29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

2021年1月~4月に読んだ本についての短いコメント

2021-04-29 07:00:00 | 読書ノート
木下斉『まちづくり幻想:地域再生はなぜこれほど失敗するのか 』(SB新書), SBクリエイティブ, 2021.

  地方創生あるいは地域再生について心構えや考え方について述べた本。補助金に頼るな、黒字化を常に念頭におけ、という主張は著者の他の本でも繰り返されているものだ。本書では、地域社会での足の引っ張りあいの問題が強調されている。地方でチャレンジをする人に対しては、失敗してもすぐ撤退できるよう、小さな規模からビジネスを始めるように勧められる。実績を積むことで協力者も増えてくるという。批判する側に対しては、地域のことを思うならチャレンジする者が売っている商品またはサービスを購入してやれという。うーむ、地域が利用できる人材の問題はとても大きいという印象。はたして、チャレンジできる人間が、都会で腕試しをせずに、地方都市に留まっているだろうか。

三浦瑠麗『日本の分断:私たちの民主主義の未来について』(文春新書), 文藝春秋, 2021.

  アンケート調査によって日本人の価値観の分布を探るという内容。データがあるので『日本に絶望している人のための政治入門』よりは読ませるところが多い。疑問点もある。分析方法の解説は詳しくないけれども、アンケート項目間で重み付けをすることをせず、素点でマトリックスを作っているように見える。ならば、個々の項目を保守とかリベラルとかに分類するうえでの妥当性はどう担保されているのだろうか。あと、一強多弱の国会の政党構成の原因を個々の政党側の主張に求めすぎている点も気になった。待鳥聡史『政治改革再考』では、小選挙区比例代表選挙制度のうちの「比例代表」部分が、導入当初の目的だった二大政党成立を挫折させ、小党乱立という結果をもたらしていると指摘している。

湯澤規子『ウンコはどこから来て、どこへ行くのか:人糞地理学ことはじめ』(ちくま新書), 筑摩書房, 2020.

  ウンコ観の比較文化および歴史。特に、江戸時代は肥料として売買されていたウンコが、近代になって忌避され、汚物として下水処理されるようになっていった、その理由と過程について詳しい。で、それには、都市化の進展で近郊農家が必要とする量以上に供給されたためという理由と、西洋人の眼差し(彼らには生野菜を食する習慣があったのだが人糞で育てた野菜を嫌悪した)という理由の二つが示されている。20世紀後半になると日本の都市では下水処理が普通になり、ウンコは即座に流されて日常的に視界に入らないものになった。著者は、近代以前の人間とウンコが共存する時代をノスタルジックに眺めていたりする。だが、読んでいて衛生観念の進歩はやはり大きいと感じる。昔の人は、菌などの微生物を理解できていなかったからこそ、ウンコを身近に扱っていたのではないだろうか。

デイヴィッド・ランシマン『民主主義の壊れ方:クーデタ・大惨事・テクノロジー』若林茂樹訳, 白水社, 2020.

  民主主義の現状についての雑漠としたエッセイ。加速主義やら陰謀論やらいろいろトピックを盛り込んではいるもののの、きちんとした議論の筋があるわけではない。現在の民主主義は「中年の危機」で、SNS経由のポピュリズムに陥っているが、でもまあ民主主義は駄目なりに続いてゆくんじゃないか、日本がそうだろ、というニュアンスである。著者は英国の政治学者で、2016年のトランプ大統領登場に驚いて書いた本のようだ。原書はHow democracy ends (Profile Books, 2018)。けっこうな数の書評を目にしたので、個人的には読む前の期待値が高かったのだが、思い付きを書き連ねたようなゆるい書きぶりに拍子抜けした。あまり期待せずに読むべき本。

渡部悦和, 佐々木孝博 『現代戦争論―超「超限戦」:これが21世紀の戦いだ 』(ワニブックスPLUS新書), ワニブックス, 2020.

 「超限戦」というのは中国人民解放軍の大佐が1999年に発表した書籍のコンセプトで、通常の軍事活動の枠外でも継続される戦争とのことらしい。典型的なのはサイバー戦やマスメディアを使った宣伝工作ということになるが、そこでの勝利を支えるAIや宇宙衛星の技術も問題となる。本書は、「超限戦」のコンセプトをめぐって、中国、米国、ロシアがどう対応しているかを伝えるもので、それぞれの公式・非公式の文書や軍の編成について解説している。著者二人はもと自衛官とのこと。日本はもはやこの最先端の軍事コンセプトについていけないと思うのだが、ついていかなくてはならないのだろうか。
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2021年1月発行の学校図書館の本と読書指導の本それぞれ

2021-04-25 07:00:00 | 読書ノート
クリスティーナ・A.ホルズワイス, ストーニー・エヴァンス『学校図書館をハックする:学びのハブになるための10の方法』松田ユリ子 , 桑田てるみ, 吉田新一郎訳, 新評論, 2021.

大橋崇行 『中高生のための本の読み方:読書案内・ブックトーク・PISA型読解』ひつじ書房, 2021.

  『学校図書館をハックする』は学校図書館を活性化するための米国産のアイデア集。原書はHacking school libraries: 10 ways to incorporate library media centers into your learning community (Times 10 Publications, 2018.)。要求される仕事の水準は高い。読書指導ができるのは当然のことで、そのうえで教員に代りに調べ学習を指導でき、コミュニケーション用のアプリに精通し、学校管理職と上手くコミュニケーションがとれ、3Dプリンタも操作できて、十分な予算も獲得できなくてはならない。これら全てを完璧にこなそうと思うと心が折れそうだが、読む側はできることから始めればいいだろう。あくまでもヒントをもらうための本として。

  上の本のプロモーション重視の姿勢から、一年半ぐらい前のニュースを思い出した。米国のとある学校図書館が英訳版の『小林さんちのメイドラゴン』を所蔵していて、親が不適切だとクレームをつけたというものである1)。個人的にはその漫画についてよく知らない。が、日本国内でもそれほど知られているわけではないだろうこの作品が英訳されているというのがまず驚きで、かつまた米国の学校図書館に所蔵されているということがさらに驚きだった。「米国人児童生徒のリテラシーにはかなりのバラつきがあるから、まずは読む能力のない子たちに図書館に来てもらうことが重要。その目的のためには、親しみやすいならば漫画でもSNSでも何でも利用する」と、米国の学校図書館員のスタンスをこちらで勝手に推測するが、どうなんだろう。

  『中高生のための本の読み方』はブックトーク事例集である。といっても口頭発表されたオリジナルがあるわけではなく、最初から文字で書かれたものである。小説とノンフィクション作品だけでなく、漫画も紹介しているところがポイントだろう。タイトルに「中高生のための」とあるものの、紙質が変わる194頁以降は教師や学校図書館司書に向けた短い注意書きとなっている。その内容は、ビブリオバトルなどの読書関連企画、ブックトークのやり方、PISA型読解についてである。中高生向けということもあって「最低限の読解力レベルを前提としてさらに上のレベルの読解力を身に着ける、そのための読書習慣形成のとっかかりに」という趣きである。

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1) José Zozaya (Oct 30, 2019) "Omaha mom upset with 'inappropriate' book her daughter brought home from school library" / KETV.com
  https://www.ketv.com/article/omaha-mom-upset-with-inappropriate-book-her-daughter-brought-home-from-school-library/29645806
  なお、報道によれば学校側は「問題ナシ」と親に伝えたとのこと。
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邦題は直訳で「数字は嘘をつかない」でいいんじゃないの

2021-04-21 07:00:00 | 読書ノート
バーツラフ・シュミル『Numbers Don't Lie : 世界のリアルは「数字」でつかめ !』栗木さつき訳, 熊谷千寿訳, NHK出版, 2021.

  数値からわかる世界の状況を解説する一般書籍。生活の国際比較、食糧、環境、エネルギー、移動手段、機械などのトピックを扱う短い記事が、3~5ページ程度にまとめられて71個並んでいる。もともとの記事は米国電気電子技術者協会の機関誌 IEEE Spectrum の連載コラムからの選りすぐりで、2015年から続いているそう。著者は『エネルギーの人類史』の人。原書はNumbers don't lie: 71 things you need to know about the world (Viking, 2020.)。

  図表を示しながらの説明が続く。いくつかトピック例を挙げよう。生活の質を表す最も良い指標は乳児死亡率だ。イギリスと日本の将来はヤバい。雇用をもたらすので製造業は重要だ。20世紀半ば以降に農業生産が向上したのは窒素肥料のおかげ。フードロスを減らすことは環境にやさしい。鶏肉は牛肉や豚肉より環境負荷が少ない。日本人のように腹八分で満足すると寿命が延びるかも。生産工程や消費サイクルを考慮すると自動車と携帯電話は同程度に環境に悪いかも。自然エネルギーを作るための発電機の生産にもけっこうなエネルギーがかかる。化石燃料の使用はゆっくりとしか減らない。自転車は蒸気機関より新しい発明である。エネルギー効率がもっとも良い乗り物は高速鉄道である、などなど。なお、収録されている世界幸福度ランキングの話は東洋経済オンラインでも読める1)

  以上。何か凄く新しい議論が展開されているわけではない。けれども、雑学として面白いというだけでなく、数値を比較する際の認識の枠組みがどうあるべきかについての示唆があってタメになる。価格もA5判350頁ながら2000円で、このサイズでこういった内容の本の中ではけっこう安い。また、かなり平易に書かれており、中高生が調べものなどに使っても十分理解できるだろう。

1) 東洋経済オンライン / "バーツラフ・シュミル 「北欧は幸福度が高い」と思う人に教えたい真実" https://toyokeizai.net/articles/-/418813
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ドリーミーなタイトルの曲がならぶ優雅で美麗な現代音楽

2021-04-17 10:07:28 | 音盤ノート
Takashi Yoshimatsu "Yoshimatsu: Piano Concerto "Memo Flora"" Chandos, 1998.

  クラシック。NHKの大河ドラマ「平清盛」のサントラで知られるようになった、現代音楽作曲家の吉松隆の作品集である。ピアノ協奏曲 ‘メモフローラ‘以下、‘鳥は静かに (And Birds Are Still …)‘ ‘天使はまどろみながら… (While an Angel Falls into a Doze...)‘ ‘夢色モビ ールⅡ(Dream Colored Mobile II)‘ ‘3つの白い風景 (White Landscapes)‘というタイトルが付けられた、オーケストラによるゆったりしたテンポの曲が多く収録されている。このアルバムは英国クラシックレーベルのChandosからで、オケはManchester Camerata、レコーディングも英マンチェスターである。日本人演奏者も参加しており、指揮者は藤岡幸夫、ピアノは田部京子となっている。日本盤はない。

  で、今さらなぜ1998年のこの録音なのかというと、最近見たYouTubeチャンネルで収録曲の‘メモフローラ‘の第一楽章終盤が紹介されていたからである。オーストラリアのTwo Set Violinというデュオによる、2020年の”5 Contemporary Composers You Should Definitely Check Out”という動画である(下記リンク参照)。そこでは「アニメのサントラっぽい」という紹介のされ方がなされており(動画ではジブリに言及している)、見ている人は久石譲に近いタイプだろうと思ったはずだ。確かにミニマルミュージックを通過した叙情性という点は共通しているけれども、久石のほうがずっと素朴で抑制が効いている。一方、吉松のほうは豪華絢爛で情動全開である。上に記した曲名からも「この乙女チックな趣味はいったいなんなんだ」と感じるだろう。そういったべたべた甘々でやりすぎなところこそが彼を抜きんでたものにしている。

  このアルバム、個々の収録曲は優雅で美しいのだけれども、CDで通して聴くと大人しめの曲ばかりでメリハリがあまりなく、少々退屈に感じなくもない。一方で、交響曲など他のオーケストラ曲で見せる過剰さや暴力性(タルカス編曲版含む)は控えめなので、通して聴きやすいとも言える(メリハリがある曲は音量が気になるんだよね)。なお、収録曲はすべてストリーミングで聴くことができる。個人的には、こぼれ落ちるような悲しみをベタに聴かせる弦楽アダージョ‘鳥は静かに‘ がいいかな。

  ちなみに下のTwo Set Violinが紹介した他の四人の作曲家は、アルヴォ・ペルト、マイケル・ナイマン、デビッド・ラング、マックス・リヒターだった。ペルトとナイマンは1980年代にはすでに注目されていたので今さら感があるのだが、若い演奏家にはあまり聴かれてこなかったということなんだろうか。デビッド・ラングについても、1990年代から評論家受けはしていたというイメージがある(最近では久石譲が日本に紹介している)が、得意の変拍子がとっつきにくいのか、大衆受けはしていない。というわけで、マックス・リヒターだけが初めて知る作曲家だった。


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精神疾患の家系に生まれた著者による、遺伝研究の問題含みの歴史

2021-04-13 20:12:12 | 読書ノート
シッダールタ・ムカジー『遺伝子:親密なる人類史』(ハヤカワ文庫NF) 仲野徹監修, 田中文訳, 早川書房, 2020.

  遺伝子研究の歴史をまとめた一般向けの書籍。邦訳は上下二巻本である。著者は著作『がん』で知られるインド系の米国人医師である。本書は、ところどころに著者の父方のおじ二人の統合失調症や双極性障害のエピソードを挟み込んでおり、遺伝的な精神疾患に対する著者自身の恐れが著述を駆動させているようだ。原著はThe gene: an intimate history (Scribner, 2016.)で、最初の邦訳は2018年に早川書房から。この文庫版は、新たに文庫版解説を加えたものである。

  全体は6部構成でできている。まずはメンデルの発見とダーウィンの理論ではじまる。しかし、遺伝をめぐる議論はその後、優生学という悲劇的な社会政策に帰結してしまう。20世紀前半においては、ナチスのそれが最悪だったというだけでなく、米国でも同様の潮流があって障害者に断種手術が行われてきたという。このように、遺伝のメカニズムの解明という輝かしさと、遺伝研究を性急に応用することへの不安や実際にあった失敗、この二つのモチーフでストーリーが進んでゆく。DNAの二重らせん構造発見の駆け引きがスリリングに描かれ、遺伝子の操作が徐々に可能になってゆくことが記される一方で、人間への応用研究が自主規制されてゆく動きも強調される、というように。

  上巻は、ところどころ聞いたことがあるような生物学上の話を一本の糸に紡いで見せたという印象である。下巻は、遺伝が関連するさまざまな病、同性愛、人種論、エピジェネティクス、IPS細胞、ゲノム編集など、関連してはいるもののまとまりのないトピックを、ひとつの器にてんこ盛りにしたという印象である。遺伝のメカニズムについては専門用語で簡単に解説したのちに大胆な比喩でパラフレーズするという説明スタイルを取っている。なんとなくわかった気になって読み進めしまうのだが、おそらく読者は正しいメカニズムを理解できていないだろう。この点はマイナスポイントではなくて、著者の技量の高さとして評価したい。

  あくまで研究史が主という記述である。遺伝と社会の関係をめぐる考察は一見重要そうに語られているが、異論をわざわざ取り上げての取り組みではなく、今後の議論に含みを持たせた通り一辺倒の言及である。研究史のほうは充実しているので、読者としてはそれでよいと思える。なお、文庫版解説にはコロナ禍で開発されたmRNAワクチンへの説明もあってためになる。
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高速インターネット回線がもたらしたエロ動画中毒の症状と克服

2021-04-09 07:00:00 | 読書ノート
ゲーリー・ウィルソン『インターネットポルノ中毒:やめられない脳と中毒の科学』山形浩生訳, DU BOOKS, 2021.

  ポルノ中毒の害と克服法を教えるまじめな心理学書籍。男性向けである。著者の経歴はよくわからない。研究者ではないようで、science teacherとのことである。サイエンスライターの奥さんと yourbrainonporn.com なるサイトを運営したことが事のはじまりで、そこに集まった読者の書き込みを大量に転載している。原書はYour Brain on Porn (Commonwealth, 2014)で、邦訳のもととなった第二版は2018年に発行されている。そのサイトにあるRマークから"Your Brain on Porn"が商標登録されていることがわかり、かつサイトのしっかりとした日本語版1)もある。これらからは、著者に商売っ気も感じる。訳者解説はない。

  その主張は単純だ。ネットのエロ動画をザッピング視聴することは精神衛生上よくない、というものだ。それは生身の女性に対する性欲を減退させる。酷い場合はEDをもたらす。神経系統からみれば、ネットポルノ中毒はヤク中やアル中と同じ状態である。それは人生に対する自信を失わせ、うつ状態に導いてゆく。特に思春期にネットのエロ動画を見続けることは危険で、さらなる刺激を求めてアブノーマルな性癖に向かうことになる。ただし、中毒者とされるポイントは、性癖のアブノーマルさではなくて、嗜癖がマイルドなものであれ何であれ、満足を感じられないままエロ動画をザッピングし続けるところにある。

  ポルノ中毒は今世紀に普及した高速インターネット回線なしにはありえなかったという。こそこそとエロVHSをビデオレンタルすることで満足していた世代(僕だ)や、ポルノ動画へのアクセスが限られていたもっと以前の世代は、思春期に大量のエロ動画にさらされた今の若年層より中毒度が低いとのことである。推奨される解決策も簡単である。ネットポルノの鑑賞を止めてオナ禁をすればよい。回復に必要な日数は中毒の程度によって異なり、数日から数か月程度である。禁断症状がなくなれば、日常生活において活力が戻り、生身の女性に対して勃起できるようになるという。

  以上のような議論を、研究論文のレビューと、運営サイトからの書き込み情報から裏付けようとしている。ただし、中毒症状に関する議論は手堅い一方で、ポルノ絶ちとオナ禁が効果的だという証拠は「回復者の報告のみ」でかなり弱い。まあ、その方法のコストが高いわけでもなく、ちゃんとした比較対照実験ができる領域でもないだろう。ということで暫定的に信用してもいいのかもしれない。

  問題はむしろ、女性とセックスする機会が無いという男性もまた、その中毒を克服したほうがいいのか、ということだ。生身の女性への性欲を抱えた非モテを誕生させることになるのだが、非モテ本人にとっても性欲を向けられた女性にとっても負担であるように思える。もちろん、中毒者とは一線を画す、節度を持って行われる健常者のマスターベーションというのがあるとは思うものの…。倫理とも宗教とも無関係なポルノ排除論は目新しく、評価されるべきだろう。

1) yourbrainonporn.com 日本語版 https://www.yourbrainonporn.com/ja/
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考古学的発見によって補う中国古代史

2021-04-05 08:46:01 | 読書ノート
佐藤信弥『戦争の中国古代史』(講談社現代新書), 講談社, 2021.

  神話の時代から殷、周、春秋戦国、秦、漢の武帝までの古代中国史。著者の専門は殷周時代とのことで、『周:理想化された古代王朝』(中公新書, 2016)、『中国古代史研究の最前線』(星海社新書, 2018)の二つの新書がすでにある。

  統一国家としての中国がどう形成されてきたかを探るのがテーマである。文献資料だけでなく、考古学的な発見も加えて過去を推論してゆく。例えば、発掘資料から、殷の時代には王妃も戦闘要員だったとか、馬にはまだ騎上していなかったなどの議論が展開されている。ただし、このようなトピックは掲げたテーマに比して細かすぎるという気もする。

  春秋時代以降はテーマに沿ったものになる。秦が成立して国土を統一した直後でも、まだ斉と楚といった地方レベルでの「国」意識が強かった。統一国家の仕組みを導入した秦が短期に崩壊したので、当初の漢は各地方に王がいるという群雄割拠状態を認める。武帝の時代になって、地方の豪族を排除し、匈奴を弱体化させることに成功して、ようやく統一中国が安定したものとなったと著者はみる。

  以上。登場人物の解説は大雑把である一方、詳しすぎる部分もある。詳しいところは中国古代史研究の到達点として紹介しておきたかったということなのだろう。とはいえ、ストーリーがあって最後まで読ませるものにはなっている。想像を控えめにした堅実な中国古代史だろう。
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エフェクトをかけたギターの音が遠くでかすかに鳴ってます

2021-04-01 07:00:00 | 音盤ノート
Jakob Bro "Uma Elmo" ECM, 2021.

  コンテンポラリー・ジャズ。デンマークのギタリスト、ヤコブ・ブロによるECM録音五作目(参考)。トランペットと打楽器とのトリオ編成で、Jorge Rossyはブラッド・メルドーとの共演で知られるスペイン人ドラマー、Arve Henriksenは尺八のような音を出すことで知られるノルウェーのトランペット奏者である(本作では普通にトランペットの音を出している)。最近のECMは、LPでの頒布を念頭においた40分前後の録音時間の作品が多かったが、本作は一時間を超える長さとなっている。

  曲はすべてブロ作。音はレーベルとメンツを見ただけで予想できる。暗く、枯れていて、哀愁に満ちた音楽である。楽曲自体は悪くなく、期待通りと言えるのだが...。リーダーのブロに自己顕示欲が欠けるのか、それともレーベルの方針なのか知らないが、ギターの音が遠くて小さい。後ろにまわって空気感を作るタイプのギタリストとはいえ、トランペットが目立ちすぎていて、録音バランスは悪い。"Streams" (ECM, 2016)でもギターの音がかなり小さめだったし、このミキシング方針には不満が残る。そもそも音数の少ないギター演奏なのだから、そのわずかな一音一音が際立つような録り方をしてほしいところだ。

  というわけで、本人がyoutubeにあげているアグレッシブなライブ演奏と比べると、少々不満が残る。ブロが本来持っているサイケデリック感や、エフェクター処理の面白さを殺してしまっている。ECMは信用あるレーベルなんだけれども、ミュージシャンを無理にレーベルカラーにはめてしまうところがあって、この作品がそうである。まあ、考え方を変えて、アルヴェ・ヘンリクセンのアルバムとして聴くならば悪くないかもしれない。
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