阪本博志編『大宅壮一文庫解体新書:雑誌図書館の全貌とその研究活用』人文書院, 2021.
大宅壮一文庫の利用ガイド。17人の寄稿者によるアンソロジーであり、前半でその沿革・思想・特徴などについて解説し、後半はその蔵書やデータベースを用いた研究事例を紹介している。個々の論文は面白い。しかし、構成に難がある。まず冒頭で示すべきは、国立国会図書館の蔵書や雑誌記事索引と比べたときの大宅壮一文庫の特徴であり、その収集対象と雑誌記事データベースの採録基準の説明だろう、そうでないと初心者には大宅壮一文庫の意義がわからない(「利用料を払ってまで使いたくなるだろうか」)、と思う。しかし、その説明がなされるのは、後半の事例紹介に含まれるIV章の最初の論文においてであり、遅すぎる印象だ。図書館情報学者としてはこの点が気になってしまう。
田中世紀『やさしくない国ニッポンの政治経済学:日本人は困っている人を助けないのか』(講談社選書メチエ), 講談社, 2021.
「日本人は困っている人を助けない」という国際調査の結果から話を起こし、最後にはベーシックインカム導入を提案するという内容である。これら問題提起と結論の間を、山岸俊夫の「安心社会 vs.信頼社会」論、人間が持つ利他主義についての考察、日本人の社会関係資本、利己主義による社会の衰退、というトピックでつないでいる。啓発される箇所もあるが、各トピック間の関係の説明が薄い。社会関係資本の衰退に対する対抗策を考えるならば、ベーシックインカム以外の方法が検討されてもいい。
伊藤昌亮『炎上社会を考える:自粛警察からキャンセルカルチャーまで』(中公新書ラクレ), 中央公論, 2022.
ネット炎上についての論評、およびキャンセルカルチャー論である。炎上の歴史をざっと眺める上では有益である。ただ、炎上行動の原因を著者は「新自由主義」に帰すのだが、説明不足である(「悪いことはなんでも新自由主義のせい」の感がある)。タイムリーなトピックであり、これまでの事例がまとめられていることはとてもありがたいのだけれども、著者が持ち込んだ理論のせいで全体の魅力が損なわれてしまったと感じる。
重田園江『ホモ・エコノミクス :「利己的人間」の思想史』(ちくま新書), 筑摩書房, 2022.
経済学批判。合理的経済人という経済学の仮定を批判するものだが、著者自身が気づいているように、これは昔からよくあるもので手垢にまみれている。そこで本書は、貪欲は悪だという古くからある倫理に立ち返っての検討、ワルラス他による「経済学の限界革命」における数学適用の杜撰さへの指摘、ベッカーやブキャナンのような経済学的分析の応用範囲を他の現象に拡張した論者への批判、の三つの議論でオリジナリティを持たせている。なかなか評価が難しいところがあって、個別のトピックは新しいが、トータルな主張は平凡である。ならば経済政策はどうしたらいいのか、という次の話が欲しくなる。
住吉雅美『あぶない法哲学:常識に盾突く思考のレッスン』(講談社現代新書) , 講談社, 2020.
法哲学。家族で書店に立ち寄ったとき、当時高校に入ったばかりの我が子が読んでみたいというので買った本である。あれから二年の間、積読のまま放置されていたらしい。最近になってブックオフに売り払うと言い出したので譲り受けて読んでみた。自由、平等、正義論、法実証主義、アナーキズムなどなど法哲学のトピックを広く浅くカバーした内容であり、若い人向けの入門書としていいと思う。また、著者のざくばらんな本音を垣間見せる書き方となっていて親しみやすい。我が子としては教科「公民」の副読本になるとの考えだったようだが、読み進められないまま理系を選択してそのまま不要になったしまったとのことである。
大宅壮一文庫の利用ガイド。17人の寄稿者によるアンソロジーであり、前半でその沿革・思想・特徴などについて解説し、後半はその蔵書やデータベースを用いた研究事例を紹介している。個々の論文は面白い。しかし、構成に難がある。まず冒頭で示すべきは、国立国会図書館の蔵書や雑誌記事索引と比べたときの大宅壮一文庫の特徴であり、その収集対象と雑誌記事データベースの採録基準の説明だろう、そうでないと初心者には大宅壮一文庫の意義がわからない(「利用料を払ってまで使いたくなるだろうか」)、と思う。しかし、その説明がなされるのは、後半の事例紹介に含まれるIV章の最初の論文においてであり、遅すぎる印象だ。図書館情報学者としてはこの点が気になってしまう。
田中世紀『やさしくない国ニッポンの政治経済学:日本人は困っている人を助けないのか』(講談社選書メチエ), 講談社, 2021.
「日本人は困っている人を助けない」という国際調査の結果から話を起こし、最後にはベーシックインカム導入を提案するという内容である。これら問題提起と結論の間を、山岸俊夫の「安心社会 vs.信頼社会」論、人間が持つ利他主義についての考察、日本人の社会関係資本、利己主義による社会の衰退、というトピックでつないでいる。啓発される箇所もあるが、各トピック間の関係の説明が薄い。社会関係資本の衰退に対する対抗策を考えるならば、ベーシックインカム以外の方法が検討されてもいい。
伊藤昌亮『炎上社会を考える:自粛警察からキャンセルカルチャーまで』(中公新書ラクレ), 中央公論, 2022.
ネット炎上についての論評、およびキャンセルカルチャー論である。炎上の歴史をざっと眺める上では有益である。ただ、炎上行動の原因を著者は「新自由主義」に帰すのだが、説明不足である(「悪いことはなんでも新自由主義のせい」の感がある)。タイムリーなトピックであり、これまでの事例がまとめられていることはとてもありがたいのだけれども、著者が持ち込んだ理論のせいで全体の魅力が損なわれてしまったと感じる。
重田園江『ホモ・エコノミクス :「利己的人間」の思想史』(ちくま新書), 筑摩書房, 2022.
経済学批判。合理的経済人という経済学の仮定を批判するものだが、著者自身が気づいているように、これは昔からよくあるもので手垢にまみれている。そこで本書は、貪欲は悪だという古くからある倫理に立ち返っての検討、ワルラス他による「経済学の限界革命」における数学適用の杜撰さへの指摘、ベッカーやブキャナンのような経済学的分析の応用範囲を他の現象に拡張した論者への批判、の三つの議論でオリジナリティを持たせている。なかなか評価が難しいところがあって、個別のトピックは新しいが、トータルな主張は平凡である。ならば経済政策はどうしたらいいのか、という次の話が欲しくなる。
住吉雅美『あぶない法哲学:常識に盾突く思考のレッスン』(講談社現代新書) , 講談社, 2020.
法哲学。家族で書店に立ち寄ったとき、当時高校に入ったばかりの我が子が読んでみたいというので買った本である。あれから二年の間、積読のまま放置されていたらしい。最近になってブックオフに売り払うと言い出したので譲り受けて読んでみた。自由、平等、正義論、法実証主義、アナーキズムなどなど法哲学のトピックを広く浅くカバーした内容であり、若い人向けの入門書としていいと思う。また、著者のざくばらんな本音を垣間見せる書き方となっていて親しみやすい。我が子としては教科「公民」の副読本になるとの考えだったようだが、読み進められないまま理系を選択してそのまま不要になったしまったとのことである。