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ファンド資本主義が資本主義を救う、その1.モノ言う株主

2021年07月01日 | ファンド資本主義への変貌

  中国共産党が100周年だそうですね。香港を完全制圧し、コロナにいち早く打ち勝ったことで、自由主義に対する専制主義の優位性を世界にアピールしています。そんなことはぜんぜんないことをこれから何回かに分けて述べていきます。

 

  先週6月25日、東証一部上場企業の東芝は、取締役会議長と監査委員会委員の再任人事案を株主総会で否決され、議長が辞任しました。しにせ大企業ではまれにみるお粗末な総会運営であり、経営陣です。

  その報道では「モノ言う株主」という言葉がたびたび使われました。かなり一般化している言葉ですが、この言葉の裏は「日本と言うガラパゴス列島ではふつう株主はモノを言わないのだ」(笑)ということを表しています。

  この言葉を使う新聞・TV・雑誌などの報道関係者の常識のなさを自ら体現してしまう言葉です。日本はガラパゴスだと笑われているのを誰も気づかずに使っているとは、お粗末と言うよりほかありません。

 

  私はイギリス系投資会社で企業買収を担当していた10年間、自分のいた会社より大きな上場会社を含め7社を買収しましたが、一貫して「モノ言う株主」でした。企業の所有者である株主が、使用人である取締役に対して発言してどこが悪いのか。私の実行した企業買収は売る目的ではなく、自社の業容拡大のための買収でした。そのような買収は、前の株主や当該企業の合意の基に行いますので、外資系でしたがハゲタカ扱いされたことは一度もありません。対象企業は業績悪化に苦しんでいるため、むしろ買収のプロの経営ノウハウ導入を歓迎してくれました。

  今年も日本の上場企業のかなりが相変わらず「株主総会集中日」である6月29日に総会を開催しています。理由はもちろん株主に物を言わせないためです。特に大きな株主であればあるほど他の多くの企業に投資しているため、総会当日は力が分散し、発言がしづらいことになります。

  企業側の名誉のために言っておけば、1996年の集中度96%に比べると今年は27%で、ずいぶん進歩しています。しかし今年は実は二山あって、東芝が総会を開いた前週の25日金曜日も25%でしたので、それを合わせると実は半数以上がまだ集中していると言えます。

 

  東芝の総会のことはさんざん報道されていますので深入りは避けますが、この企業は何年もの粉飾決算から始まり、今回の疑惑である「経産省と語らってモノ言う株主の議決権行使を邪魔しようとしていた」疑惑のあるとんでもない企業です。モノを言われて当たり前。経営の交代こそが東芝を救う最後の一手と言ってもよいかもしれません。

 

  私が従来からみなさんに向かって何度も言っていた言葉を再度申し上げます。外資による買収をハゲタカ来襲などと言わずに、「三顧の礼をもって迎えよ!」なのです。

  90年代の終わり、大量の不良債権を抱えた長銀を日本勢は誰も手を挙げることすらできず見放していましたが、その火中の栗を敢えて拾ったのでが、米系の企業再生ファンド、リップルウッドでした。その後の日債銀、いまのあおぞら銀行もしかり。

 

  私がメンバーであるゴルフ場も「貧すれば鈍する」を地で行くゴルフ場でした。私が買ったときの正会員権がたった5万円、名義書き換え料15万円の計20万円。10回もプレーすれば元は取れて、あとはおつりが来ると計算して買ったのですが、そこが最近米系のPGMという巨大ゴルフ場運営会社に買収されてグループ入りしました。手続き完了後従来の会員は1銭も払っていないのに、クラブハウスやコースが目に見えて改善され、友人たちを連れて行けるゴルフ場に変身しています。日本のゴルフ場ではともに外資系であるこのPGMとアコーディアがそれぞれ百数十コースを所有し、効率的な経営のもと価値を向上させてくれています。感謝!

 

  両社は長銀が破綻した時期である90年代後半から二束三文となったゴルフ場を買いまくりました。当初はハゲタカとさげすまれていましたが、今メンバーで文句をいう人は一人もいません。

 

  そもそも外資が企業買収をする一番の動機は何でしょう。もちろん儲けることです。買収したあと売って儲けるとしら、買収した企業をメチャクチャにするでしょうか。ダメな企業であれば安く買えるので、磨き上げて高く売るというのが普通のやり方です。せっかく長く働いていた社員も大事にして協力してもらうのです。私も買収した企業の社員の方々への最初のメッセージは、「人切りはしません、利益を増やして給料が上がるように我々が協力しますので、一緒に頑張りましょう」でした。しごく当然のことです。

 

  幕末の黒船襲来と同じような勘違いがいまだにはびこり、それが「モノ言う株主」という言葉に表れています。株主が会社や経営者にモノを言ってどこが悪いのでしょう。私に言わせれば黒船だって日本を救った救世主です。

 

  もちろんすべての買収者が良心に基づく買収を行っているわけではありません。買収後その企業に借金をさせ、その金で配当を増やし株価を吊り上げて売却するというファンドもあることはありますが、そうした悪意を持った買収者は非常に少数だし、長続きしません。なぜなら一度でもそうした悪評をもらってしまったファンドは、2度と同じことはできないからです。

 

  冒頭で中国が専制主義の優位性を誇っていると申し上げました。一方、資本主義+自由主義の劣化が言われる今日ですが、資本主義はすでにファンド資本主義へと大きな変貌を遂げ、次の発展を目指しています。それを今後じっくりと説明していきます。

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