経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

来年度は14.6兆円のデフレ財政

2013年12月29日 | 経済(主なもの)
 経済運営の要諦には、「景気が上向きだした時、増税は禁物」というものがある。なぜなら、増税と成長による自然増収が重なり、オーバー・キルを起こす恐れがあるからだ。したがって、いつも以上に、実態に即した税収の見通しを立てるセオリーが重要になる。これは、日本が最も疎かにしている部分である。

………
 2014年度の国の予算は、基礎的財政収支(PB)の赤字幅を5.2兆円縮めるものだった。筆者は、まあ、このくらいだろうと予想していた。むろん、財務大臣は中期財政計画の4兆円改善を目標として掲げていたし、11/29に財政審が「4兆円にとどまらない改善」を建議していたから、当然の流れではあるが、この数字には、ある意味が隠されている。

 仮に、これが3兆円だったとすると、消費税3%の増税分が4.5兆円あるのに、どこへ使ったんだという面倒な批判を呼んでしまう。反対に、6兆円もあったりするとすると、これはやり過ぎで、消費増税は2%以下でも十分だったとか、次の2%の消費増税は不用ではないかとかの余計な議論を起こすことになる。

 結局、消費増税の4.5兆円分だけPBが改善されることは、読み筋だったのである。しかし、PBがどうなるかは、他の税収も関わってくるから、そう都合良くいくものではない。むしろ、真相は逆だろう。上手く収まるよう、税収を操作したのではないか。素直な若手の新聞記者ならいざ知らず、収入の操作という財務担当者の禁じ手を犯してはいないか、疑うべきなのである。

………
 来年度、財政によって、日本経済に、どれだけのデフレ圧力がかかるのか。筆頭は、消費増税の8.1兆円である。来年度の増収は4.5兆円にとどまるが、一部の納税時期が次年度になるためであり、デフレ圧力が変わるものではない。ただし、ここから、税率アップに伴い自動的に支出が膨らむ分は差し引かなければならない。例えば、国が仕事を業者に発注する際には、代金に消費税分を上乗せして払う必要がある。

 この大きさは、当初、消費税を5%上げれば、1%分は支出に跳ね返ると説明されていたが、「増税分はすべて社会保障に」という建前論に巻き込まれ、表に出されなくなった。そうは言っても、上乗せの必要が消えるわけではないから、批判によって実態が見えなくなっただけである。これについては、2014年度予算のPB対象経費の歳出増は、特殊要因を除いて1.45兆円だから、これを差し引くことにする。よって、消費増税のデフレ圧力は6.65兆円となる。

………
 問題は、法人税、所得税、消費税の自然増収である。法人税については、2013年度予算の補正の際に、当初の見込みより1.35兆円、約15%上方修正されたが、実は、2012年度決算と比較すると、たった3%しか増えていない。証券各社による主要企業の今期の経常利益の予想は25%増以上だし、法人企業統計の4-6、7-9月期の経常利益も、前年同期比で24%増であり、金融保険業を加えると、その上を行っていて、いかにも少ない。

 2012年度の実績を振り返ると、証券各社の経常利益の予想が12%増程度、法人企業統計の前年度比が9.6%増であったところ、決算における法人税は、復興法人税を加えた実質で、前年度から11.3%増であった。これからすれば、2013年度でも、法人企業統計などの数字を念頭に、前年度決算から25%増の税収を見込んでも、おかしくないはずだ。

 これで計算すると、2013年度の法人税収は、補正後より更に2.1兆円多い、12.2兆円となる。また、補正の消費税収は、税収進捗率からすると不自然なので、これも0.25兆円の上方修正が必要だろう。これらと減税措置により、2013年度の税収は、補正より2.15兆円上ブレし、47.5兆円になると予想する。ちなみに、当局が消費税収を補正で修正しなかったのは、1%当たりの税収を2.7兆円から2.8兆円へ大きくしたくないためだろう。

 いよいよ、2014年度の税収だが、かさ上げされた2013年度の予想をベースとし、法人税収は、証券各社の予想を参考に10%増とするとともに、所得税と消費税の自然増収は、実質成長率に物価上昇率(消費増税分を除く)を加えた2.6%で伸ばすことにする。これらから減税を差し引くと、税収は、前年度の予想から、更に1.05兆円上ブレする。2014年度の全体の税収は、消費増税込みで、53.3兆円に達すると予想する。

 財政当局の2014年度の税収見込みは50.0兆円であり、これは、実態よりかなり少ない2013年度補正後の税収に、政府見通しの実質成長率1.4%の1.1倍を乗じた程度のものである。これを実態に即したものにするなら、2014年度には、別途、3.2兆円の自然増収という隠れた税負担が存在するということになる。

 結局、消費増税の6.65兆円に、自然増収の3.2兆円があり、また、今回の補正予算は、前回と比較し、2兆円のデフレ要因となっているから、これを加える必要があり、さらに、公的年金の給付カットが今年から来年にかけて約1兆円ある。しかも、これで話は終わらず、地方財政の1.7兆円の自然増収もある。しめて、2014年度は14.6兆円、GDP比で3%近いデフレ財政である。

……… 
 その地方財政だが、2014年度は、地方税が37.9兆円と1.4兆円増加するものの、公債費以外の歳出も1.5兆円増加することになっており、表面上、デフレ圧力はない。問題は、やはり、税収の過少な見込みにある。この節では、少々煩雑だが、1.7兆円の自然増収を、どう計算したか記しておく。なお、住民税は前年度所得に課税され、2013年3月決算の企業が年度明けに納税するものは、地方税では2014年度の税収となるから、消費増税後の景気には、あまり左右されずに確保される。

 2014年度の税収見込みについて、財政当局は、2013年度の地方財政計画をベースに、個人住民税は微増、法人二税及び地方法人譲与税は平均15%増の設定としている。この「15%増」は、国が補正予算で施した法人税の修正率に倣ったものだろう。むろん、これでは低すぎる。個人関係は、所得税の伸びを踏まえて5.5%増とし、法人関係は、先の25%増を用いる。これに減税を勘案すると、2014年度の税収上ブレは0.85兆円となる。

 今の計算のベースにした2013年度の地財だが、2013年3月までの景気上昇によって、税収は、地財の見込みより上ブレしているのは、確実な情勢である。そのため、どの程度、上ブレしているかを、2012年度決算をベースに、個人関係は、2012年度の所得税の3.8%増を用い、法人関係は、法人税の11.3%増を用いて、推計することにする。

 その結果は、2013年度の地財の税収見込みから、0.85兆円上ブレしているというものだった。ちなみに、総務大臣は、経済財政諮問会議で、「上触れしてもせいぜい1兆円程度」と言っているところである。こうして、2013年度の地財のベースが高くなれば、当然、2014年度の税収上ブレも、かさ上げされる。したがって、地方財政での自然増収は、この二つを合わせた1.7兆円ということになる。

 ところで、今回の国の予算編成のポイントは、地方財政であった。地方税が多くなるほど、国が地方交付税を補填する必要が少なくなり、国の歳出削減につながるからである。本来なら、国は多めの地方税収を望むはずだが、消費増税の関係で法人税の上ブレを抑えたから、そうもいかなかったのだろう。地方税収の上ブレは、決算剰余金となり、大半が減債に充てられるだろうから、ムダ使いされるわけではないが、国民経済にとってはデフレ圧力になる。

………
 来年度は、14.6兆円のデフレ財政が実行に移される。ただし、これは目論見であり、5.2兆円のPBの改善とともに、国と地方の自然増収4.9兆円も得られる勘定であっても、結果的には、消費増税と国の自然増収は両立しないだろう。消費増税が景気を後退させ、企業収益を直撃し、法人税を大きく減らすことになるからだ。

 もし、消費増税を1%にとどめていたら、予定の税収は3兆円ほど少なくなっただろうが、代わりに、予定外の自然増収4.9兆円が手に入っていた。つまり、消費増税を圧縮していたとしても、税収は予定を上回っていたことになる。この状況なら、消費増税が先延ばしされたからといって、財政破綻のリスクが懸念されることは、まったくなかったはずだ。

 それなのに、まともな税収の見込みを立てず、消費増税を正当化しようと自然増収を隠匿したことで、米国の「財政の崖」にも匹敵する、常軌を逸したデフレ財政を招いたのである。このデフレ財政のGDPの3%近い大きさは、今年度のGDPの増加分のすべてを政府部門が取り上げるとか、来年度の増加分の2倍を吸い上げるとかいう途方もない規模である。

 米国は、古典派的な経済思想や「小さな政府」思想のメッカであるが、批判派も居て、現実性も併せ持っていたから、瀬戸際で「崖」から脱することができた。ところが、日本は、自分で数字を検証する者が少なく、米国思想の劣化コピーのような財政当局の主張に乗る者ばかりが目立つ。そうして不知のまま跳躍は試みられる。これで奇跡はあるのかね。


(昨日の日経)
 ベンチャー発掘に新基金。年金減額0.6~0.7%に下げ幅の圧縮を検討。ソフトバンクの大胆で周到な財務戦略。消費者物価1%超上昇。求人倍率1.00倍、非正規が増加。歳出切り込み不足・山田宏逸。夢の資源は6日間で壁。

(今日の日経)
 増産控え駆け込み増産。カジノに賭けますか。太陽光の屈折した普及策。リーマン5年・終わらぬ超バブル、米株高に警戒感。木村伊兵衛・スナップの絆。

コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 12/26の日経 | トップ | キツネが見る家計調査 »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
素晴らしい試算ですね (ことよさし)
2014-01-20 19:37:02
税の自然増収分を推計し、デフレ圧力を計算されたことに敬意を表します。勉強になりました。
平成26年4月以降が恐ろしいですね。異論ありません。
ただ、実際には、特に法人税においては内部留保や配当に回っていた分を政府が吸い上げるだけのことと考えるので、自然増収分全部がデフレ圧力にはならないような気もしますが、いかがでしょうか?

返信する

コメントを投稿

経済(主なもの)」カテゴリの最新記事