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図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

産業革命以降の各国人口の盛衰には共通パターンあり

2023-04-14 21:22:53 | 読書ノート
ポール・モーランド『人口で語る世界史』(文春文庫)渡会圭子訳, 文藝春秋社, 2023.

  英国の人口学者による世界人口史。ただし産業革命以降の人口転換現象に焦点を充てており、それ以前の変化の少ない(と考えられる)時代は扱っていない。原書はThe human tide: how population shaped the modern world (John Murray, 2019)で、邦訳は2019年に文藝春秋社から発行されている。

  近代化以降の人口の変化にはパターンがあり、まずは栄養状態や衛生状態の改善によって乳児死亡数の減少と寿命の延長がやってきて、一時的に国内の人口が激増する時代が来るという。その後は、女子教育の普及によって特殊合計出生率が低下し(先進国ならば2人以下に、そうでない国でも3人以下になる)、高齢者が多くを占める社会となる。こうしたパターンは英国が先陣を切り、ヨーロッパ、北米、東アジアが追従した。東南アジア、ラテンアメリカ、中近東もこのパターンを踏襲しつつあり、南アジアやサハラ以南のアフリカも最終的には同様のことになるだろうと予言している。基本的なところは共通しているが、宗教や文化による微妙な違いもあるというので、優生学や移民ほか、イスラエル保守派の多産傾向やロシア人男性の短い寿命などが取り上げられている。また、若年層が人口の多くを占める国は政情が不安定になりやすいとのこと。日本についての記述も多い。

  以上。中国や韓国の少子化の話は知っていた一方、なんとなく「イスラム教の国は今後も人口が増える」というイメージを持っていた。だが、インドネシアやイランもまた少子化に向かっているとのこと。宗教がどうあろうと、女子教育が進むと子どもの数は減るというのが著者の分析である。「少子高齢化で福祉国家はどう維持するのか」という疑問に対しては「高齢化がもっとも進んでいる日本の動向が注目される」(超要約)だってさ。
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1993年原著刊行の米国郊外論、郊外育ちには刺さる

2023-04-05 14:25:16 | 読書ノート
大場正明『サバービアの憂鬱 :「郊外」の誕生とその爆発的発展の過程』(角川新書), KADOKAWA, 2023.

  米国郊外論。ただし現地取材や統計データはない。1950年代から90年代初頭までの米国文学と映画を通してみる郊外の栄光と挫折の歴史である。著者は映画評論家で、ブログ(https://www.c-cross.net/)も運営している。なお、本書の原著の出版は1993年(東京書籍)となっている。

  20世紀半ばの米国では、治安の面で危険でかつ不衛生な都市に対して、安全かつ清潔な郊外での生活が理想化された。一方で、そこでの生活に物足りなさや欺瞞を感じる住民も常に存在してきた。というわけで、彼らをクローズアップした小説や映画が米国の20世紀後半に多く作られる。取り上げられているのは、ジョン・アップダイク、レイモンド・カーヴァー、『泳ぐひと』『ハロウィン』『ピンク・フラミンゴ』『未知との遭遇』『E.T.』『普通の人々』『フェリスはある朝突然に』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『ブルーベルベット』『エルム街の悪夢』『シザーハンズ』などなどである。本書はこれら記号を見てわかる人向けだろう。

  それら作品では、豊かさのなかでの家庭の崩壊や隠された悪や狂気などが描かれる。僕も団地から新興住宅地に移住した家庭に育った人間なので、上に挙げた作品は若いころの自分によく「刺さった」。本書はその理由をうまく説明してくれており、たびたびなるほどと思わされた。付きっぱなしのテレビ、威厳を失った父親または父親の不在、体育会系のモテ男と文化系の陰キャの対立、格差の隠ぺい、指摘されてみるといろいろ心当たりがある。

  ただし、面白いと感じられたのは僕がバブル期前後に青春時代を送ったせいかもしれない。1970年代~1990年代まで日本でも郊外が膨張し続けていて、1990年代の宮台真司や三浦展の郊外論が非常に刺激的に感じられた。しかしながら、現在では都市が清潔になり住みやすくなった。いまや郊外は刺激のある「街」から遠く離れた退屈な辺境にすぎなくなった。というわけで、現在の若い人が読んでも面白いかどうかは保証できない。
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2023年1月~3月に読んだ本についての短いコメント

2023-04-01 11:15:01 | 読書ノート
マイケル・シュレージ『レコメンダ・システムのすべて:ネットで「あなたへのオススメ」を表示する機能』(ニュートン新書), 椿美智子監訳 ; 杉山千枝, 山上裕子訳, ニュートンプレス, 2023.

  レコメンド機能についての入門書。定義、歴史、仕組み、実装例についての解説がある。だが、仕組みについては簡単な言葉による説明があるだけで、関連する概念を把握できるものの、「わかる」というレベルには達しない。Netflix、Amazon、Spotifyといった業界覇者のコンセプト作りと実装例のほうが読みどころである。「ニュートン新書」なるこのトマト色の新書シリーズは昨年から書店で見かけるようになった。だが、一部のタイトルは、新書によくある書下ろし(翻訳書なので初の訳書というべきか)ではなく、既刊書籍を元にしている。タイトルを変えてシリーズに収録しているので注意が必要だ。

小林昌樹『調べる技術:国会図書館秘伝のレファレンス・チップス』皓星社, 2022.

  国立国会図書館でレファレンスを担当していた著者(「近代出版研究会」の主宰の一人)が、情報探しのノウハウを開陳するという内容。中島玲子ほかの『スキルアップ! 情報検索:基本と実践』が初心者向けだとしたら、こちらは上級者向けである。NDCをすでにマスターしていて、ある程度検索スキルがあり、にもかかわらず調べもので苦しんだ経験という人向けだろう。図書館現場のレファレンス担当者ならば刮目して読んでいるだろうな。わりとざっくばらんな書き方で親しみやすい。売れているようなので続編も期待。

前嶋和弘 『キャンセルカルチャー:アメリカ、貶めあう社会』小学館, 2022.

  米国ポリコレ事情。著者は上智大学教授で、アメリカ政治と外交の専門家。「キャンセルカルチャー」そのものの説明もあるが、その背景となるアメリカの政治的分断についてより詳しい。批判的人種理論の教育の場への浸透、共和党と民主党の間の政策の違いが年々大きくなっていっていること、妊娠中絶、メディア、BLM運動、銃規制などのトピックを扱っている。著者はキャンセルカルチャー支持派であり、反対派を保守派に結びつけて人口構成上滅んでゆくと見ている。が、その見立てはどうかなあ。オバマ前大統領だって反対派と言える発言をしている。アイデンティティポリティクスには優遇措置を求めるところもあって、その点で平等を支持する人たちが素直に納得しないだろう。

平山瑞穂 『エンタメ小説家の失敗学:「売れなければ終わり」の修羅の道』(光文社新書), 光文社, 2023.

  売れたことのないエンタメ小説家が「自分の本がなぜ売れなかったのか」を反省した本。純文学志望だったのにエンタメ小説のコンクールの賞をもらってデビューしてしまった...という最初のエピソードから暗雲が立ち込めているのだが、その後は出版社あるいは編集者との関係、装丁やタイトルなど細々としたボタンのかけ違いの話が続く。特に、エンタメ小説家であるにもかかかわらず、創作上のこだわりが強くて読者のニーズに応えられないという作者の性格、これが読んでいてセールス低迷の最大の原因に思えた。あと、生真面目な書きぶりで、不幸ネタを読ませるならもう少しユーモアがほしいとも思う。お金の話がないのが最大の不満だが、文芸出版社の「編集」がどういうものかは理解できてためになる。

佐野亘, 山谷清志監修 ; 岡本哲和編著『政策と情報』(これからの公共政策学 6), ミネルヴァ書房, 2022.

  公共政策学の視点から「情報のための政策」と「政策のための情報」についてまとめた4人の研究者による共著。情報公開、公文書管理、政府のDX化、オープンデータ、EDPM、政策形成と情報の関係などについて通覧できる。この、情報が政治に関わるトピックを「通覧できる」というのが最大のメリットで、個々のトピックについてはしっかりとした説明があるものの、掘り下げて論じられているわけでもない。章の最後に読書案内と練習問題が付されていて、学部生向けの教科書である。


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