29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

一般の日本人の間での発行50年後の超名盤の知名度

2017-03-24 22:39:56 | 音盤ノート
The Velvet Underground & Nico "The Velvet Underground & Nico" Verve, 1967.

  ロック。もはや古典であり、アンディ・ウォーホルによるバナナのジャケットも有名である、と断言したいところだが、ロック史に通じている人以外であまり知っている人はいないようだ。先日、職場で宴会があり、僕と年齢の近い同僚の教員がこのアルバムのジャケットをあしらったTシャツを着て出席していた。しかし、誰も気づかないし、指摘しない。僕が突っ込んであげて、20代の女性職員にこのアルバムの来歴や評価を説明したのだが、彼女たちはどうでもいいという風情だった。アヴァンギャルド?そんなこと考える男って面倒くさそう、というような。

  ヴェルヴェット・アンダーグラウンドは活動期間中まったく注目されなかったグループだが、解散後にメンバーのLou Reedがソロとして活躍するようになって徐々に支持を集めるようになり、1970年代末から80年代にかけてのポストパンク~ニューウェーブ期になると神格化されるようになった。当時Joy DivisionやR.E.Mなど有名どころが彼らの曲をカバーしており、オルタナ系の祖先として崇め奉られるようにまでなっていたのだ。Tシャツの彼も僕も同じ世代としてこの時代の洋楽に親しみがあり、この世代のロック好きにおいて好き嫌い以前にこのアルバムは「常識的知識」として存在していた、のだが。

  しかし現在、ロックは若者の音楽であることをやめ、洋楽なんか聴かないという日本人が増えた。結果、20世紀後半のカウンターカルチャーのこまごまとした知識をため込んだ僕らは、本当に時代遅れのオヤジになったしまったようだ。バナナのTシャツを眺めながら、このような悲しい感慨に襲われた。それとも、オルタナ系統において音楽を追及する若者に対しては、まだこのアルバムはアピールし続けるのだろうか。
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

専門家による社会調査の実践的ノウハウ

2017-03-22 14:09:22 | 読書ノート
岸政彦, 石岡丈昇, 丸山里美『質的社会調査の方法:他者の合理性の理解社会学』有斐閣, 2016.

  社会調査法。方法論的なところから、心構え、細かいノウハウまで、実例を交えながらの記述である。「社会学における質的調査とは」という話から始まって、フィールドワーク、参与観察、生活史の調査の仕方を解説する。岸は戦後の沖縄からの集団就職者の生活史調査の経験を、石岡はマニラの貧困層のボクサーの参与観察の経験を、丸山は女性ホームレスのフィールドワークの経験をネタにしている。

  類書を読んだことがないので比較はできないが、わりと心構え的な話が多いのが特徴的なのではないだろうか。例えば3章では、参与観察で記憶(=記録)しておくべきことは、参与観察中の「気分」だとされる。マニラで貧しいボクサーたちと暮らしていたときの空気感の記憶は、まったく環境の異なる日本での大学教員生活に戻っていざ論文執筆をしようとする際の重要な参照点となったという。このように、客観的とは言えないが、執筆者の経験からくる実践的なアドバイスがところどころちりばめられている点がポイント。依頼の仕方や、人間関係の持ち方、ICレコーダーの置き方、インタビュー中の相槌の入れ方、インタビューのまとめ方など、細ごまとしたところについても説明があり、本書を読めばひととおり社会調査ができそうだという気にさせてくれる(実際にうまくできるかどうかは話が別)。難しすぎること──例えば「二つの対立するグループをそれぞれ調査するときには中立的に振る舞え」など──を無理だと述べているところもよい。

  というわけで内容的に初学者にもフレンドリーで、また読んでいて面白い。人と話すのが苦手なので僕が今後質的調査をすることはないだろうけれども、質的調査の意義ということについてはよく理解できた。本書によれば、それは量的な検証に先行して仮説設定や問題提起を行う方法だということだ。
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

英国風の米国産「異種ジャンル混交」黒人音楽

2017-03-20 23:02:36 | 音盤ノート
Khari Simmons "Sunflower" Miramar, 2013.

  アシッドジャズ。ボサノバを採り入れたフュージョンかつジャズファンク。Khari Simmonsの初ソロアルバムである"Clementine Sun"(Solunari, 2012)の曲順を変更し、追加曲やリミックスを加えた日本編集盤である。ジャケットもジャズレーベルのCTI風に変更されている。ゲストとして、Incognito, Julie Dexter, India.Arie, Sabrina Malheiros, Monday満ちる等が参加している。

  収録12曲中の6曲がシモンズのオリジナル(共作含む)で、残りは他人の作品。Stevie Wonderの'Never in Your Sun'と英国のロックバンドKeaneの'Is It Any Wonder?'のカバー以外は初出不明。Jiva (参考 1 / 2)のサウンドからの大きな変化はないものの、オーガニックな感覚というか「知り合いが集まって作りました」的な手作り感は微妙に後退し、プロフェッショナル音楽家によるジャストなタイム感覚での手練れた演奏を聴かせる。インスト曲ではホーン隊が活躍しており、ジャズ的な面も強く見せる。ソウルとジャズの垣根を気にしない佇まいは米国的というより英国的である。

  良作ながらあっさり気味に展開してしまうJiva二作と比べると、ゲストが多彩なこのソロ作のほうがメリハリがあってより楽しめる。クオリティは高い作品なのだが、注目されないままのようであり、アトランタを離れて英国移住すべきではないか、などといらぬことを考えてしまう。
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

くだけた装いにしては難しい日本の年金制度擁護論

2017-03-17 19:53:21 | 読書ノート
権丈善一『ちょっと気になる社会保障:知識補給増補版』勁草書房, 2017.

  日本の社会保障論。特に年金が中心に論じられる入門書で、初版は2016年発行である。著者は慶應義塾大学の先生でシリーズ『再分配政策の政治経済学』(慶應義塾大学出版会)で知られている。少し前にベストセラーになった細野真宏『「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った?』(扶桑社新書, 2009)に理論と知識を提供していた学者である。

 「年金は破綻しない」という主張が基本線にある。要は年金制度擁護論であり、年金破綻論や抜本的改革論に対する反論が企図されている。積立方式でも賦課方式でも結果に大して違いはない、年金は生活保護と違うものであり額が生活保護より少なくても妥当である、世代間格差は少々気にすべき問題ではあるもののが深刻に考えすぎるべきではない、などなど。全体の1/3が「知識補給」なるコラムとなっており、分かり難い論点について突っ込んで解説している。文中での批判の矛先はマスコミや政治家であって、同じ領域の学者の名を挙げない。個人的にはここにどうも「藁人形論法ぽさ」を感じてしまうのだが、同業者に気を遣ったのか、それとも入門書では不要だと考えたのかどっちなのだろう。

  で肝心な点だが、入門書として十分機能しているかというと微妙である。社会保障の意義の話に限っては理解しやすい説明となっているのだが、日本の年金制度の持続可能性の話はけっこう細かい。提示された個々の結論について説明がいちおうあるものの「もっと詳しい議論は主著の『再分配政策の政治経済学』を読んでください」というパターンで終わることが多く、消化不良気味となる。図表も豊富だが、ややこしくて意味のわからないものもある。簡単に説明することが難しいテーマだとは思うが、もう少し「下りてきてほしい」というのが率直な感想である。
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

初期ダイアナロス・ミーツ・ボサノバ

2017-03-15 21:05:45 | 音盤ノート
Julie Dexter & Khari Simmons "Moon Bossa" Brash Music, 2007.

  R&Bとボサノバの混交。Khari SimmonsはJivaのリーダー。ボーカルをとるJulie Dexterは英国出身の黒人女性歌手で、喉だけで歌う──すなわち全身を使わない、あまりソウルフルではない──初期ダイアナ・ロス系統のボーカルスタイルである。彼女は、現在アトランタ在住らしく、そこでカーリ・シモンズと知り合ったようだ。

  シモンズ作4曲(共作含む)とデクスター作1曲が収録されているけれども、本作はカバー曲が良い。ジョビンの'Wave'は定番だし、セルジオ・メンデスの'Salt Sea'あたりは予想の範囲内だが、Everything But The Girlの'My Baby Don't Love Me'、Basiaの'Promises'、Swing Out Sisterの'Fooled By A Smile'は趣味が分かる選曲である。英国ブルーアイドソウルおよび英国AOR系が好きなわけね。デクスターの控えめですっきりとしたボーカルスタイルはボサノバアレンジとよく調和しており、オリジナルとは異なった魅力を引き出している。特に'My Baby Don't Love Me'はEBTGのオリジナルを超えており実に素晴らしい。これらの他にはリミックス曲がボートラとして収録されている。

  英米盤の曲数は14曲だが、P-Vineによる日本盤は15曲ある。名義も「ジュリー&カーリ」に変更され、ジャケットも日本盤では水色を背景にドリーミーな馬のイラストとなっている──一方、オリジナルの英米盤では二人の写真を掲載している。日本盤ではあまりソウルっぽさを強調したくなかったのだろう。確かに女性ボーカリストによる洗練されたポップアルバムとして非常に聴きやすく、カーリ・シモンズ関連ではこれを最初に手に取るべき傑作だと感じる。

  
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

宇宙における位置から地表・球の中心部まで地球のことなら何でも

2017-03-13 12:59:16 | 読書ノート
鎌田浩毅『地球の歴史』中公新書, 中央公論, 2016.

  タイトル通り。上中下巻の三部構成で、それぞれ『水惑星の誕生』『生命の登場』『人類の台頭』という副題が付されている。著者は京都大学の地学の先生で、けっこうな数の著書(狙ってなのか新書が多い)を出している。

  上巻では、物理学を使って、宇宙の始まりから、銀河系、太陽系の形成までをさらっと述べた後に、地球の成り立ちと地殻変動、水と大気について詳しく解説している。太陽からの絶妙な距離は、地球から水を蒸発させて宇宙に逃すこともせず、一方で氷にもせず、液体のまま地表に存在することを可能にした。これこそが地球の特別なところだという。中巻では、海中火山の傍らで原始的な生命体が誕生して以降の、生命のあゆみについて述べている。生命は、光合成によって地球の大気に酸素をもたらし、石と砂ばかりの地面に海から上陸して地表を変えてきた。一方で、全球凍結や氷河期、火山の噴火などで大量絶滅を数度経験してきたという。下巻は、現在につながる大陸や気候、および日本列島の形成、哺乳類や人類の登場についてである。残り50億年で太陽は巨大化して地球を飲み込む。そのときに地球の歴史は終わる、と締めている。ただし、その前の10億年後の段階で地表の水がすべて蒸発してしまい、あらゆる生命が住めなくなっているという。

  以上のように、人間社会のことが儚く感じられるほどの長いタイムスパンでの議論で、物理化学から地学、生物学の知見を総動員してまとめられている。プレートテクトニクスの解説はかなり丁寧で、大陸が物理法則にしたがって動いているのだというのがよくわかる。一応、一般向けの新書ではあるが、専門用語もふんだんに使われており、分量もあってけっこう硬い。僕のような文系人間は圧倒されてばかりだった。
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

洗練度を高めるも商業的には不発だった新感覚ソウル

2017-03-10 20:29:31 | 音盤ノート
Jiva "Day Into Night" Solunari Music, 2007.

  R&B。Khari Simmons率いる米アトランタのソウル・バンドの二作目。洗練された人力グルーヴを作りだすバンド演奏で、ボーカルも数人入れ代わり立ち代わりで飽きさせない。けれども売れなかったみたいで、その後しばらく活動停止している。

  前作Sun & Moonに比べると、ボサノバ感は後退している。代わってシンセサイザーが目立ち、よりフュージョンに近づいたという印象。どの曲もクオリティが高いけれども、これぞというキラーチューンが無いのは前作と同じ。鮮やかで巧いのだけれどもインパクトがない。上品過ぎるのかもしれないなあ。

  P-Vineによる日本盤解説ではインコグニートが引き合いに出されているが、確かにUKソウルっぽい。なお日本盤にはボートラが一曲付されている。昨年、バンド名をKhari Cabral & Jivaに変えての三作目を発行しているが、Amazon.co.jpでの扱いがない。日本盤も出ないみたいだし、日の目をみないままこのまま埋もれてゆくのだろうか。
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

研究室を引越した。さようなら配電設備

2017-03-08 23:34:05 | チラシの裏
  先月末、研究室を引っ越した。棟は同じだが、西北の部屋から、一つ下の階の南東の部屋に移動した。建物の改築といった物理的な理由以外では、あまり無いことだろう。旧研究室の階の他の研究室は、外国語を専攻する教員が埋めていた。来月4月から3人の新任教員(いずれも外国語の先生)が赴任するのだが、同階の空き研究室は二部屋しかない。新任の一人だけ別の階に研究室を設置するのはかわいそうだ、ということになり、同階で浮いていた図書館情報学専攻の僕が部屋を空けることとなった。

  引越しは面倒ではあったが、メリットもあった。旧研究室は棟の最上階の最北部にあって、いったい誰がこういう設計にしたのか、部屋の北側の壁は配電設備があった。正確には配電設備を覆う三つの扉があり、年に数回、点検のために施設担当者や業者が訪れる。そのため北壁には本棚を置くことができず、収納スペースが制約された。さらに酷いのは、配電設備を覆う扉が、風の強い日になると音を立てて動くことである。どうやら外気が屋上から配電設備のある扉の向こう側に吹き抜けてくるようなのだ。冬や春先の風の強い日などは、ギーギーを音を立てて扉が膨らみ、風が止むとバタンと音を立てて閉まる。これが本当に気持ち悪い。おまけに冬の西北の風を建物の中で最初に受ける位置にあるし、扉から外気が入ってくるしで、エアコンをかけてもなかなか部屋が暖まらず、非常に寒かった。

  これらにもう慣れたとはいえ、研究室移動の機会を常々うかがっていたところだった。そういうわけで、今回の引越しは渡りに船だった。新研究室は東向きで、中には余計な設備がないので、南北どちらの壁にもモノが置ける。僕の旧研究室に入ることになってしまった新任の先生は不運である。旧研究室の唯一のメリットは、空気の澄んだ冬の晴天の日ならば、西向きの窓から遠く彼方に富士山を拝むことができたことである。そんな日は年にそうそうなく、また学内にそのような研究室も多くないので、富士山を目にした瞬間だけはうざい配電盤を許せる気分になる。
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

公的機関はデフォルトルールを設定して人々を誘導すべし

2017-03-06 22:36:09 | 読書ノート
キャス・サンスティーン『選択しないという選択:ビッグデータで変わる「自由」のかたち』伊達尚美訳, 勁草書房, 2017.

  選択アーキテクチャ論。『実践行動経済学』を一歩先に進めて、公的機関が消費者を誘導してもよいケースと駄目なケースを峻別することを試みている。その答えは、選択するのが難しくて時間がかかる場合で、かつ選択することが面白くも楽しくもない場合で、かつ判断を委ねる専門家を信頼できる場合だという。原書はChoosing not to choose: Understanding the value of choice (Oxford Univ. Press, 2015)である。

  上に示したケースでは、政府はデフォルトルールを設定することによって社会福祉を増進させることができるというのが骨子。そのケースとは?選挙の投票のような学習や反省が必要な機会において誘導はよろしくないが、年金や保険プランの選択の場合はデフォルトは効果を発揮する、と。法的に自動車の左側通行を決定するというのもそのケースだが、ちょっと特殊。予想される反論に対しては、デフォルトからは離脱できるのでこれは自由の侵害ではない。デフォルトを設定せずに、能動的選択に任せるのも、選択しないという選択に任せるのも、一種のデフォルトの設定であり、すでに世の中にはデフォルトが満ちている、などと議論を展開してゆく。解説の大屋雄裕も指摘しているが、デフォルトを設定する専門家についての議論は不十分である。「試行錯誤を通じて権限移譲のバランスを決めよ。正しい答えなどない」というのが著者の立場なのだろう。

  政府介入に対して懐疑的な人には新鮮な議論だと思う。ただし、JSミルの『自由論』で定義されるような自由の理解──他者危害がないならば愚行もOKである──が無ければ、その新しさがわからないかもしれない。しかし、まだ理論的には完成途上という印象であり、読んですぐに雌伏させられるというわけではない。一見するとおぞましい「行動を管理されることの安楽と幸福」について考えさせられる。
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

ボサノバ要素ありジャズ要素ありのアトランタ産ソウル音楽

2017-03-03 21:45:06 | 音盤ノート
Jiva "Sun & Moon" Giant Step Records, 2005.

  R&B。ソウル・ミーツ・ボサノバだという話なので聴いてみたが、かなりソウル寄り。裏打ちリムショットぐらいが目立つボサノバ的要素で、初めて聴いたときは英国1980年代のブルーアイドソウル──スタイル・カウンシルとか──を思い出した。とはいえ、こちらの方がソウル度が濃い。爽やかながらも地味で、ジャズ要素もあり、洗練された大人の音楽となっている。

  米アトランタで活躍するKahari Cabral Simmonsをリーダーとするプロジェクトとのことだが、この人のことをよくは知らない。1980年代以降のブラック・コンテンポラリーに典型的だったシンセ+打ち込み、大甘なバラード曲は排されている。代わりに、1970年代初頭のニューソウル的なバンド演奏が展開されており、ベーシストがリーダーなのに予想よりファンキーさが抑えられているのと、エレピの音が目立つ点が耳をひく。曲もミドル・テンポのものが中心で、メロディも情感を抑えめである。渋いというほどではないが、キャッチ―でもないので、慣れないととっつきにくいかもしれない。

  コンセプトが面白い。よく練られたアレンジをすっきりと聴かせる手際は見事であり、かなり良い。しかしながら、キラーチューンが無くて、アルバム全体があっさり流れ過ぎてしまうのが難点。その点だけがとてももったいない。なお、日本盤がP-Vineから発行されており、4曲のボートラが収録されている。英国盤だとボートラ6曲なので、英国Expansion盤を入手したほうがお得である。
コメント
この記事をはてなブックマークに追加