ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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アメリカの低金利と、著書の出版中断

2020年12月09日 | 米国債への投資

  日本も世界もコロナ感染者数の激増がおさまりませんね。経済と感染防止の両立は無理。まさに「二兎を追う者は一兎も得ず」なのに、この先に待っている緊急事態宣言に至る道をひたすら走っているように私には見えます。このままでは、今年の春から現在に至る状況を繰り返すのみでしょう。もしかするとワクチン接種までの先延ばし戦術でしょうか。そうだとしたら、その間に死亡してしまった方は本当に浮かばれません。

  経済のことを心配するのであれば、短期決戦あるのみ。四半期だけ死んだように我慢していれば、コロナの国内感染は収まると思います。中途半端な両立て政策を続けていても、いずれは緊急事態宣言どころかシャットダウンまで必要になるような厳しい制限措置を取らざるを得なくなる可能性もあるし、そこまで至らずとも同じことの繰り返しでしょう。

  

  そんな中で先日の記事で私は株式相場を取り上げ、PERが30倍に達しているアメリカ株式は要注意だと申し上げました。その後も続伸している株価ですが、アメリカの投資家はコロナ感染による経済実態の鈍化は見ずに、ワクチンと政府による経済対策への期待に目が行っているようです。とにかく悪い材料は無視、よい材料には飛びつくという状態が長く続くのは、それ自体が注意信号です。

  

  一方、債券相場はアメリカでも日本同様すっかり官製相場となっていて、一国経済の体温計の役割を果たせていません。FRBのスタンス次第という待ちの姿勢が支配しています。FRBのスタンスは大統領がトランプであろうがバイデンに変わろうが、コロナ禍に痛めつけられた経済を支える姿勢には変わりありません。FRBが経済を支える最大の目標は雇用の維持です。

  本来は雇用の維持と同じくらい重要な目標はインフレのコントロールなのですが、この数年はインフレの心配は全くなく、むしろ逆に「デフレの克服」一色に染まっているため政策は緩和あるのみ、とても単純です。FRB自身がコントロールできる短期金利をひたすら低水準に抑え込み、通常は相場に左右される長期金利もFRBが債券を買い支えることで抑え込んだままです。

  こうしたスタンスによる米国金利の低下は、私の著書の出版を止めてしまうという影響を及ぼしています。昨年8月にはある出版社が私の出版を決めてくれて詳細の詰めが始まり、今年の初めには原稿も最終段階にまで至っていたのですが、コロナ感染の拡大にともなう米国の超低金利が出版にストップをかけてしまいました。

  10年物の金利は昨年末から年初までは2%弱でしたが、コロナ感染の拡がった3月初旬には一気に0.5%を割り込む水準に切り下がり、その後は1%を上回ることなく推移しています。実は著書の内容中、金利相場によって左右される部分は6つの章のうち1つの章でしかないのですが、それでも出版社としては米国債を勧められるタイミングを見計りたいという意向です。もちろん出版社側としてはどれだけ売れるかが一番大きな関心事ですから、私もその意向に従わざるを得ません。

  では一体いつまで現在の低金利が継続するのでしょう。その予想はコロナ感染が収まるのはいつか、その後経済が回復し金利が上昇するのはいつかという予想をしなくてはなりませんので、私の手には余る問題です。それでもあえて予想をすれば、21年中はとても無理。21年にワクチンが相当程度ワークすれば、少なくとも先進国ではコロナの収束にはめどが立つでしょう。その後22年になって経済が本格的に上向くことがあれば、金利も上昇するでしょうが、22年の経済回復と金利の上昇を予想しているエコノミストは多くないと思います。コンセンサス予想は3年後の23年です。

 

  それほど低金利が長引く理由は、FRBの緩和姿勢の強さです。短期金利の抑制はFRBの得意とする政策です。一方、長期金利は最近でこそ国債の大量購入によってFRBの政策範疇に入るようになっていますが本来は市場任せで、短期金利の誘導で多少影響を及ぼす程度でした。日本の日銀と違いアメリカのFRBはイールドカーブ・コントロールと呼ばれる長い年限までを対象とする金利の抑制策を表立って表明してはいません。それでもFRBが市場に資金を供給するのに必要な国債の購入は長期債券も対象にしていますので、しばらくは10年物の長期金利で1%程度を上限とする政策を継続すると思われます。

 

  ではそんな中において米国債投資を考えているみなさんはどうすべきか。

  一つ目は米国金利の低下によりドルが安くなるタイミングでドル転を進めていくこと。待機資金をお持ちの方は104円台から下は徐々に買い進むことをお勧めします。そして100円を切るようなことがあれば、さらに本腰を入れて買うべきでしょう。

  といってもそれだけでは円の待機資金がドルの待機資金に変わっただけで、現金は金利などのリターンをもたらしません。でも、それでかまわないのです。ドルが安い局面でアメリカの金利が高くなることはありません。両者は常に二律背反です。

 

  何もせずはもったいないのでドルのMMFにしておき、わずかながらも利回りを確保する手があります。それが二つ目です。MMFの利回りは非常に低いのですが、元本を棄損するリスクはほとんどありません。もしMMFよりリターンを多く欲しい方は、3年以下の短期の米国債を買う手もあります。現在の利回りは期限3年程度で0.15%くらいです。

  短期債といえども債券は価格変動にさらされるため価格下落の可能性はあるのですが、期間が短い債券の価格変動は小さいので、心配には及びません。利付債の例で説明します。

  投資後に価格が100を切っていても、いずれ100で償還されることになりますので損失の心配はいりません。では5年程度はどうか。現在の利回りのレベルは0.4%程度です。それが例えば2年後に金利が上昇を始めた場合、残り3年の年限とはいえ価格は下落します。それでも先ほどの3年物同様、5年後には100で償還されますので、そこまで我慢できれば価格変動によるロスは生じません。金利収入だけは間違いなく確保できます。

  上記の短期債投資で、一つ注意事項があります。それは短期であってもゼロクーポン債ではなく、昔発行された高クーポン物への投資の場合です。その場合残存年数は短期であっても、投資時点の価格が100を超えるオーバー・パーの債券である場合、最終的償還はどの債券も100でしか償還されませんので、キャピタルロスが生じます。といってもそのロスを上回るクーポン収入があるため、最後まで持ち切ることでトータルでは損失は出ません。この点だけは頭に入れておいてください。

 

  上記のMMFや短期債投資の例は、あくまで待機資金の運用です。その間の為替変動は考慮していません。1%を切るような低金利ですから、ドル円レートの変動を吸収する力はありません。でもドルのまま保有していれば、いずれ金利が高くなった時にドルの長期債に投資するので、為替の影響を気にする必要がないのです。

 

  今は忍耐あるのみ。ゆめゆめ株式などには手を出さないことです。

コメント (14)
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