経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

緊縮財政の僕としての日銀総裁

2014年11月09日 | 経済
 日銀総裁の仕事は、大して効果がないと知りつつも、懸命にやっているよう見せることが肝要らしい。少しでも緊縮財政をやられると、金融緩和はひと溜まりもないが、財政再建は絶対の善とされ、金融緩和だけで景気は良くなると思い込まれている。こうした信心を持つ「権力者」に対し、反論する無益を犯さず、気に入られるべく行動するというのは難儀である。これが上川龍之進先生の新著『日本銀行と政治』(中公新書)の読後感であった。

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 金融緩和をすると、自国通貨安により輸出が増え、ローン金利の低下で住宅建設が伸びる。設備投資には直接効かず、二つの需要増が経路となり、需要リスクが癒されて初めて促進されるというのがポイントである。あとは、投資増→所得増→消費増→需要増と、好循環が続いて成長は加速して行く。 

 日本の経済政策の特徴は、好循環が始まりかけると、すぐさま財政が退いてしまい、成長を失速させ、元の木阿弥にしてしまうところにある。後に残るのは、景気を下支えした際に積み上げた国債と低金利である。こうした財政のゴー&ストップを繰り返したことが、巨額の財政赤字と異様な金融緩和が同居するという「奇観」を作り上げた。

 その典型は、今まさに体験していることだ。異次元緩和もあって、2012、2013年と1.5%成長を続けてきたのに、GDPの1.5%にもなる一気の消費増税で家計から所得を抜き、マイナス成長へ突き落としてしまった。そうしておいて、慌てて補正予算で低所得層や地方に還元するというのだから、稚拙な需要管理にも程があろう。

 財政再建の観点でも、順調に成長を続けていれば、自然増収と相まって、2025年度にはプライマリーバランスを回復させられるところまで来ていた。この期間に、消費税率を徐々に10%まで引き上げれば良いものを、一気にやって成長を失速させ、却って再建のメドを失わせた。しかも、増税の代償に法人減税で財政に穴を開ける始末である。

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 こうしたお粗末な財政が、金融政策に負荷をかけることになる。一気の消費増税をしていなければ、ハロウィンの異次元緩和第二弾も不要だったことを想起すべきである。異次元緩和はまだコントローラブルだと考えているが、未経験の出口戦略に、どんな困難が待ち受けているか、誰も分からない。余計なものは、負わずに済ませたいものである。

 日銀には、1980年代末にバブルを作ってしまったトラウマがある。これは、円高を気にする財政当局に遠慮して、金融引締めが遅れたためとされる。財政が退き、需要を輸出に頼ると、円安が重要になり、金融政策が動員される。緊縮財政との組み合わせだから、物価は上がらないが、これが金融引締めの遅れにつながり、資産価格の高騰を許すことになった。

 しかし、長らく日本が頼りとした、金融緩和による円安で外需を確保し、緊縮財政で財政再建を果たそうとする戦略も、もはや、通用しなくなった。円安にしても、企業は、海外生産で対応して、輸出を増やさなくなったからだ。その背景には、小泉政権下で、金融緩和のやり過ぎが円キャリートレードによる「円安バブル」を作り、これがリーマンショックで弾け、企業に大打撃を与えたことがある。

 もし、小泉政権下で緊縮財政をせず、輸出を起点に、内需を拡大する好循環を成立させていれば、企業は内需でも業績を伸ばせたはずである。内需が確保できていれば、リーマンの衝撃は分散できたし、そもそも、極端な円安にする必要もないから、外需頼りに陥ることもなかった。歪な政策が脆い経済にしていたのである。

 こうして、金融緩和の重要な経路であった輸出は失われた。住宅建設は、先食いをやり過ぎ、とうの昔に効かなくなっている。昨年の住宅建設の好調さは、金利の低下よりも、消費増税の駆け込みのせいであろう。そうすると、残る経路は、プチバブルを作ることにより、富裕層を中心とした資産効果で需要を喚起することくらいになる。

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 振り返ると、平成における日銀総裁は、主観的にはともかく、緊縮財政に足をとられ、無理を重ねているのに、これを理解しない世論に、デフレの責任を問われ、激しい批判にさらされるという「損」な役割を勤めてきたように見える。その姿は、緊縮財政を最優先とする思想の僕として使役されたかのようだ。

 むろん、仕えるべきは、財政ではなく、国民経済である。その独立性は、金融政策の限界を訴えるだけでなく、財政の責任をも問い、対等の関係で協調し、経済成長の道を指し示すために必要となる。消費税率や社会保険料率が高い社会では、自然な景気回復の好循環は起こり難くなり、物価と資産は乖離しがちとなる。こうした時代にあって、新たな意味の独立性が求められている。


(一昨日の日経)
 石化設備を統廃合。ECB通貨緩和を準備。再増税延期の影響の洗い出しを指示。社説・再増税へデフレ脱却。一時115円台半ば。9月景気動向指数・強弱入り混じる。クルーグマン・消費税急ぐな。経済教室・カジノは周辺に売り上げ減・鳥畑与一。

(昨日の日経)
 日中首脳が来週会談。4-9月期の上場企業の経常益1割増、上位10社で8割、2ケタ減益300社。経済対策18日にも指示。追加緩和1週間・円6円強下落、株1200円上昇。10月米雇用21.4万人増。黒田日銀のサプライズの舞台裏。

(今日の日経)
 日中の経済対話再開へ。地方経済回復遅れ・日経500調査。増税影響97年より大きい・片岡剛士、上げるリスクにも注意を・村嶋帰一。

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