経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

経済対策よりも必要とされること

2016年08月07日 | 経済
 28兆円の経済対策が決定されたが、確実なのは、補正予算が前年度より0.7兆円増えるということだけで、あとは、前年度との比較で、本当に需要を増加させるものなのかは不透明である。このような需要管理が十分になされていないことが、日本の経済運営の大きな欠陥であるように思われる。

………
 景気の原動力は、企業活動が反映される設備投資にある。その設備投資は、追加的需要を見ながらなされており、具体的には、輸出、住宅、公共の三つである。バブルが癒えた1995年からリーマンショック前の2008年までは、2四半期前のこれらによって、ほぼ完全に説明できていた。とりわけ、輸出の影響は大きく、これがあって、財政当局は金融緩和による円安を非常に好むわけである。

 3需要の最近の動きを、全産業活動指数と日銀実質輸出で見ると、アベノミクス開始の2013年に、公共が持ち上がり、住宅も伸びて、財政出動と金融緩和が上手くかみ合っていたことが分かる。消費増税があった2014年以降は、公共が波を打ち、住宅は駆け込みの反動減に入る。問題なのは、2015年後半に、公共が大きく後退したことだ。消費増税の傷が癒えていないのに、あえて公共を抜くようでは、景気が調子を崩すのは当然だろう。

 折悪しく、秋に入ると、住宅も小さな停滞局面に入り、続いて、輸出まで、まったく伸びない状態となった。昨年秋からの軽い景気後退は、こうして形作られたと考えられる。少なくとも、天候が悪いとか、家計調査がおかしいとするよりは、説得的だろう。そして、足元における景気回復は、公共と輸出の底入れと、住宅の再上昇が背景にあると見られる。

 公共は、前倒し執行が始まり、経済対策でも追加されるようなので、景気回復を押し上げる側に回るだろう。若干、心配なのは住宅で、消費増税後の反動減からの回復は、終わりに近いと思われる。また、海外要因で、輸出に異変が起こらないことも願いたい。それにしても、公共を、いったん抜いておいて、景気が陰ると、また戻すというのでなく、安定的に運営してほしい。財政が景気変動を作っていては話にならない。

(図)



………
 8/5に厚生年金の2015年度決算が発表され、積立金の運用損が話題となった。しかし、景気を考える上で注目すべきは、そこではなく、基礎的な収支が1兆円改善し、経済には、その分だけデフレ圧力が加わっていたという事実である。おかげで、積立金を運用するGPIFからの納付金が6年ぶりにゼロだったにも関わらず、昨年に続き、積立金を取り崩さずに済んでいる。

 収支改善の大きな要因は、保険料収入が前年度より1.5兆円、5.8%増えたことだ。毎年の保険料の引き上げが2%程だから、残りは雇用と賃金の増加によるものである。他方、給付費等は、特例水準の引き下げもあり、2.4%増に抑制されている。このように、社会保険は、景気回復期には、ブレーキをかけるように働く。ビルドイン・スタビライザーではあるが、デフレからの脱出に速度が必要とされるときには、これを考慮に入れた財政運営がなされなければならない。

………
 アベノミクスは、2013年までは成功で、2014年の一気の消費増税は失敗という評価だろう。2014年10月末の異次元緩和Ⅱも、一時的に輸出が増えたが、2015年に入ると、すぐに反動が来た上、輸入物価への悪影響が目立つようになった。その中で、緊縮財政を継続するという無策のまま推移した。2016年に入って、円高株安、熊本地震、英国EU離脱で、ようやく、変わろうとしている。ヘリマネ論議も面白かろうが、もう少し、実態に即した分析に目を向けるべきではなかろうか。


(今週の日経)
 日本国債・綻ぶ鉄の三角形。米雇用25.4万人増。社会保障給付費112兆円。年金積立金4年ぶり減。設備投資10.9%増・政投銀調査。配偶者手当廃止・人事院勧告。経済対策28兆円決定。

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« アベノミクス・無策の中の回復 | トップ | 異次元緩和のマクロ経済的な検証 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

経済」カテゴリの最新記事