経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

日本に残った最後の道しるべ(終)

2012年07月09日 | 経済
 今日まで6回に渡って消費増税をソフトランディングさせる戦術を考えてきた。それで分かったことは、①消費増税のショックを相殺しようと、公共事業を打とうにも、復興事業の剥落があって、その埋め合わせがせいぜいで、助けには成り難いこと。②消費増税と復興増税を重複させないためには、先頃、明らかになった2011年度決算剰余金を財源に、復興増税を先送りにする必要があること。

 ③年金削減と重複させないためには、それを見送るのも仕方ないこと。④消費増税の駆け込み需要と反動減を軽減するには、住宅取得への課税を半年程度遅らせるべきであること。以上の4つであった。これらは、1997年の消費増税の際、全体を見ずに同時多発的に緊縮を行い、駆け込みと反動を甘く見て十分な対策を怠り、日本経済の構造まで壊すに至った反省に基づくものである。

 残念ながら、日本の財政当局は、まったく反省していないため、15年前と同じ過ちを繰り返すことになろう。政府日銀や調査機関の平均的な見通しに沿って、日本経済が1%台前半の成長率の経路をたどるとすれば、増税後には、またもマイナス成長に突っ込み、大きな痛手を被ることが予想される。日本経済は、更に悪い構造へと陥り、回復も非常に困難な事態となる。

 おそらく、さしもの財政当局も厳しく責任を追及され、前回の失敗で金融行政を剥奪された以上の報復を受け、組織解体に追い込まれよう。あたかも、戦後、すべてを失ったものの、軍部の解体によって、新たな政策の自由を回復したような状況である。世界は、それ以前に、現在の欧州と米国の経験に学び、安定的な需要管理に基ずく経済運営の方法を確立し、最後に愚行を犯した日本の建て直しに役立てられることになろう。

………
 シナリオは、もう一つある。消費増税の実施までに、日本経済が世間も驚くほどの成長回復を遂げ、エリートが犯した愚行と怠慢を跳ね飛ばしてしまうものだ。現在、日本経済は、年率4.7%という、誰も予想しなかった高成長を驀進している。この勢いを保ち、今年度3%超の成長を果たせば、見える現実はまったく違ったものになる。これは、本コラムが1/1に「予言」しておいたものだ。

 確かに、今の高成長は、復興需要などの特殊要因による一過性のものなのかもしれない。しかし、成長の本体は消費であり、復興事業そのものの公的資本形成は脇役である。消費は、7月にも枯渇するエコカー補助金に支えられているが、旅行やレジャー消費の旺盛さは政策需要ではない。買取制度のスタートによる太陽光パネルの普及は、これからの家計消費を増やしてくれるだろう。

 筆者は、「意外にも消費は落ちなかったという結果が出たとしたら、どんな理由を考えるのか」といった逆向きの思考法をよく試みる。それからすれば、自動車購入の増は、リーマン前の水準に復帰しただけと見ることもできるし、家電エコポイントの終了後、押されていた衣料の消費が戻ったように、自動車が減っても、他の消費が補うことも考えられる。エコカー補助金後は一服する可能性が一番高いにしても、希望はある。

 住宅投資も同様だ。4-6月期のGDPに貢献してくれるだろう今の好調さは、住宅ローンの基準金利の低下、住宅エコポイントの効果もあるだろう。その一方、景気回復で常用雇用が増せば、ローンで住宅を買う人の裾野が広がり、1997年とは逆の変化も起こり得る。そして、住宅が伸びれば、消費も伸び、それが設備投資まで刺激する。経済には循環作用が備わっていて、こうした非線形の動きを読むのがエコノミストの醍醐味でもある。

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 3%超の成長となれば、税収も一気に増える。法人税収だけでなく、株式の上昇などで金融取引に関わる所得税も伸びるからだ。年末までに、今年度の2.5兆円を超える税収の上ブレが明らかになり、更に2013年度も2.5兆円は伸びることが視野に入ったとき、景気を失速させる危険を犯してまで、3%も消費税を上げる気になるだろうか。

 日本の財政当局は、低成長しか見込めないことを前提にするがゆえに、野心的な増税が必要だと主張する。そして、低成長だから、今度の引き上げによる消費税率10%でも足りず、もっともっと重くしなければと叫び続けている。こうした「終わりなき増税路線」は、国民に厭世観を与え、若い人達には絶望感さえ漂っている。

 しかし、低成長のときに一気の増税が無理なことは経済的に明らかだ。欧州は、それを体で学びつつある。日本の財政当局の路線には矛盾があるのだ。それを、思わぬ高成長が解くかもしれない。成長するから無理な増税はいらなくなり、増税しないから成長する。前にJMMのエコノミストを本コラム(4/21)でからかったように、成長させる方法が分からなくとも、今、成長しているのだから、これを大事に育てれば良い。

 財政再建については、内閣府の「経済財政の中長期試算」を今一度、眺めてほしい。印象操作によって、無きに等しい扱いを受けている「成長シナリオ」では、国と地方の公債等残高のGDP比が安定することが示されている。このシナリオの成長率は、平均1.8%でしかない。つまり、高めの成長率を保ち、徐々に消費税を10%に引き上げるだけで、財政破綻は回避できるということだ。

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 財政赤字の焦燥感から、一気の増税に走ることは、税率アップというたった一つの願いのために、成長で得られるすべての幸福をあきらめることになる。日本経済には、小さいかもしれないが、大きく好転させられる希望がある。そうした奇跡の物語は、可能性を読めなければ、在ることすら分からない。本コラムは、奇跡へ至る観戦切符を若い人達に届けたいと思っている。日本人は努力と誠実を信じるのだから、それらが本当にかなえられるとしたら、絶望する必要なんてない。これが最後に残った道しるべである。

(今日の日経)
 新聞休刊日  ※長尺を送ったんで、今週は省エネで許してね。

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