“科学技術書・理工学書”読書室―SBR―  科学技術研究者  勝 未来

科学技術書・理工学書の新刊情報およびブックレビュー(書評)&科学技術ニュース   

■科学技術書・理工学書<ブックレビュー>■「NHKスペシャル<列島誕生 ジオ・ジャパン> 激動の日本列島 誕生の物語」(宝島社)

2017-10-21 07:32:10 |    宇宙・地球

書名:NHKスペシャル<列島誕生 ジオ・ジャパン> 激動の日本列島 誕生の物語

監修:NHKスペシャル「列島誕生 ジオ・ジャパン」制作班

発行:宝島社

目次: 巻頭グラビア 絶景に隠された日本列島誕生の物語
    序章 日本列島誕生前夜
    第1章 第1の事件「大陸からの分離」
    第2章 第2の事件「火山島の衝突」
    第3章 第3の事件「世界最大規模のカルデラ噴火」
    第4章 第4の事件「山国をつくりあげた『東西圧縮』」
    巻末特典 地球を体験!日本の「ジオパーク」ガイド

 我々が住む日本列島は、フィリピン海プレート、太平洋プレート、北アメリカプレート、ユーラシアプレートの4つのプレートがぶつかりあう、地球上でも珍しい場所にあることは、多くの日本人は既に知っていると思う。これは、世界でもまれな地震多発地帯ということから、地震に関する知識によることのためだ。さらに、最近では火山活動も活発化してきており、地震と火山活動の関係についての報道も数多くなされている。これまで、地震対策としては、地震予知に多くの予算が組まれ、近い将来、地震予知が可能になるのでは、という淡い期待を抱いていた国民も少なくなかったのではないだろうか。しかし、現実は厳しいもので、気象庁は、南海トラフで起きる地震について、「予知は不可能」という結論に達し、今後は、複数の現象が起きた後に、専門家が検討し、「近く南海トラフで大地震が起きそうだ」という形での発表となるという。今の科学レベルでは、地震を予知することは不可能なのだ。地震は日本にとって宿命的なことであり、避けることはできず、我々にとってできることは、被害を最小限に食い止めることしかない。ところで、地震については、多くの国民はある程度の知識は持っているが、この日本列島がどのように形づくられたかを、知っている国民はそう多くはないのではなかろうか。地殻が隆起して日本列島ができた、くらいの認識しか持ち合わしていない人が大半を占めるのではなかろうか。

 そんな折、2017年7月にNHKテレビでNHKスペシャル「列島誕生 ジオ・ジャパン」が放送され、これを見た多くの視聴者は「日本列島はこうやってできたのか」とびっくりしたのではなかろうか。宝島社の書籍「NHKスペシャル<列島誕生 ジオ・ジャパン> 激動の日本列島 誕生の物語」(監修:NHKスペシャル「列島誕生 ジオ・ジャパン」制作班)は、この時の放送内容を、多数掲載されているオールカラーの写真を基に忠実に再現し、さらに、日本列島、ひいては地球の成り立ちを知りうる場所として、地球科学的な価値を持つ大地を保全する、北は北海道から南は鹿児島まで、全国43か所に点在する「ジオパーク」紹介が、巻末特典 地球を体験!日本の「ジオパーク」ガイドとして掲載されているので、日本の地質に興味のある人には興味深いものだろう。日本列島は、太平洋の中にある「島国」なのに、3000m級を超える山並みを抱く「山国」でもあるのだ。このことを聞いても我々は別に不思議とは思わないが、地球規模で見てみると、これは非常に珍しい地形であることが分かる。高い山に季節風がぶつかることで、日本の年間降水量は、1700mmと温帯では世界のトップクラスに位置づけられている。この結果、日本で独自に進化した動植物は3000種を超えることになる。このように、地球上でも珍しい存在の日本列島の生い立ちを知ることは、日本史を学ぶのと同じ意味合いを持っていると言えよう。

 同書によると日本列島誕生の背景には、次の4つの事件があったという。第1の事件は「大陸からの分離」。現在の日本列島がまだユーラシア大陸の一部であった約3000万年前、この大陸の東で巨大な地震と火山活動が起こり、東端の大地に裂け目ができ、この裂け目は数百万年をかけて拡がり、約2500万年前には、太平洋の海水が流入し、遂に日本列島のもとは、大地から引き裂かれてしまう。第2の事件は「火山島の衝突」。「大陸からの分離」によって、約2000万年前に現在の伊豆半島の沖合に移動してきた伊豆の島々のもとが、約1800万年前、フィリピン海プレートの動きとともに北へと移動し、西日本の端に衝突。山地や伊豆半島を形成し、流れ出した土砂が関東平野のもととなった。第3の事件は「世界最大規模のカルデラ噴火」。約1400万年前、南北40㎞にわたって半円形のカルデラができた。それらが紀伊半島に高い山々をつくり出した。同時期、西日本の広域では、紀伊半島同様の噴火が起こり、西日本に高い山々ができた。第4の事件は山国をつくりあげた「東西圧縮」。当初、北向きに移動していたフィリピン海プレートが、約300万年前に北西に向きを変え、それにともない太平洋プレートが日本列島に近づき東西圧縮が始まり、徐々に山々を形づくっていった。そして、最後に今の日本列島が誕生したのである。

 同書の最後には巻末特典として「日本の『ジオパーク』ガイド」が付けられている。ジオパークとは、「地球・大地(ジオ:Geo)」と「公園(パーク:Park)」とを組み合わせた言葉で、「大地の公園」を意味し、地球(ジオ)を学び、丸ごと楽しむことができる場所のことを言う。現在日本には、日本ジオパーク委員会が認定した「日本ジオパーク」が43地域ある。その内、8地域がユネスコ世界ジオパークにも認定されている。ユネスコ世界ジオパークとは、ユネスコの定める基準に基づいて認定された高品質のジオパークで、2015年にユネスコの正式プログラムとなった。現在、世界35カ国、127地域にユネスコ世界ジオパークがあり、そのうち8地域が日本にある。同書には日本ジオパークの43地域が全て収められているので、史料的な価値としても高いものとなっている。その中の一つ「立山黒部ジオパーク」の項目を見てみると、「・・・立山黒部の歴史は、地球生命誕生と同じ38億年前に遡る。その後、超大陸の一部だった時代、日本海が拡大した時代、飛騨山脈が隆起した時代を経て、現在の多様な地形がつくられた。北東の黒部川流域にある宇奈月地域では、大陸同士の衝突を物語る十字石や38億年に形成された日本一古い鉱物とされるジルコンが産出する。・・・」。日本の中に38億年前の鉱物が存在するとは・・・、改めて日本列島の遥かな旅路に思いを馳せる。(勝 未来)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする