経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

補正予算の隠れた意図を読む

2015年12月20日 | 経済
 3.3兆円規模の2015年度補正予算が決定された。参院選に向けて大型化すると考えた筆者の予想は大外れで、前年度並みにとどまり、ゼロ成長状態の景気を加速するものではない。同日の金融政策決定会合の結果も、追加緩和がなされたかに見えて、実は補完するだけのものと分かり、日経平均は急騰して下落する展開になった。財政、金融ともに、期待だけに終わり、現状が続くことになる。

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 補正予算の中身を税収から見る人は少ないと思うが、ここに当局の意図は表れる。最大の注目点は、消費税収の補正を「しなかった」ことだ。消費税収の10月までの実績は極めて好調で、前年を36%、1.6兆円も上回っている。消費増税の平年度化分の増収予定額が1.7兆円であることを踏まえれば、その好調さが理解できよう。仮に、11月以降、各月の税収の伸びが名目成長率並みの2.7%に失速すると堅く予想しても、予算額を8000億円上回る。

 なぜ、これほど上ブレが確実でも補正しなかったのかと言えば、軽減税率の財源がアッサリ出てしまうからである。それどころか、2000億円のお釣りで、外食への拡大とか、保育の質の充実とかもできてしまう。官房長官が強気で軽減税率を押し通したウラには、こうした税収の見込みがあると推察する。全国紙や野党の「財源はどうするのか」という批判は、カラ騒ぎに終わるのではないか。

 これまで、消費税1%当たりの税収は2.7兆円とされてきたが、上ブレにより2.9兆円まで高まる可能性がある。そうなったときには、社会保障の財源論や財政再建の進捗にかなりの影響を与えよう。本コラムは、2015年度の税収上ブレを4.3兆円と予想しており、これをベースに名目成長率で伸ばしただけで、2020年度には基礎的財政収支ゼロの目標を0.3兆円ほど過剰に達成する見通しだ。今回の消費税収の上ブレは、過剰を更に積み上げることになる。

(図)



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 補正予算の歳入で、もう一つ特徴的なのは、税外収入が0.35兆円のマイナスになったことだ。前年度の補正では+0.10兆円であった。これは、金利上昇に備え、日銀が納付金を5000億円ほど減らして蓄えるためである。補正予算の公債金減額は0.45兆円と、前年度の0.76兆円より少なくなったが、代わりに日銀が溜め込む。したがって、デフレ圧力は、ほぼ前年度並みと判断すべきだろう。マネー・ストックの拡大を求める日銀がマネーを吸い上げる役回りになるとは皮肉な話だ。

 歳出に関しては、主要な3項目の合計が前年度より5000億円も少なくなっている。他にも実質的な緊縮をしており、よく官邸が許したものである。それをごまかすべく、「復興の加速化」をうやうやしく掲げているが、前年度は「剰余金の震災特別会計への繰入」としていたのをお化粧したに過ぎない。また、地方交付税交付金が3100億円増えているが、2016年度当初予算に組み込まれるだけである。いずれも、需要を増大させる筋合いのものではない。

 マクロ的には以上だが、歳出の中身は、周知のように社会保障に大きくシフトした。前年度、地域や産業の振興が主要項目を占めていたのとは対照的で、少子化対策や介護の強化が目玉となっている。筆者は、日本経済には再分配の強化が必要と考えるので、ここは素直に評価したい。そうした中、年金生活者への給付金3600億円が強い批判を受けた。しかし、その年限りの補正予算では、こうしたバラマキをせざるを得ない。昨年も地域商品券の名目で2500億円を配っている。

 補正予算は、予想し得る将来にわたり、続けなくてはならない情勢にある。毎年、バラマキのネタを見つけるのではなく、若者や女性に多い非正規に社会保険の適用を拡大し、同時に年金保険料の軽減をすべきである。年金には積立金のバッファーがあるので、万一、補正予算ができないときでも調整可能である。高齢者向けのバラマキを批判するだけで、代案を示さないのでは、補正の在り方は変わらない。なお、非正規の救済は、低年金で働かざるを得ない高齢者にも恩恵があることを言い添えておく。

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 以上のように、2015年度補正予算は、概ね前年度並みで、約0.5兆円の緊縮的内容である。2016年度予算については、新規国債を2.5兆円減額するとともに、税外収入の0.3兆円減で分かるように、別途、日銀が0.5兆円ほど溜め込むようだ。すなわち、財政のデフレの圧力は、計3.5兆円くらいであろう。加えて、予算額以上の税収上ブレが3兆円ほど出ると予想する。なお、地方と年金の数字は、これからだ。

 前年の補正+当初+地方+年金のデフレ圧力が8兆円にも及んだのと比べればマシではあるが、なかなかの大きさだ。素直に考えれば、景気の加速は期待できず、むしろ、足を引っ張られることになろう。財政当局は、軽減税率で惨敗したが、デフレ予算の仕込みには成功した。リベンジのつもりかもしれないが、こんな調子で景気が停滞してしまっては、2017年の消費増税を決めることは困難になる。


(今日の日経)
 企業内保育所5万人増。新規国債34.4兆円に減、来年度予算案。

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