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日本のエンタメ産業の動向を広く簡潔に紹介

2024-04-10 08:00:41 | 読書ノート
中山淳雄『エンタメビジネス全史:「IP先進国ニッポン」の誕生と構造』日経BP, 2023.

  日本のエンターテイメント産業の歴史。といっても詳細なものではなく、非常にざっくりとした整理を試みるビジネス書である。なにしろ、興行、映画、音楽、出版、マンガ、テレビ、アニメ、ゲーム、スポーツと扱う領域が広く、江戸時代や明治時代に端緒を求めたと思ったら中途をすっとばしてすぐに戦後の展開に移るという具合である。正確な歴史を期待するよりも、1990年代以降の状況、どのようなビジネスモデルで収益を得ているか、海外市場との比較、これらを知るのに適しているだろう。副題にあるIPはintellectual propertyすなわち知的財産のこと。

  当然ながら領域毎に展開は異なる。興行はインターネットの登場によって縮小すると考えられたが、逆に成長産業になった。多くの国の映画市場で米国産の映画が8~9割のシェアを占める中、日本(そして韓国・中国・インド)の映画市場はまだ自国産の映画が50%以上を占めている。以上のような領域の現状と、そこに至るまでの画期となる作品や人物、事件が触れられる。最後の章では、著者は日本人の創造性の高さや職人気質を称賛しつつ、その一方で海外マーケティングの戦略や能力が欠けているという指摘を行う。

  最後の指摘は著者のポジショントークが入っていると思われる。著者はエンタメ社会学者名乗っているが、同時に邦エンタメ産業が海外進出をする際のコンサル業をやっているとのこと。とはいえ、前世紀とくに1980年代を経験した者にとっては、「創造性があるが商売下手」という日本人評価は時代の変化を強く感じる。自動車産業や家電企業が栄え、トヨタやソニーが世界的企業となった1980年代、当時の日本人像は「商売優先のエコノミックアニマル、創造性はなくて模倣が上手いだけ」というものだったからだ。
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