経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

分割統治の国・日本

2016年03月13日 | 経済
 財政当局の人は、よく「政治や国民は増税を嫌う」とこぼすのだが、それは、どこの国も同じだ。とりわけ日本で抵抗が強いのは、デフレ下で消費増税をしようとしたり、みすぼらしい社会保障を更に切り詰めようといった無理を押し通そうとするからてある。そして、強引に進めるために用いられるのが、植民地支配で使われる分割統治の手法である。

 国民に消費増税を押し付けるのに、経済界には法人減税を約束したり、世代間などの様々な「不公平」を掲げて、攻撃対象を示し、社会保障をより低い方へと揃えようとする。これでは、財政再建にもならないし、公共政策への信望が失われて、国の存在意義を掘り崩しかねない。日本は、ベスト&ブライテストに、こういうことをさせている。

………
 井出英策・古市将人・宮崎雅人著『分断社会を終わらせる』は、こうした日本の在り方を鋭くえぐった快著である。共著でも分担執筆でないことに表れるように、熱意を感じる内容であった。財政再建に価値を置きがちな財政学者が「だれもが受益者」という拡張的な財政戦略を訴えるとは、正直、思わなかった。東日本大震災の際、財政学の教科書に反し、復興増税を唱える財政学者を見て、すっかり失望していたからね。

 井出教授の主張は、財政を「選別」主義から「普遍」主義へ変えようとするものだ。やや長い引用になるが、こう述べている。「低所得層を受益者にすれば、少ない予算で格差を是正できるので経済効率的だ。だが一方で、既得権益が目につくようになり、受益者批判や対立を激化させるという意味で社会的に非効率になる。しかもそれは租税抵抗という政治的非効率をも引き起こして、再分配のための財源を縮小させる。財源が減れば、再分配の機能は弱まる。経済効率性への偏重が、結果的に本来の目的を困難にし、社会的・政治的な対立だけを残してしまうのだ。(p.167)」 こうした見方には、まったく賛成である。 

 では、どうやって、ここから抜け出すのか。まずは、滅茶苦茶な経済運営を改めることである。せっかく、円安株高で景気が上向いたのに、一気の消費増税、続けての8兆円緊縮、ゼロ成長状態での更なる緊縮と、これだけ過激では、成長する方が不思議だ。成長がなければ、財政再建でも、格差是正でも苦しみに塗れる。需要管理の観点を持ち、成長を阻害しない範囲で、穏健かつ平凡な財政をすれば良いのである。

 二つには、普遍主義の下にある社会保険の守備範囲を広げることだ。2007年度から2013年度にかけて、介護等の高齢者向け現物給付は、6.3兆円から8.7兆円へ+2.4兆円だったのに対し、保育等の家族向け現物給付は、1.4兆円から1.7兆円へ0.3兆円増えたにとどまる。この違いは、社会保険であるか否かにある。これだけ保育不足が叫ばれても、税で財源を確保するのは極めて難しい。

(図)



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 「育児保険」なんて、あり得ないと思われるかもしれないが、0-2歳児を抱える母親に月額8万円を、老後に給付する予定の年金の一部を前倒しする形で給付すれば良い。現在の保育の不足は、極めて高コストの乳幼児の保育を「安く」供給しているために、需要過多になっている。保育を利用しない代わり、現金を給付することで、需要を冷やすわけである。乳幼児保育はパート収入では賄えないほどだから、保育供給を増やすことだけによる解決は、時間もかかる上に、必ずしも社会的に効率的ではない。(制度設計は「雪白の翼」を参照)

 むろん、老後の年金を前倒しでもらえば、将来の給付が心配になるが、おそらく、出生率の向上や女性の就業期間の長期化の効果で補えると思われる。しかし、そうした心配の解消に、全額でなくても構わないので、一般会計から年金特会への繰り入れをするのが望ましい。その財源は、毎年、バラマキに費やしている補正予算を充てれば済む。こうすれば、「保育園落ちた日本死ね!!!」と言われることもあるまい。

 補正予算は、その時限りの建前に反し、毎年、組まれて経常化している。安定的な需要管理の観点からは、急にやめられないので、建前に縛られてムダ遣いをするより、社会保障の恒久財源としての利用法を考えるべきだ。毎年、まちまちな税の上ブレ分を年金特会へ入れ、もし、乳幼児給付の財源として足りなければ、年金のマクロ経済スライドで、長期的に調整すれば良い。こうした方法を応用すれば、低所得層の保険料を軽減し、被雇用者の社会保険の適用範囲を大きく拡げることも可能である。

………
 日本の財政当局は、財政破綻の恫喝や「不公平」を掲げての分割統治は得意だが、まともな需要管理もできず、予算の制度改革の知恵もないという無能ぶりだ。社会不安と経済不安を作り出すのが、彼らのお仕事らしい。他の財政学者も、いい加減、それにつき合うのは、よしたらどうか。財政の問題は、社会保険を含む一般政府や、経済全体から眺めないと、解決がつかないものだ。財政を学ぼうとする若い人には、ぜひ、社会保険の領域まで足を伸ばしてもらえたらと思う。財政と社会保険を連結する発想が、分断社会を終わらせることになると信じている。


(今日の日経)
 廃炉技術で米仏と連携。円安基調に変化の兆し、金融緩和に手詰まりの見方。中国工業生産低い伸び。社説・ユーロ圏は金融緩和だけで再生できぬ。

※それは日本も同じだよね。財政はムリと最初から思考停止になったり、逆に7兆だ10兆だとブチ上げだりするのではなく、緊縮から中立に戻すくらいの良識が必要だ。

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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2016-03-13 09:58:53
今回のコラムはさすがですね。

大幅に悪化している日本の企業景況感
→今後の在庫の飛ばしに言及しています
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