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データを用いての日本の針路分析、高齢者の処遇が論点

2016-12-05 08:17:40 | 読書ノート
西内啓『統計学が日本を救う:少子高齢化、貧困、経済成長』中公新書ラクレ, 中央公論, 2016.

  マクロ経済学。『統計学が最強の学問である』の著者による新書。統計分析を用いて日本の将来の福祉および経済に効果のある政策を測定するという内容である。実際の分析例を示すことが主目的の本で、統計手法について解説がないわけではないが、あまり詳しくない。

  分析の主題は柴田悠の『子育て支援が日本を救う』と同じである。日本社会の厚生を高める政策は何かについて探るものだ。ただし結論は柴田著と微妙に異なっていて、保育所や幼児教育への公的支援を肯定しつつも、女性の労働力化よりも高齢者の労働力化のほうに期待を寄せる。「健康な老人」が働き続けていてくれれば、医療費などの支出が減り、かつ税収も増えるからだ。ただし、柴田著は因果関係を検証していたが、本書は相関を元に議論を展開している。

  高齢者に働いてもらう仕組みについては、「現行の社会保障は彼らの働く動機を削いでいる」と批判するだけで、あまり詳しく議論されていない。また、福祉サービスの低下を避けるように強調しつつ、高齢者向け医療の不効率と過剰さを問題視しており、結局その費目の削減の主張につながるのではないかと疑問に思うところ。しかしながら、高齢者医療を俎上にのせたその第三章こそがもっとも面白く、医療経済学の専門家らしい有益な情報が多い。本書が三章の話を詳しく展開する本として書かれていたら、よりその意義が高かまったろう。福祉全体と経済の話は他人の本に任せてもよかったと思う。
  
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