呉座勇一『頼朝と義時:武家政権の誕生』(講談社現代新書) , 講談社, 2021.
武士による全国統治がどのように成立したかを、源頼朝と北条義時の生涯を辿りながら跡付けるという歴史書である。個人的に、この著者の本を読むのは五冊目(参考: 1 / 2 / 3 / 『応仁の乱』(中公新書:エントリなし))となる。複数出版されている、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の便乗本のうちの一つであるが、ライバルとなる他の本については読んでいない。
武家政権は朝廷からの段階的な権限の委譲によって永続化したものであり、頼朝は意図して武士の支配を作り上げたわけではなかった、というのが全体としての主張である。だが、この主張は近年の歴史教科書で示唆されていることと同様であり、目新しいとは言えない。本書の価値は、画期となる合戦や権限移譲がどのように起こったのかを細かく記して、読者にわかりやすく提示しているところである。これまで京都の華美を嫌ったとされてきたが、頼朝は朝廷の権威を上手く利用しており、公家文化に対して否定的ではなかった。北条義時も、承久の乱までは朝廷と良好な関係を望んでいた、という指摘もある。著述スタイルはこう。一次資料(『吾妻鏡』『平家物語』や日記類など)を参照しつつ、資料執筆者の政治立場上の偏りを指摘し、他の歴史研究者の学説を並べて一番合理的な解釈はこれだ、と判定していく。この点で歯切れがよく、「富士川合戦で頼朝軍は主力ではなかった」など意外な指摘もあって、読ませる。
ただ全体の読後感は「旧弊な時代が終わり新しい時代が到来した」というようなさわやかなものではない。源頼朝も北条一族も、平氏を滅亡させたというだけでなく、味方であったはずの同僚・同族・親族・兄弟をあれこれ難癖つけて殺しまくっている。鎌倉幕府が全国の武士に支持されて安定したのはおそらくこういうことだろう。身内重視で部外者には冷たい平氏とは対照的に、血縁にも容赦ない源氏のほうが部外者にとっては公平で開放的に見えたというような。
武士による全国統治がどのように成立したかを、源頼朝と北条義時の生涯を辿りながら跡付けるという歴史書である。個人的に、この著者の本を読むのは五冊目(参考: 1 / 2 / 3 / 『応仁の乱』(中公新書:エントリなし))となる。複数出版されている、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の便乗本のうちの一つであるが、ライバルとなる他の本については読んでいない。
武家政権は朝廷からの段階的な権限の委譲によって永続化したものであり、頼朝は意図して武士の支配を作り上げたわけではなかった、というのが全体としての主張である。だが、この主張は近年の歴史教科書で示唆されていることと同様であり、目新しいとは言えない。本書の価値は、画期となる合戦や権限移譲がどのように起こったのかを細かく記して、読者にわかりやすく提示しているところである。これまで京都の華美を嫌ったとされてきたが、頼朝は朝廷の権威を上手く利用しており、公家文化に対して否定的ではなかった。北条義時も、承久の乱までは朝廷と良好な関係を望んでいた、という指摘もある。著述スタイルはこう。一次資料(『吾妻鏡』『平家物語』や日記類など)を参照しつつ、資料執筆者の政治立場上の偏りを指摘し、他の歴史研究者の学説を並べて一番合理的な解釈はこれだ、と判定していく。この点で歯切れがよく、「富士川合戦で頼朝軍は主力ではなかった」など意外な指摘もあって、読ませる。
ただ全体の読後感は「旧弊な時代が終わり新しい時代が到来した」というようなさわやかなものではない。源頼朝も北条一族も、平氏を滅亡させたというだけでなく、味方であったはずの同僚・同族・親族・兄弟をあれこれ難癖つけて殺しまくっている。鎌倉幕府が全国の武士に支持されて安定したのはおそらくこういうことだろう。身内重視で部外者には冷たい平氏とは対照的に、血縁にも容赦ない源氏のほうが部外者にとっては公平で開放的に見えたというような。