経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

財政再建の仕組みと消費増税の怖さ

2017年10月08日 | 経済
 日本の財政当局は、当初予算の前年度比を社会保障の+5000億円のみに抑制している。ここまでは報道もされるが、その意味は、どこまで知られているのか。他方、税収は約55.5兆円だから、1%成長なら5500億円増える。つまり、1%成長なら財政収支が悪化しない仕組みにしてあるということだ。実際は、2017年度の成長率の見通しはもっと高く、名目で2.5%だし、税収は成長率以上に伸びるのが普通だから、そうなると財政収支は改善される。

 こうした説明を公式にしてくれたら、国民は安心すると思うんだがね。裏返せば、5000億円を超える福祉や教育の充実は、財政収支を現状より悪化させるから、増税とセットということも腑に落ちる。そして、1%以上の成長を果たしたら、努力を喜び、果実を財政再建と福祉・教育にどう配分するか議論したら良い。世の閉塞感は、際限の見えない財政再建、最低限の対応だけの福祉・教育という、展望と希望のなさから来るものだ。

 財政の仕組みを理解していれば、1%以上の成長なら、着実に再建がなされることが分かる。2020年度の財政再建目標には数年遅れるかもしれないが、それで信用が揺らぐわけではない。むしろ、消費増税を断行し、成長を失う方が怖い。GDPの最大項目の家計消費は、3年経っても増税前水準を超えられずにいる。これで輸出が伸びていなかったら、どんなに酷いことになっていたか。財政再建の上でも、消費増税は合理的な選択ではない。

………
 消費増税の怖さは幾つもあるが、その一つに消費性向の低下がある。「消費低迷は、将来不安のため」とまことしやかに言われるが、今回の消費増税では、将来の社会保障に安心して消費を増やすどころか、ますます消費を委縮させることになった。論より証拠で、家計調査における勤労者世帯の消費性向を12か月後方移動平均で見ると下図のとおり。どんどん下がり続け、増税前の水準を割り、大震災後の景気後退期よりも低くなり、今年に入って、ようやく底入れした。

 消費性向は何で動くかと言うと、将来を見通した合理的判断ではなく、目の前の景気に対する見方で動いている。これが端的に分かるのは、消費動向調査の雇用環境への態度のパラレルな動きからだ。要するに、景気が上向くとカネ使いが荒くなり、悪くなると財布が締まるということだ。金利が低下する景気後退期に、消費を減らして貯蓄を増やすなんて、教科書的な経済理論には反しているが、現実は庶民感覚どおりだ。

 インフレ時ならともかく、消費増税で景気を冷やすと、駆込み後の激しい反動減に加え、雇用不安が輪をかけて消費を落としかねない。住宅投資の先食いで金融緩和も効かず、公共投資は増税前の持ち上げで力尽き、公的年金は、どこ吹く風で、支給開始年齢の引き上げと給付切下げをかます。そして、長引く金融緩和による円安で貿易黒字が溜まっており、米国の政策一つで円高に見舞われようものなら、目も当てられぬ惨状となる。成長を失ったら、信用が崩れ、本物の財政危機を招来する。

(図) 


………
 現状の財政の仕組みで着実に財政再建が進む中、今回の消費増税の「実験」によって、将来不安が消費を委縮させているという説が誤りと分かり、反対に増税が消費を委縮させるという恐るべき事実が判明したにもかかわらず、安倍政権は、今から2年後の純増税を決行すると宣言し、総選挙に打って出た。しかも、消費増税の使途変更による福祉と教育の拡充は、補正予算の組み換えで十分に賄える程度に過ぎない。

 それをすれば、政治的争点にする必要はないし、従来の財政再建の計画も書き換えずに済む。このくらいのことも、日本の財政当局は、首相に説明しなかったのだろうか。まさか、解散を先に決め、後付けで消費増税の可否を総選挙の理由にしたわけではあるまい。純増税を抱えて国民に信を問うのは、政治的に極めて危険な行為であり、案の定、そこを希望の党に突かれてしまった。さらに構図をクリアにされたら、もうマクロ政策では勝ち目がない。

 1%成長で財政再建ができる実態を知り、消費増税の怖さが分かれば、もはや、選択を迷う余地はない。景気に悪影響を与えないようにするためには、少なくとも、消費増税と同じだけの福祉と教育の拡大がいる。何がなんでも純増税に引きずり込もうと画策するのではなく、福祉と教育の拡大と見合いの増税が必要というシンプルな説明を国民にすべきだ。結局は、それが着実な財政再建の道にも通じるのである。


(今日までの日経)
 過酷な16時間配送、7割は積みおろし。


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2 コメント

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日銀保有債は政府債務でない (桂木健次)
2017-10-16 08:58:27
政府債務総額からは、通貨発行で日銀が買い取り保有した国債証券は、等具政府金融部門として、市場から回収しているので、政府債務を無効化されている。それは、、謂わば日銀にい即されている通貨発行益出会って、それから『証券の貨幣化』(ファイナンス)で政府の財源化されている。
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コメント文字変換ミスご免 (桂木健次)
2017-10-16 10:46:24
出会→であ
返信する

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