経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

消費増税をめぐる総括的検証の必要性

2018年04月22日 | 経済
 アベノミクスの最大の功績は、2015年秋の消費増税を延期したことであり、これに次ぐのが2017年春の消費増税の再延期である。延期していなければ、折からの外需の後退と相まって、悲惨なことになっていたし、再延期がなければ、今も重い後遺症に喘いでいたはずだ。2014年春の消費増税の破壊力を思えば、容易に想像がつく。そして、足下の景気の好調さが「成長戦略」の成功によるものとは、誰も思わないだろう。単に、余計なことをせず、外需に恵まれたから、今がある。

………
 4/18のシノドスに上智大の中里透先生が『消費増税をめぐる「総括的検証」-消費の停滞についてどのように理解するか』を書いておられ、いかに増税が消費に大きな打撃を与え、他の要因は考えにくいことを丹念に記している。中里先生は、2011/5/30の「社会保障・税一体改革の論点に関する研究報告書」に寄せたコメントでも分かるように、別段、「反消費税派」と言うわけではない。財政再建派の皆様も、今回の論考の内容は、素直に受け取るべきものであろう。

 中里先生は、1997年の消費増税について、アジア通貨危機などの影響を強調するような立論であったのに対し、筆者は、在庫の動きなどを基に、「消費増税が主因でなくして何なのだ」と主張してきた。それからすれば、今回の『検証』は、消費増税の影響をより強く印象付けるものであった。他方、筆者は、2015年の外需の影響も見逃せないと考えるようになっているのだから、不思議なものである。いずれにせよ、緊縮財政のときに、外需後退に見舞われるのは極めて危険であり、これを避けるには、急進を排するよりほかない。

 そもそも、消費増税で物価を上げ、実質の所得を減らせば、消費が衰えるのは、初歩の経済学でも言えることだ。財政再建という「正しい意図」に基づくなら、悪いはずはないという、日本人にありがちな思考は捨てるべきである。意図はどうあろうと、需要不足下で緊縮をすれば、需要リスクが設備や人材への投資を委縮させてしまう。逆に、敢えて需要リスクを押し付けるようなことさえしなければ、あとの政策は平凡でも、経済は成長する。我々は、凍え切った経済が雪解けししつつあるのを、今、眺めているわけだ。

 今週は、3月の貿易統計が発表になった。日銀・実質輸出入からすると、輸出の伸びが鈍ったことで、1-3月期のGDPへの寄与度は、ほぼゼロと思われる。サービスが趨勢的にプラスなので、外需は若干のプラスというところか。また、金曜公表の3月の全国CPIは、生鮮の高騰が一段落し、総合の季調値が前月比-0.4となった。財は前月比-0.8と大きな低下である。実質消費の伸びが期待される。他方、サービスは、わずかずつではあるが加速が見られる。人手不足が賃金と物価に波及し、デフレ脱出は本格化している。

(図)



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 財政再建に関しては、4/13に第一生命研の星野卓也さんが良いレポートを出してしているので、ご覧いただきたい。ポイントは、財政当局が宣伝する「国・地方」の枠組みでなく、社会保障を含んだより広い「一般政府」で見ると、プライマリー・バランスは方向が異なり、後者は2016年度も引き続き改善しているというものだ。その背景には、社会保険料の増加がある。まあ、全体を見ないと話にならないというだけのことだが、こんな基本的なことさえ抜けているのが日本である。

 経済成長の下で、財政収支の改善が着実に進み、需要ショックの危険を犯してまで、消費増税をする必要があるのかと疑われる中、ポスト・アベノミクスと言えば、消費増税となりそうな雲行きである。1997年の消費増税以来、20年を費やし、2014年の失敗を経験しても、未だ全体を見ることすらできない。財政再建の意図の正しさは、現実を見えなくするようで、痛みのあるものは、体に良いはずという信念が、この国の政治思想らしい。一度に2%上げるという戦略的拙さを、景気対策という戦術で応じようとするあたりも、実に日本的だ。


(今日までの日経)
 予算100兆円の足音、19年度「景気対策と一体」検討。派遣時給1年半ぶり上昇。介護保険料 止まらぬ上昇。夏ボーナス3.9%増。健保組合、再び解散風。賃上げ2.41% 20年ぶり高さ 人材確保へ脱・横並び 陸運・小売りけん引 若手・シニア厚遇。企業の投資 店より倉庫。

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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2018-04-22 09:46:45
自民党総裁選の政策論戦を見ると相変わらず財政再建論者が多いのがわかって気が滅入ります。

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