湯元健治, 佐藤吉宗『スウェーデン・パラドックス:高福祉、高競争力経済の真実』日本経済新聞出版, 2010.
スウェーデンの経済・福祉制度の研究。今から10年前に出版されたもので、最終章は当時の民主党政権に対する提言となっている。著者二人とも京大経済学部出身だが、湯元の方は1957年生まれでシンクタンク研究員をやって小渕首相時の経済戦略会議に関わったというキャリアの持ち主。もう一人の佐藤は、1978年生まれでスウェーデンで研究員をやっているとのことである。
本書で描かれるスウェーデン像は、弱者にやさしい平等志向の福祉国家ではなくて、生き残りのために奮闘する企業のような国家である。生産性を高めるというのが第一で、そのためにできるだけ多くの国民を就労させつつ、効率の悪い企業には退場してもらう。雇用面での企業への負担は確かに大きいが、一方で国際競争力を失わないように法人税率は低く抑えられている。所得税や社会保障負担は累進性が小さくて定率であることが多く、年金収入にも課税されるという。すなわち格差を是正するような作りではなく、決して平等志向とは言えない。また、手厚いのは働ている低所得層への支援であり、高齢者や障害者など働くことが難しい層を除けば、働く気のない国民に多くを与える制度にはなっていない。教育・訓練機会も雇用のために提供されており、すべてにおいて生産年齢人口が「失業状態に滞留する」リスクを低めるよう設計されているのだ。政府は、弱者を弱者のままにとどめ置こうとしない。こうした路線(いわゆる第三の道路線)は1990年代初頭から現在に至るまで続ているという。
以上。スウェーデンでは就労インセンティブを失わないように細かく社会制度の設計がされていることがわかるのだが、日本が真似なんかできないよね、と思う。ただし、女性も高齢者も働かざるを得ない社会というのは、2010年代の日本でも進展したことであり、高齢化した福祉国家では避けられない方向であることが確認できる。あとは、生産的で効率的な経済の実現という面での前進が日本では求められることなのだが、どこから手を付けたらわからない(それとも、わかっているけれども抵抗が大きくて手が付けられない?)というのが日本の現状なのだろう。
スウェーデンの経済・福祉制度の研究。今から10年前に出版されたもので、最終章は当時の民主党政権に対する提言となっている。著者二人とも京大経済学部出身だが、湯元の方は1957年生まれでシンクタンク研究員をやって小渕首相時の経済戦略会議に関わったというキャリアの持ち主。もう一人の佐藤は、1978年生まれでスウェーデンで研究員をやっているとのことである。
本書で描かれるスウェーデン像は、弱者にやさしい平等志向の福祉国家ではなくて、生き残りのために奮闘する企業のような国家である。生産性を高めるというのが第一で、そのためにできるだけ多くの国民を就労させつつ、効率の悪い企業には退場してもらう。雇用面での企業への負担は確かに大きいが、一方で国際競争力を失わないように法人税率は低く抑えられている。所得税や社会保障負担は累進性が小さくて定率であることが多く、年金収入にも課税されるという。すなわち格差を是正するような作りではなく、決して平等志向とは言えない。また、手厚いのは働ている低所得層への支援であり、高齢者や障害者など働くことが難しい層を除けば、働く気のない国民に多くを与える制度にはなっていない。教育・訓練機会も雇用のために提供されており、すべてにおいて生産年齢人口が「失業状態に滞留する」リスクを低めるよう設計されているのだ。政府は、弱者を弱者のままにとどめ置こうとしない。こうした路線(いわゆる第三の道路線)は1990年代初頭から現在に至るまで続ているという。
以上。スウェーデンでは就労インセンティブを失わないように細かく社会制度の設計がされていることがわかるのだが、日本が真似なんかできないよね、と思う。ただし、女性も高齢者も働かざるを得ない社会というのは、2010年代の日本でも進展したことであり、高齢化した福祉国家では避けられない方向であることが確認できる。あとは、生産的で効率的な経済の実現という面での前進が日本では求められることなのだが、どこから手を付けたらわからない(それとも、わかっているけれども抵抗が大きくて手が付けられない?)というのが日本の現状なのだろう。