29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

行動遺伝学の現時点での成果について詳しい

2023-07-08 15:54:17 | 読書ノート
安藤寿康『能力はどのように遺伝するのか:「生まれつき」と「努力」のあいだ』(ブルーバックス), 講談社, 2023.

  行動遺伝学。著者は2000年に『心はどのように遺伝するか』をブルーバックスから上梓しているが、その間の20年以上の研究の進展を伝えるものとなっている。ブルーバックスでの前著は、遺伝の影響が「ある」ということと、それをどう計算するのかについて詳しかったような印象(うろ覚え)があるが、この新著では、遺伝がどのように発現するのかの生物学的な説明、また環境と作用するというのはどういうことかの説明に詳しい。

  全体を貫くのは複数の遺伝子が関係して表現型となるというポリジーンである。知能やうつ病がそうであり、全体として関連する特徴は正規分布している。上位層または下位層は目立ちやすいけれども、彼らは特定の環境に置かれることによってその能力を上手くマネタイズできたり、あるいはうつ病に陥ったりしているのである。ゲノム解析によって、そうした複数の遺伝子の一部を特定できているけれども、まだまだ明らかにされていない遺伝子も多いらしい。もちろん環境の影響もある。ただし、環境の影響が強くでるのは、環境が悪い(ストレスフル)場合であるとのこと。

  で、これまたうろ覚えで申しわけないのだが、一卵性双生児の類似度を説明する際の「共有環境」の割合が高くなっているような気がするのだが、どうなんだろうか。著者のこれ以前の書籍だと、遺伝が半分で次に非共有環境の影響が強く、共有環境の影響はほとんどない、というような感じだったと思う。それがこの本では、IQに限れば遺伝50%、共有環境35%、非共有環境15%になっている。うーむ、共有環境の影響がほとんどないというのは、パーソナリティに限った話だったかもしれない。
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2023年4月~6月に読んだ本についての短いコメント

2023-07-04 18:40:12 | 読書ノート
アレッサンドロ・マルツォ・マーニョ 『初めて書籍を作った男 アルド・マヌーツィオの生涯』清水由貴子訳, 柏書房, 2022

  ルネサンス期ベネチアの出版業者アルド・マヌーツィオの伝記。もともとはローマでギリシア語教師をやっていて、貴族の子弟の家庭教師として信用と資金を得て、出版を始めたのは人生の後半になってからとのこと。個人的には「小型本を作った人物」とだけ聞き及んでいたが、本書を読めばこのほかにもいろいろ業績があることがわかる。コンマ、ページ番号、美しいフォントの開発、ギリシア古典の普及、優れた銅版画などなど。小型本の価格はけっこう高価だったらしい。

エリック・バーカー『残酷すぎる人間法則:9割まちがえる「対人関係のウソ」を科学する』橘玲監修 ; 竹中てる実訳, 飛鳥新社, 2023

  自己啓発書。『残酷すぎる成功法則』の続編で、原書はPlays well with others (Harper One, 2022)。トピックとして、相手の本音をどう読むか、友人関係、恋愛関係、孤独の四つを扱っている。面白くないわけではないけれども、それほど情報量が豊富というわけではない。これよりちょい難しめだが、人間関係論ならばロビン・ダンバーの 『なぜ私たちは友だちをつくるのか』のほうが役に立つと思う。ただし、最後の章の、コミュニティに帰属してそこでの義務を果たすという生き方を薦めるあたりは、歳をとった身としてそうだよなあと同意してしまうところ。  

若杉実『渋谷系』シンコーミュージック, 2014

  1990年代前半に流行した音楽ムーブメント「渋谷系」。その栄枯盛衰についてインタビューをを元にまとめた内容。といっても、フリッパーズ・ギターといったメジャーなミュージシャンの活動をフォーカスするものではなく、レコード店やクラブ、ミニコミ誌など「渋谷系」を輪郭づける様々な活動について詳しい。この点、何が「渋谷系」のブームを支えていたのかがよくわかって視野が広がる喜びあるものの、音楽的な分析を期待する者の興味には十分応えられていないという評価も下せる。副題をつけるとよかったかな。

山内太地『偏差値45からの大学の選び方』(ちくまプリマ―新書), 筑摩書房, 2023

  大学ジャーナリストによる受験指南。タイトルにあるように、旧帝国大学やGMARCH以上を狙う受験エリート向けではなく、偏差値50前後の層を読者対象とする内容である。ペーパーテストでは入学できそうもない大学でも、よく調べればAO入試などの学力勝負を回避できる受験方式が用意されており、そうしたルートでチャレンジしてみろとのアドバイス。とはいえ、やはり高偏差値大学は難しい。というわけで受験生の視野に入ることの少ない「あまり有名ではないけれども特色のある大学」が大量に紹介されている。
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