経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

税収の過少見積りと法人減税

2014年07月06日 | 経済(主なもの)
 7/3に国の2013年度の決算概要(見込み)が公表され、税収の上ブレが1.6兆円にもなることが明らかになった。税収を堅めに見積もることは、決して良いことではない。2014年度予算は、前年度の税収をベースにして作られているのであり、消費増税という大勝負の年に、「実は、増収を見誤って予定外のデフレ圧力をかけていました」では済まされない。こうした欺瞞的な経済運営の在り方が成長を阻害しているのである。

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 決算概要によれば、2013年度の税収は47.0兆円となった。2014年度予算の消費増税分を抜いた税収は45.5兆円であるから、前年度の税収が、より成長しているはずの当年度の税収より多いという不自然な形となった。税収の上ブレは、消費増税に加え、予定外のデフレ圧力となる。消費税の増収分に見合う規模の経済対策を実施することで悪影響を防ぐとしていたアベノミクスの方針を毀損するものだ。

 本コラムでは、早くも昨年12/29時点で、2013年度に大幅な税収の上ブレが発生することを指摘していた。2013年度補正予算における財政当局の法人税の見積りは、2012年度決算額の3%増に過ぎず、2013年度の法人企業の経常利益が前年度比25%増にもなるとされている状況から、あまりに乖離が大きかったからである。これでは、意図的に過少見積りをしていたと言われても仕方なかろう。

 こうした極端な見積りは、法人減税の財源を狙う人たちの格好の獲物になった。きちんと見積もって予算に組み込み、消費増税の圧縮に充てておけば、流用されずに済んだものを、分からぬだろうと慢心し、隠匿に走ったがために、「余裕」財源とみなされ、法人減税でバラまかれることになる。「堅実に」などと称する過少見積りは、財政再建の役にすら立たないのである。

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 ここで、法人税収の予測のテクニックについて記しておく。「入るを計る」は、財政の基本であり、成長率に比して大きく振れるのが法人税だから、これを押えておくことが、財政や経済運営の分析を志す若い人たちのためになるだろうと考えるからである。マクロ的に税収の弾力性を使って予測する方法もあるが、それは大雑把なものにしかならないと思っている。

 所得税や消費税は、ベースがGDPを構成する所得や消費であるから、マクロ的方法でも構わないが、法人税はベースが企業収益なのだから、四半期ごとに公表されている法人企業統計の経常利益を用いるのが適当だ。2012年度の法人税収(含む復興税)は11.3%増だったのに対し、法人企業統計「年報」の経常利益は9.6%増、税引前当期純利益は11.9%増と概ね合致している。 また、過去10年を遡っても、法人税収と経常利益は、景気回復期に税収が遅れる場合はあるものの、概ね相関していることが分かる。

 そこで、2013年度についても、法人企業統計「季報」を基に、法人税収も前年度決算値から25%増にはなると予測したところである。ところが、法人企業統計の各季報の経常利益の合計額が74.8兆円(26.3%増)になったのに対し、実際の法人税収(含む復興税)は、11.7兆円(12.4%増)にとどまるという、意外に少ない結果であった。

 これは、2013年度の減税措置2360億円を勘案しても説明がつかない。考えられるのは、経常利益の増加分の多くに、課税対象にならない海外からの配当益などが含まれることだが、2013年度の一次所得収支の受取の増加額が2.8兆円であることからすると、税収が伸びなかった要因としては、これでも、まだ十分でないように思われる。残りは、2014年度に遅れて出てくるのだろうか。9月の「年報」で要因を確認したいところだ。

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 さて、税収増を隠し、却って、法人減税の財源として奪われそうになるという失態をさらした財政当局だが、こんなことでは財政破綻を招きかねない。2013年度の法人企業統計の経常利益は62.3兆円(除く金融保険業)に達し、リーマン超えの企業も多い中で、法人税収は10.5兆円にとどまる。リーマン前の2007年度の経常利益53.5兆円(同)の下で、法人税収が14.7兆円もあったのとは開きがある。

 一番痛いのは、民主党政権が法人減税をしたことで、今度、廃止になる復興法人税の税収は1.2兆円に上る。1年前倒し廃止の財源措置が0.8兆円だったから、0.4兆円も価値が上がっている。復興法人税の想定税収は2.4兆円だったが、廃止しなければ3.0兆円は見込めた。また、投資減税を中心とする減税措置は、2013、14年を合わせて0.7兆円にもなる。加えて、更なる法人減税である。一体、どこまで収益を持たせてやらないと、2007年度並みに設備投資をするようにならないのか。

 他方、所得税は2007年度の16.1兆円に対し、2013年度は15.9兆円(含む復興税)まで来た。前年度決算から1.5兆円、6.9%も伸びたが、これには、税制改正による特殊要因のほか、法人税をすり抜けて、個人への配当などの段階で課税されたものが含まれる。欧州並みに法人税率を引き下げたいと言うなら、配当や利子への課税も欧州並みにすべきだ。そうしないと、金利が上昇したときに税収が増えず、国債の利払いに耐えられなくなる。

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 そして、消費税は、一気の増税で1.5倍の15.3兆円へと急増する予定だ。しかし、その一方、消費は続落中である。先日、5月の家計調査での大きなマイナスが世間を騒がせたが、最新の内閣府の「消費税率引上げ後の消費動向等について」を見ると、家電、飲食料品ともに、6月の各週平均は5月を下回り、車や百貨店も、6月は5月のマイナスのまま底をはう状況である。

 税収上ブレを見込み、増税を圧縮していれば、こうはならなかったと思うが、今更でしかない。既に、在庫が増え始め、一部で生産調整も始まっている。あとは、こうなっても、引き続き、企業が設備投資増の見通しを保ち続けられるのかが見物である。企業減税をして、たっぷり収益さえ与えれば、消費増税をものともせずに、経済は成長するという、アベノミクスの真価は、これから明らかとなる。

(今日の日経)
 患者情報を病院間で共有。大病院の初診時を負担増。米株高の持続性が課題・西村博之。商品市況・原油や食品が上昇、建設資材は増税の反動減で在庫多く下落し減産。読書・第一次大戦と日本、高齢者が働くということ、デザインがイノベーション伝える。

※米株高の原動力は人件費の圧縮による利益率上昇。クルーグマンの「企業には緩やかな景気停滞が実は有利」という指摘は冴えている。まさに日本にも当てはまること。

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