経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

アベノミクス・無策の中の回復

2016年07月31日 | 経済(主なもの)
 6月の経済指標は景気回復が一歩進んだことを示した。緊縮財政の下、昨秋から景気が後退し出しても放置され、年明けの円高株安に驚愕し、熊本地震と英国EU離脱で慌てて対策に走り、とうとう日銀まで動員したが、今時分には、物価安の下支えもあり、景気は癒えているという顛末だ。なぜ、日本経済は低調なのか、これだけ場当たり的なら、当然だろう。しかも、これを嘆くのは、本コラムくらいというのも寂しい。

………
 日経は、6月家計調査の結果について、前年同月比-2.2%を強調するけれども、本コラムが重視する二人以上世帯における実質消費支出の季節調整済指数は、前月比+0.4であった。下図の橙線で分かるように、昨秋からの後退を埋め合わせるところまで来ている。鉱工業指数の消費財出荷も前月比プラスだったことからすれば、6月の消費総合指数は、悪くとも横バイが見込めよう。そうすると、4-6月期は+0.5程になるのではないか。

 この水準は、消費増税後では最も高く、これだけ伸びれば、4-6月期GDPは、明確なプラス成長となろう。前期のうるう年要因の押上げの反動のために、低く出る可能性はあるものの、消費の実態は、10-12月期-0.8の後、1-3月期+0.7に続き、4-6月期+0.5という流れとなる。2期連続のプラスは1年ぶりだ。焦点は、ここから更に伸びて行くかであり、可能性は十分ある。

 まず、家計調査の名目実収入は、順調に伸びて来ており、物価減速によって、実質値は更に押し上げられている。そして、雇用の改善は、衆目の一致するところだ。先週示した5月毎勤の図でも分かるし、6月の労働力調査は、就業者数が前月から大きく伸び、雇用者も堅調であった。6月の有効求人倍率は、1.37倍と+0.01上昇した。ちなみに、沖縄が初めて1倍を超え、全都道府県が達成するに至った。インバウンドが大きく、2011年の底からの3倍増を実現した沖縄こそ、アベノミクスの最大受益者かもしれない。

(図)



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 6月の鉱工業指数は、世間の悲観に反し、高めの数字となり、4-6月期は、生産、出荷とも、確実視されたマイナスを免れた。7月、8月の予測も、+2.4、+2.3と強い。在庫は前期比+0.4と大きな変動はなかった。設備投資を占う資本財(除く輸送機械)の出荷は、前月比+0.6で、4-6月期の前期比が+3.4と、実に5四半期ぶりのプラスだ。また、建設財出荷は、前月比+4.1で、前期比が-0.2となり、下げ止まりを見せている。消費財出荷も、先月比+0.9により、前期比が0.0と底入れした。これらは、先月に記した期待どおりの動きである。

 以上を踏まえれば、設備、建設、在庫の各投資項目がGDPの足を大きく引っ張るとは思われず、外需は、ニッセイ研の斎藤太郎さんによると、寄与度-0.0のようであるから、やはり、4-6月期GDPは、消費の動向次第となろう。日経の民間調査機関のGDP予測の平均は年率0.5%だが、うるう年の影響が読み難いせいか、バラついている。意外な高成長に振れる可能性も指摘しておきたい。

 こうした中、日経によると、経済対策は、補正予算を4兆円とし、2017年度予算で2.1兆円分を用意するようだ。昨年度の補正予算は3.3兆円だったから、前年度比+0.7兆円であり、増要因は、大半が熊本地震の予備費の組み込みだろう。また、2017年度予算の税収は、前年度比2.1兆円増が見込めるので、歳出を対策分だけ拡大させたとしても、財政は中立となる。アベノミクスのエンジンを吹かすとは、こういうものらしい。

 やたらと補正に積まず、本予算を拡大する方向は、本コラムの主張でもあり、これは評価できる。緊縮をやめ、中立にするだけでも、経済動向無視の日本財政にとっては、大きな一歩だ。中長期の財政財政の試算では、2017年度にGDP比で0.9%も赤字を詰めることになっているが、これには無理があり、ギャップを均すものになる。日経も、当局以上に、急進派の主張にならぬよう注意したい。

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 景気の先導役は、いつも、輸出、住宅、財政の三つであり、これらの追加的需要から、設備投資、賃金、消費へと需要増の輪が自然に広がってゆく。昨秋からの軽い景気後退は、三つの減退が重なり、春からの回復は、三つの底入れによるものだ。経済運営の要諦は、需要の安定を第一とし、無闇な緊縮を試みて輪の拡大を壊さないことである。需要さえ安定していれば、低金利が効き、民草の創意工夫による生産性の向上で自然に成長する。

 日本のエリートの誤りは、財政赤字に焦って需要を抜き、異様なまでの金融緩和を無効化しているとも知らず、上からの「改革」だの、「戦略」だので、成長を実現できると信じていることだ。それでいて、130万円の壁のような成長を阻害する不合理な制度があっても、壁をスロープに変えるのに財源が要ると一知半解すると、威勢が消えて緩慢になる。小出しで手遅れとなり、人口崩壊を余儀なくされた少子化対策の二の舞が見えている。

 本コラムは、毎月の「アベノミクス」シリーズで、経済動向を正確に読み取って見せてきたが、これは予測能力を誇りたいわけではなく、需要重視のコンセプトが、いかに現実を見通せるかを示すためである。また、不合理な制度は、設計次第で、経済的メリットにより、無理なく是正できるものだ。閉塞感があるのは、財政再建至上主義に囚われて、多くの可能性を自ら捨てているだけのことである。


(今週の日経)
 追加緩和、政府と歩調・日銀。経済対策 補正で4兆円。GPIFの15年度運用損5.3兆円。GDP、マイナス予想も。平均寿命 男女とも最高。最低賃金24円上げ、過去最大。基礎収支5.5兆円赤字の試算。

※はるこさん、ありがとう。訂正済。6,8,9が目に厳しいこの頃です。

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2 コメント

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Unknown (はるこ.inc)
2016-07-31 13:34:51
消費総合指数の10〜12月期の前期比は-0.8%ではないですか?
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Unknown (はるこ.inc)
2016-08-01 02:22:26
管理人さんはおいくつくらいなんです?(´。・o・。`)
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