経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

前門の債務、後門の悪魔

2017年01月15日 | 経済
 好きなクルーグマンのエッセイに「ベビーシッター協同組合」の話がある。ある程度、利用券を多めに配布すると、マッチングが円滑に成立するようになるが、度が過ぎると、希望が増えて、提供が足りなくなってしまう。つまり、需給がバランスするよう、利用券の量を調節するのが大切というわけだ。経済をデフレにもインフレにもしないために、マネーは適切に管理しなければならない、それだけのことである。

………
 日本の財政赤字は膨大で、しかも、日銀が年間発行額を上回る国債の買い入れを行っているから、いわば、政府は、日銀からお金をもらって、様々な施策に使っている。それでもインフレにならないのは、政府が債務を膨らます一方、債権を大きくしている者が居るからで、それは、かつては家計で、今は企業だ。企業がお金を貯める一方、政府が使うことで、バランスが取れている。だから、経済全体では問題が生じない。

 財政赤字を気に病み、緊縮するだけなら、バカでもできる。難しいのは、政府がお金を使わなくなる分、企業にお金を使わせるところにある。日本の財政当局は「自分の仕事ではない」とばかりに無頓着だが、そうしないと、バランスが崩れ、経済が縮小してしまう。デフレ下では、緊縮財政をすると、企業は需要リスクを感じ、更にお金を使わなくなるため、急進路線は極めて危険だ。したがって、使うお金を民間が増やす様子を確かめつつ、緩やかに財政再建を進めるしかない。

 先週はアデア・ターナーを取り上げたが、こうした現実的な路線を取ると、政府の債務は巨大化することになる。GDPの200%になると言われると、不安もあろうが、腹を括って抱えざるを得ない。不安に駆られて、消費増税のような実体課税に走るのが最悪で、信用の基礎になっている成長力を失ってしまうと、トップヘビーであるだけに、本物の経済危機を招きかねない。

 最善は、お金を余らせている企業や、所有者の富裕層に課税することである。経済全体のバランスを取るには、これが正しいが、いくつも壁がある。最も厚いのは、政治力より、経済思想である。資本・資産への課税は、投資収益を減らし、成長を阻害するという考え方だ。実際には、実体への投資は、収益性よりも需要リスク次第で、財政で需要を安定的に管理すれば、成長は確保できる。高度成長期には高課税であったことを思い起こすと良い。

………
 「投資は収益性でなく、需要リスクで決まる」のは、人生が限られるために、リスクに対処できず、不合理に行動するためである。これは、経済学の根本に関わるので、説得は容易ではない。そこは諦めて、具体の問題に一つひとつ当たるほかあるまい。その際、大切なのは、お金を余らせる行動は不合理なものであり、政府が財政赤字を出してカバーするのは、やむを得ざる合理的行動であると、内心に納めておくことである。

 あとは漸進主義である。「財政赤字は不合理、一刻も早く消費増税」という視野狭窄の人達を宥めつつ、安定的財政で少しずつ成長を加速させ、2%物価上昇を確保し、金利上昇に伴う利払いは利子配当課税で解決する。膨張した債務は、日銀内に封じて、金融抑圧というインフレ課税で殺ぎ落していく。そもそも、不合理な行動で出来たものである以上、それも仕方がないし、嫌なら直接の資産課税でもするかとなる。

 ターナーが指摘するように、金融自由化による資産取引の重畳によって、実体経済に比して、金融経済は膨張した。これが不安だと言うなら、金融経済で始末をつけないといけない。金融経済と実体経済の各々の均衡を分離し、それらの関係性で経済が動くというケインズ的発想が必要ではないか。少なくとも、金融経済のツケを、実体経済に持って来てはならない。

 インフレを恐れる気持ちは分かるが、財・サービスには消費増税、土地や株・債券には資産課税と、政策を機動的に割り当てれば済むことで、手段を財政赤字削減という「万能薬」に転化してはいけない。むしろ、財政は、実体経済の構築へ、真摯に使う必要がある。例えば、公的年金は黒字を出しているが、「お札」を蓄えつつ、経済の担い手を少子化で失いつつあるのでは、将来、年金で何を得るつもりなのか。紙切れで良いなら、構わぬのだが。

………
 さて、今週は、11月消費活動指数が公表され、10,11月平均は前期比+0.6となり、2%成長へ前進した。ただし、消費総合指数は、家計調査に足を取られたようで、同0.0となり、一抹の不安を残す。11月家計消費状況調査からして、下ブレと思われる。他方、12月消費動向調査は、生鮮食品の高騰が和らいだせいか、前月比+2.2と大きく上昇し、10,11月の低下を取り戻した。12月景気ウォッチャー調査は、前月比横バイだったが、この2か月の上昇を維持したもので、好調と言えよう。

 輸出増で出来過ぎの感があるものの、景気動向指数は上昇し、景気の拡大と加速がうかがわれる。本コラムは、10月指標が出るひと月も前から2%成長を予告していたが、形になってきた。回復を疑う者は、もう居るまい。住宅+公共+輸出の追加的需要が先導し、賃金と消費が増嵩していけば、財政が中立にさえあると、成長は次第に加速する。設備投資の増加も、非製造業から製造業へと広がろう。手詰まりの金融緩和に目を奪われず、需要を注視しているなら読めるシナリオである。需要リスクこそが経済を動かすのだから。

(図)



(今日までの日経)
 未婚中年、親と「黄昏同居」。中国の貿易変調 2年連続減。トランプ氏、貿易赤字で日本を名指し。円一時113円台後半 日経平均229円下げ。景気一致指数1.6ポイント上昇 11月 2年8カ月ぶり高水準。公的年金、運用益10兆円超 10~12月。消費者心理上向く 12月指数43.1に上昇、3年3カ月ぶり高水準。認可外保育所にも公的補償。

コメント (3)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 財政赤字を、さもなくば金融... | トップ | 1/18の日経 »
最新の画像もっと見る

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (きんぴー)
2017-01-15 16:39:58
消費総合指数は前月比-0.8%ではないですか?
返信する
Unknown (Unknown)
2017-01-15 20:54:08
11月ではなく、10+11月での前期比ということでしょう。
返信する
20:54さん (きんぴー)
2017-01-15 23:28:32
なるほど!ありがとうございます!!
返信する

コメントを投稿

経済」カテゴリの最新記事