジェイ(坂本慶介)の余命を尋ねて…という「ある選択に関する物語」。4は、父親のミハウ(近藤芳正)とふたり暮らしの演劇学校の生徒アンカ(夏子)が「死後開封のこと」と父の筆跡で書かれた封筒を見つけて…という「ある父と娘に関する物語」。

 もとの映像(テレビシリーズ)は55分の10連作だそうで、その舞台化は4が60分、あとは50分の小品でした。暗転も多く、確かにもとが映像作品だったんだろうな、と思わせられました。すべてのキャラクターが同じ団地に住んでいる設定だそうで、チョイ役でも重なって出てくる登場人物もいますし、全編を通して「男」という役名の亀田佳明が出ている、という趣向のようです。
 ただ、私は十戒そのものにあまりくわしくないですし、全編を観終えないとなんとも…という印象でした。私はフルセット券をハナから買いましたが、まあ大多数の観客はそうしているんでしょうかねえ。だってひとつだけ観ても「はて…」って感じですもんねえ。
 題材がメロドラマっぽい分、Bの方が私は楽しく観られました。
 でも1は興味深かったかな。子供の死、というのは私自身には縁遠い題材なので、もちろんものすごい悲劇だとは思いましたが、そこに無神論とかコンピュータというモチーフが持ち込まれているのがおもしろく感じられたのです。初期のコンピュータは、プログラムが正しければそりゃ正しい計算結果を出してくれたでしょうけれど、そのプログラムがはたして正しかったのか、という検証は困難だったりするんだろうし、たとえその計算が正しくても計算どおりにいかないのがこの世の事象なわけで…そこに、無神論者だったからその報いを受けたのか?みたいな発想が乗るのが、もう本当に欧米チックだな…と極東の一観客なんかは思うわけです。
 1は2と「神への直接の言及」に関して呼応している…んだそうですが、2にそんな要素はありましたっけ…? ドロタや医長が神に祈ったり、しましたっけ? アンジェイが回復したのは奇跡的なことだったのかもしれないけれど、ドロタの決断はそれとはまったく別の次元のことだったんだろうし、もはや夫とヤネク(近藤隼)とのどちらをどう愛していたのか、とかいう問題ともまったく別次元のことだったのではないか、と観ていて私は感じたのですが…この時点で子供の父親にはなんの権利もないし、ただただ母親の意志でどうとでも決断できうるもの、という気がしました。
 ちょっとおもしろく感じたのが、「お腹の子供を堕ろす」という表現が何度も出てきたことです。女性の日常ではよくある言葉だと思いますが、ナチュラルすぎる分、忌避されがちな言い回しだと思うんですよね。それをダイレクトに言っていて、本当にいいなと思いましした。主題からして、そこから目を背けてどーする、って気がしましたしね。
 なので2はむしろ4と呼応していて、これは娘が生まれてすぐに死んだ母親が実は不義を働いていたのではないか、ふたりで仲良く、ほとんど恋人同士のように生きてきた父と娘には実は血のつながりはなかったのではないか…という物語で、ドロタが産むのが娘ならその将来の物語でもあるようにも思えました。親子って、家族ってなんなんだ、男女としての色恋と家族としての情愛の境界はどこにあるんだ…というようなお話だったかと思います。今は年齢差のありすぎる恋愛とか、グルーミングなんかに対しても厳しい視線が向けられているので、展開に「おいおい…」となりつつも、一線を保つことをふたりが選んでくれてよかったよ…とは思いました。もちろんしばらくはお互い苦しいんだろうけど、それでも、ね…

 役者はみんな達者で、劇的なBGもスリリングで、そういう意味では滋味深い舞台でした。あと三公演、楽しみです。








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