経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

税収急増と計画墨守の愚

2013年06月23日 | 経済(主なもの)
 スケジュールというのは目的達成のために作るものだが、往々にして、スケジュールどおり進めることが目的化する。スケジュールどおり進めることが、むしろ、目的達成を遠ざける事態となっても、やめられない。約束と期待を違えた責任を追求されないことが優先されるのである。

 財政健全化目標は、国・地方のプライマリーバランス赤字を、2015年度に半減し、2020年度までにゼロにすることにしているが、なぜ、15年度であって、16や17年度ではいけないのか、誰も答えられまい。消費増税も14年度に3%アップ、15年度に2%アップする計画だが、先に2%、後に3%でまずい理由があろうか。今となれば、デフレの現在に近い時期の上げ幅が大きいことに疑問を感じるはずだ。

 おそらく、日本の財政当局は、今夏の参院選が終われば、16年度まで国政選挙がないから、それまでに済ましたいとしか考えていないのではないか。そうでなければ、需要不足によるデフレからの脱出も十分に見通せない時期に、1%程度の慎重な成長率を前提にすべきと言っておきながら、それを上回る規模の増税をしようというのだから、まったく常人の理解を超えている。

 更によろしくないのは、足元の税収をろくに把握せず、増税ばかりを考えていることだ。実は、アベノミクスは大規模な税収増をもたらしつつある。それは消費税の3%アップを不要にするほどなのだ。つまり、何もしなくても、予定の税収は得られるのに、成長を墜落させかねないハイリスクの増税をしたがっているわけだ。消費増税ができれば、財政再建は後回しになっても構わないものらしい。

………
 税収の動向を把握するには「税収及び印紙収入額調」を見るのが基本だ。昨年度、すなわち、2012年度の一般会計の前年同月比は102.5であるから、これを前年度決算額に乗じれは、43.9兆円という数字が出てくる。予算額は42.6兆円だから、1.3兆円の上ブレと分かる。これを使って、秋の臨時国会で補正予算を組み、消費増税の際の低所得者対策をしようといった話が巷で言われている。 

 この「税収調」だが、よく見ると、法人税の伸び率がどうも小さい。実は、これには仕掛けがあって、復興法人特別税が別立てになっているからだ。これを組み込んで計算し直すと、実質的な法人税の伸び率は12%程度と考えられる。この数字ならば、証券各社が発表した上場企業の2012年度業績見通しの経常利益の増加率とも概ね一致する。

 重要なのは、次の2013年度だ。証券各社は、今年度の経常利益を25%程度の増としている。つまり、法人税は前年度から更に3.7兆円も上ブレすることを意味する。次に、所得税については、前年度、GDP成長率1.2%の下で3.8%伸びているから、今年度の予想GDP成長率2.9%の下では、その2.4倍伸びるだろうと置くと、1.8兆円増という計算となる。続いて、消費税についても同様にすると、0.3兆円増である。結局、税収全体の見込み額は48.6兆円程度になろう。むろん、これは今年度予算の税収見込み額43.1兆円を5.5兆円も上回る。

 これだけ大きく伸びると言われると、「本当なのか」との疑念も湧こうが、リーマン・ショック前の2007年の税収は51.0兆円だったのだから、これでも過去のレベルを取り戻すわけではない。ところで、財政再建の目安となる「経済財政の中長期試算」の慎重シナリオでは、2014年度の税収は、消費増税を前提に、51.5兆円とされている。つまり、財政再建の計画が目標にする税収は、経済を順調に回復させれば、消費増税なしでも行き着けるレベルにある。

 結局、今年度の国の税収が、アベノミクスによって48.6兆円まで伸びれば、2014年度の財政再建の目標の51.5兆円まで、あと1.9兆円となる。このくらいなら、自然増収で大半は埋められよう。敢えて消費増税をするにしても、1%で十分である。逆に、今年10月に予定どおりの消費増税を決めれば、業績不安から株価は下落し、インフレ期待が失われて円高に振れ、アベノミクス自体が崩れるおそれがある。

 最後に、ワイルドカードを出しておこう。国税が急伸すれば、当然、地方税も急伸する。説明が長くなるので計算は省くが、今年度は、地方財政計画より0.7兆円ほど上ブレすると見ている。2014年度は、更に2.9兆円増もあり得よう。地方税も、2009年度には39.5兆円もあり、今より4.2兆円も多かった。こちらも大きく伸びるように見えて、過去水準まで、あと一歩足りない程度でしかない。

 現在、国は、地方税の足りない分を肩代わりしているから、地方税が増すと財源措置を減らすことができる。つまり、国の財政は楽になり、その意味で税収増と変わらない。消費税をまったく上げなかったとしても、地方税の回復ぶりを勘案すれば、目標以上の財政再建の達成とさえ言えるだろう。それなのに、どうして、一気の消費増税でリスクを犯さなければならないのか。

………
 経済というのは「生き物」である。フィードバックが働くために非線形的に変化するから、本来的に長期のスケジューリングにはなじまないものだ。非線形的なものへの対応は、予測の期間を短く区分し、線形近似で臨むのが定石である。それを官僚的な計画至上主義で臨むから、財政再建より消費増税を優先するような愚を犯すことになる。

 経済も、財政も、足元の状況をよく把握し、見通しのローリングを繰り返して運営しなければならない。お役所は、現状についての情報をコンロールすることで、理に外れた計画でも貫徹しようとするが、彼らの力を頼らずとも、ある程度の推計をするだけで、大きな流れはつかめる。そうした基本を怠っていることが、日本のマクロ経済の運営を稚拙なものにしている。

(昨日の日経)
 タイ大手銀を買収。5兆円の税収増必要、15年度の財政健全化目標。租税回避地の認定緩和。銀行への公的資金回収12.5兆円。20~30代の持ち家率低下。米長期金利に警戒感。緩和縮小計画「表明は不適切」。超長期債の利回り上昇。

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