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不動産バブル崩壊の再現

2020年07月29日 | 不動産投資

  あれだけ動かなかったドル円レートが、一時NYで104円台に入りましたね。ドル転のチャンスを待っている方、少しずつ買い下がるチャンスかもしれません。

 

  今回は私がコロナ禍で懸念している日本の不動産投資についてです。

  80年代に我が世の春を謳歌した不動産投資でしたが、バブルは大きく膨らみ90年代早々見事に破裂。株式市場の崩壊とともに後遺症が十数年に及ぶ日本経済の低迷を招く最大の要因になりました。しかし08年の金融危機後にはバブルの後遺症もほぼ癒され、12年末の安倍政権によるアベノミクス宣言と日銀の異次元の金融緩和により、不動産市場はふたたび復活し、現状は行き過ぎてバブルの様相を呈していると思います。といってもそれは全国レベルの話ではなく、東京などの大都市とその周辺、そして地方の中核都市での話です。

  その裏では2000年代初頭から始まったREITという不動産投資の新たな動きが投資の後押しをしています。REITは不動産投資信託として小口の投資を可能にし、一般投資家を広く募ることを可能とした投資システムです。現物の不動産は資産の中で最も流動性に欠け、私が忌み嫌う資産の代表格ですが、REITは小口だし上場されていて流動性が十分にあります。アメリカでは70年代からある商品で、もし日本でも早くからREITがあったら、あの猛烈なバブルはなかったかもしれません。その理由は、REITによる不動産の評価方法が、世界標準であるDCF(収益還元法)だからです。

 

  今回のコロナ危機は、アベノミクスによる不動産バブルを崩壊させるインパクトを持っていると私は見ています。なぜならこの10年あまりの不動産投資が、限られたセクターに集中し、価格を押し上げているからです。集中先は第一にオフィスビル第二にホテル第三に都心の高層マンションの3つです。ひとつずつ見ていきましょう。もう一つ、物流センターの建設ラッシュは、心配なレベルまでに達していないとみています。

 

  まず第一にオフィスビルから。コロナ感染の最も有効な予防策はリモートワークです。それがすでに都心オフィススペースの縮減をもたらしています。企業によってはオフィスをすべて返却し、今後永遠にリモートワークをすると宣言するところまで現れています。そこまでいかずとも例えば富士通は8万5千人の社員を抱えていますが、今後3年間でオフィスを半減させる目標を立てました。NTTも原則5割を在宅勤務とし、日立製作所でも全社員の7割を目標に週の半分は在宅勤務を継続します。こうした動きは大企業に限らず、むしろ渋谷などにオフィスを構える新興IT系ベンチャー企業に幅広く浸透しつつあります。小規模な非製造業の企業にとって、人件費を除けば最大の固定費はオフィスの賃貸料です。それが削減できれば企業の存続可能性をがぜん高めることができます。

  一方供給サイドでは新築のオフィスビルが今後もどんどん竣工する見込みで、都内に限っても1万平米以上のオフィスビル・プロジェクトが2百数十も進行中だそうです。需給ともに懸念される状態です。

  私はゴルフに行くとき、時々首都高でレインボーブリッジを渡るのですが、最近の東京の夜景は本当に綺麗です。昔NYにいた時にブルックリンサイドからみたマンハッタンの摩天楼の夜景に見とれましたが、東京もそれに負けないほど高層ビルと高層マンションが密集していて、それに東京タワーのライトアップが花を添えてくれるまでになっています。

  今回のバブルの頂点を象徴するものとして森ビルとJTによる「神谷町プロジェクト」が進行中で、規模もさることながら、日本で最も高いビルも建ち上がる予定です。こうした多くの新規プロジェクトは、コロナで減退しているオフィスビル市場に水をかけ、賃料を下に引っ張ることになります。

  もっとも新築のビルは埋めることができます。同じ賃料なら新築ビルにの競争力は古いビルに比べて圧倒的に強いからですが、その分古いビルは借り手を失うか、賃料を下げざるを得ない。それが玉突き状態で波及します。もちろん新築ビルも実際には見込んだ賃料を得ることができず、収支は悪化せざるを得ません。

 

  そして第二のホテルですが、海外観光客の99.9%の減少と国内旅行客や出張客の減少が稼働率を大きく減少させると同時に客室単価も低下させ、その掛け算である売上高は壊滅的な状況です。その様子を5月21日の日経ニュースから引用します。

 

引用

ホテル専門の英調査会社STRが発表した4月の日本国内ホテルの稼働率は14.1%となり、3月に続いて過去最低を更新した。平均客室単価も前年同月に比べ47.5%下落した。新型コロナウイルスのまん延で宿泊業の収益環境の悪化が一段と鮮明になった。

都市別にみると東京の客室単価は1万2829円で前年同月比41.9%下落。大阪は9295円で同40.9%下がった。稼働率はビジネス客の減少も影響し東京が11%、大阪が10.3%となるなど落ち込みが目立った。

引用終わり

 上の数字をまとめて単純化しますと、稼働率が8割以上減少してわずか2割弱に。そして販売単価が4割減なので収入は従来の1割強しかなくなった、ということになります。その上ホテル業界の最大の悩みは、ここに至るまでの数年と今後数年の新設ホテルによる供給激増です。それもラグジュアリーなホテルの建設ラッシュばかりではありません。他人事ながら心配なのはホテル業界でも日本最大、10万室の客室数を誇るまでに急成長したアパホテルです。いまでも毎日のように新ホテルのオープンを宣伝し続けています。APAだけは例外などということは決してありません。

 

  そして第三に都心の高層マンションです。すでに家計の防衛本能が新築住宅への需要を冷え込ませています。それと同時に、リモートワークの普及は過密都市からの逃避をもたらしつつあります。その様子をまずは時事通信6月18日のニュースから。

「不動産経済研究所が6月18日発表した5月の首都圏(東京都、神奈川、埼玉、千葉各県)の新築マンション発売戸数は前年同月比82.2%減の393戸だった。4月の686戸を下回り、単月の戸数として過去最少を更新した。」

それが6月には若干回復し、以下のようになっています。

「6月のマンション市場動向調査によると、首都圏の新築マンション発売戸数は前年同月比31.7%減の1543戸と10カ月連続で減少した。契約戸数は1129戸で、消費者が購入した割合を示す月間契約率は同7.3ポイント上昇の73.2%だった。

  その結果、2020年上半期(1~6月)の首都圏(東京都、神奈川、埼玉、千葉各県)の新築マンション発売戸数は前年同期比44.2%減の7497戸だった。上半期としては1973年の調査開始以来、最少となった。」

 

  こうしてオフィスビル、ホテル、新築マンションなどの数字をみると、すでに不動産バブルの崩壊が始まっているという見方に納得がいくと思います。そしてコロナが去れば戻るという期待は持たないほうがよいと思います。何故ならバブってしまったということは、あるべき水準をはるかに超えているということですから、超えた分まで戻ることはありません。

  この3つの不動産セクターはいずれも建設業界にとっては最大の顧客です。ということは、すそ野の広い建設業界も不動産の不振により大きな悪影響を受け、今後は産業界の中でも大いに足を引っ張る側にまわることでしょう。ということは、鉄骨やコンクリート、ガラスなどの建設資材メーカーも影響を受けます。

 

  こうした日本の不動産投資ですが、実は金利は80年代の大バブル時代に比べてはるかに低いにもかかわらず投資行動は慎重で、無茶な投資はしていません。理由はオフィスビルにしろホテルにしろ、投資決定にはDCF(収益還元法)による価格評価方法を使っているからです。その裏には最初に申し上げた不動産投資にREITが参入したことがDCF評価を一般化させたことに貢献していたのです。

 

DCFは大変重要な投資の概念ですので、別途説明いたします。

 

つづく

 

コメント (6)
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