東京大学社会科学研究所編, ベネッセ教育総合研究所編『子どもの学びと成長を追う:2万組の親子パネル調査から』勁草書房, 2020.
教育学。ベネッセと東大によるパネル調査の中間報告である。小学一年生から高校三年生の児童生徒を対象とした調査で、一学年毎に1500人~2000人というサンプルサイズであるとのこと(全体で2万を超える)。年度が変われば新たに小学一年生となった児童のサンプルを加えてゆき、高校三年生以上は対象から外してゆく。最初の年度は2015年で、今年度で6年目となる。
前半では調査の概要と、クロス集計の結果について解説している。成長につれて、親とではなく一人で過ごす時間が多くなり、図書館などの公共施設の利用は減少するという(3章)。成長するにつれて、勉強が嫌いになっていき、自信がなくなる(4章)。育児を通して親が成長する(5章)。自分の将来について、男子は地位達成を重視し、女子は地元にとどまることと資格取得を重視する傾向がある(6章)。前半最後となる7章は、語彙力テストおよび読解力テストの結果と関連する要因を調べたものである。それによれば、本や新聞を読んでいると語彙や読解力の点数はあがるが、マンガや雑誌を読んでも影響はない(相対的に点数が高くなることも下がることもない)とのこと。
後半では多変量解析を行った結果について解説している。「調べる」という態度は、家庭の社会経済的地位が高いほど幼い時期から身についており、また早生まれはそれを身につけるうえで不利である(8章)。進路決定において、子どもは親の影響を受けるものの、両者の関係が良好ならば親が四年制大学を希望していなくても子どもの進学希望が通ることがある(9章)。親の働きかけのうち、子どもの成績に強い影響を持つのは、知的な雰囲気や環境作りなどの間接的な方法ではなく、直接的に教育熱心な態度を示すことである(10章)。在籍する高校のレベルによって、進路の決定時期や、家庭の影響の仕方が異なってくる(11章)。勉強する意欲がわかない場合、小学生と中学生に限れば、問題の解き方を先に提示することで動機づけられることがある(12章)。なりたい職業は親の社会経済的地位(SES)に影響される(13章)。同じく、SESによって進学先の高校が変わってくる(15章)。
面白かったのが14章で、部活動の勉強への影響を探っている。学校の現場には「部活は勉強のジャマになっていない」「部活を頑張った人は引退後に勉強を頑張る」という二つの神話が流布しているという。この神話を、セレクション・バイアス──もともと頑張ることのできる生徒が勉強も部活も熱心に取り組んでいる可能性──を取り除いて検証してみたところ、次のようになった。まず部活が勉強の邪魔になるかどうかについてだが、やはり高校では部活によって勉強時間が削られる一方、中学では影響はないという。次に熱心に部活をやってきた生徒は引退後に勉強を頑張るかどうかだが、「2年生の終わりまで続けた生徒に限る」という条件付きで正しいという(彼らは引退後に勉強時間が増加する)。
以上。凄い発見というものはないけれども、たぶんそうだろうと考えられてきたことが数字で裏付けられたり、または微修正されたりしているところが評価すべき点だろう。今後の報告も期待である。そういえば慶應の先生もパネル調査をしていたはずだが、どうなったのだろうか(参考)。
教育学。ベネッセと東大によるパネル調査の中間報告である。小学一年生から高校三年生の児童生徒を対象とした調査で、一学年毎に1500人~2000人というサンプルサイズであるとのこと(全体で2万を超える)。年度が変われば新たに小学一年生となった児童のサンプルを加えてゆき、高校三年生以上は対象から外してゆく。最初の年度は2015年で、今年度で6年目となる。
前半では調査の概要と、クロス集計の結果について解説している。成長につれて、親とではなく一人で過ごす時間が多くなり、図書館などの公共施設の利用は減少するという(3章)。成長するにつれて、勉強が嫌いになっていき、自信がなくなる(4章)。育児を通して親が成長する(5章)。自分の将来について、男子は地位達成を重視し、女子は地元にとどまることと資格取得を重視する傾向がある(6章)。前半最後となる7章は、語彙力テストおよび読解力テストの結果と関連する要因を調べたものである。それによれば、本や新聞を読んでいると語彙や読解力の点数はあがるが、マンガや雑誌を読んでも影響はない(相対的に点数が高くなることも下がることもない)とのこと。
後半では多変量解析を行った結果について解説している。「調べる」という態度は、家庭の社会経済的地位が高いほど幼い時期から身についており、また早生まれはそれを身につけるうえで不利である(8章)。進路決定において、子どもは親の影響を受けるものの、両者の関係が良好ならば親が四年制大学を希望していなくても子どもの進学希望が通ることがある(9章)。親の働きかけのうち、子どもの成績に強い影響を持つのは、知的な雰囲気や環境作りなどの間接的な方法ではなく、直接的に教育熱心な態度を示すことである(10章)。在籍する高校のレベルによって、進路の決定時期や、家庭の影響の仕方が異なってくる(11章)。勉強する意欲がわかない場合、小学生と中学生に限れば、問題の解き方を先に提示することで動機づけられることがある(12章)。なりたい職業は親の社会経済的地位(SES)に影響される(13章)。同じく、SESによって進学先の高校が変わってくる(15章)。
面白かったのが14章で、部活動の勉強への影響を探っている。学校の現場には「部活は勉強のジャマになっていない」「部活を頑張った人は引退後に勉強を頑張る」という二つの神話が流布しているという。この神話を、セレクション・バイアス──もともと頑張ることのできる生徒が勉強も部活も熱心に取り組んでいる可能性──を取り除いて検証してみたところ、次のようになった。まず部活が勉強の邪魔になるかどうかについてだが、やはり高校では部活によって勉強時間が削られる一方、中学では影響はないという。次に熱心に部活をやってきた生徒は引退後に勉強を頑張るかどうかだが、「2年生の終わりまで続けた生徒に限る」という条件付きで正しいという(彼らは引退後に勉強時間が増加する)。
以上。凄い発見というものはないけれども、たぶんそうだろうと考えられてきたことが数字で裏付けられたり、または微修正されたりしているところが評価すべき点だろう。今後の報告も期待である。そういえば慶應の先生もパネル調査をしていたはずだが、どうなったのだろうか(参考)。