風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

鉄のライオン

2011-07-27 | 読書
これは小説?
それとも作家の思い出の記?

もちろんフィクションも入ってるだろうから
カテゴリーとしては小説なのだろうが
(すべてフィクションなら逆にすごい)
思い出し語りと思えるほどのリアリティで
「あの頃」「あの季節」を描いている。

作家はワタシより2歳下だがほぼ同世代。
18歳で田舎から上京し
都会に潰されそうになりながら精一杯しがみつき、
友人たちと情けなくも哀しい毎日を過ごしつつ
様々なことを感じ、考えながら成長する
不器用な主人公を一人称で語るこの作品は
なーんだ、そのまま30年前の自分じゃないか。
当時高校を卒業して上京してきた若者は
男も女も、かくも恥ずかしく、酸っぱい存在だった。

竹の子族、不揃いの林檎たち、真夜中のコインランドリー、
BOATHOUSEやSHIPSのトレーナー、ユースホステル、
ホイチョイプロダクションやスーパーヅガン、
コナーズとマッケンローのウインブルドン決勝、
村上春樹さんの「1973年のピンボール」や「羊をめぐる冒険」、
そしてデートで行くことを夢見たディズニーランド・・・
ワタシの思い出の小箱の中に詰められた言葉やコトが
次々と引っ張り出されてくる。

中でも懐かしかったのは六本木のパブ「テニスクラブ」。
そうそう。
カナディアンクラブなどのボトルを入れると
他の店のようなボトルカードの代わりに
キーホルダーとネックレスを貰ったものだった。
それを女の子とひとつずつ持って・・・。
主人公同様、ワタシにとっても精一杯オシャレな店だったが、
今考えると六本木の他の店に比べると
割にリーズナブルな学生向けのパブだったな。

こんな本を読んだ後は
持ち出して散らかした思い出の品々を
またひとつひとつ心の小箱にしまい込むのに時間がかかる。

「鉄のライオン」重松清 著 光文社文庫
コメント
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